復讐令嬢の甘く美しき鉄槌

きのと

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第4話 法務官side 「美しい女」

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サミュエル・ローズの死が招いた連続殺人事件である可能性を考慮し、カーティスとフォードで被害者遺族にもう一度話を聞きにいったが、心当たりがないとけんもほろろに追い返されただけだった。
ボビー・リッチは学生時代の思い出を少しは話して聞かせてくれたが、当たり障りのないもので、事件の参考にはならない。
ジェシー・ロビンソンは行方不明で所在がつかめなかった。

「手詰まりか」

サミュエル・ローズは、学院の近くの崖から河原に転落し、亡くなっているところを発見された。
伯爵の妹も同じような状況で亡くなっている。
犯人が意図的にやったようにも見えるが、ただの偶然かもしれない。

サミュエルについてもう少し調べてみると、ローズ子爵家のその後がわかった。
跡取りを亡くしたショックから母親が精神的に病み、数か月後、屋敷に油をまき放火したという。その火事で父親も、家令や侍女など使用人も死亡した。妹のシルビアは庭で遊んでいたため無事だった。
妹は親族に引き取られたが、今は王都の外れで一人暮らしているという。

「仕方ない、妹に話を聞きに行くか」

何でもいい、手掛かりが欲しい。
藁にもすがる思いだった。


街の中心から少し外れた森の中に、シルビア・ローズの暮らすその屋敷はあった。
古めかしく、とても手入れが行き届いているとは言い難かった。
元貴族とはいえ、あまり暮らし向きは良くないのかもしれない。

ドアをノックすると、年若い執事が応対した。

「申し訳ございませんが、当家の主は病弱なゆえ、余計な心労をかけるわけにはまいりません。お引き取りを」

有無を言わさず、追い返されそうになるが、カーティスは食い下がった。

「ほんの少しでいいんです、お願いします」
「お断りいたします」
「そこをなんとか」
「お引き取り下さい」

押し問答が続く。

「いいのよ、ルゼック。お通しして」

女の声が聞こえた。

「……かしこまりました」

執事は扉を大きく開けると、法務官を中に通した。

「わたくしがシルビア・ローズです」

カーティスは思わす息を飲んだ。
年齢は20歳くらいだろうか、ほっそりとした身体に、薔薇が咲いたような愛らしい顔立ち。
サファイヤのように青く澄み切った瞳がまっすぐにこちらを見つめている。
粗末な家の中でも彼女は光り輝いていた。
あまりの美しさにカーティスは一瞬で心を奪われた。

「突然の来訪をお許しください。法務官のケビン・カーティスと申します。あなたの亡くなられたお兄様についてお伺いしたいのですが」

声が上ずっているのが自分でもわかる。
他人から話を聞くなど慣れているのに、平常心でいられない。

シルビアはうつむきがちに話し出した。

「ごめんなさい。ご協力したいのは山々なのですが、兄が亡くなった時はわたくしは幼かったし、兄も学生寮にいましたから、一緒に過ごす時間も少なくて、兄のことはよく知らないのです」
「そうですか」
「そのあと、火事で両親も失いました。その時のショックが原因だと思うのですが、わたくし、幼少期の記憶が曖昧で……」
「申し訳ありません。あなたの心の傷を抉るような真似をしてしまいました」

カーティスは頭を下げて詫びた。

「シルビア嬢、なにか私が力になれることがあるでしょうか?」
「法務官様、お優しいのね。わたくし、それだけで救われた気持ちになりますわ」

シルビアは笑顔を作りながら、目にうっすらと涙を浮かべた。
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