4 / 14
第4話 法務官side 「美しい女」
しおりを挟む
サミュエル・ローズの死が招いた連続殺人事件である可能性を考慮し、カーティスとフォードで被害者遺族にもう一度話を聞きにいったが、心当たりがないとけんもほろろに追い返されただけだった。
ボビー・リッチは学生時代の思い出を少しは話して聞かせてくれたが、当たり障りのないもので、事件の参考にはならない。
ジェシー・ロビンソンは行方不明で所在がつかめなかった。
「手詰まりか」
サミュエル・ローズは、学院の近くの崖から河原に転落し、亡くなっているところを発見された。
伯爵の妹も同じような状況で亡くなっている。
犯人が意図的にやったようにも見えるが、ただの偶然かもしれない。
サミュエルについてもう少し調べてみると、ローズ子爵家のその後がわかった。
跡取りを亡くしたショックから母親が精神的に病み、数か月後、屋敷に油をまき放火したという。その火事で父親も、家令や侍女など使用人も死亡した。妹のシルビアは庭で遊んでいたため無事だった。
妹は親族に引き取られたが、今は王都の外れで一人暮らしているという。
「仕方ない、妹に話を聞きに行くか」
何でもいい、手掛かりが欲しい。
藁にもすがる思いだった。
街の中心から少し外れた森の中に、シルビア・ローズの暮らすその屋敷はあった。
古めかしく、とても手入れが行き届いているとは言い難かった。
元貴族とはいえ、あまり暮らし向きは良くないのかもしれない。
ドアをノックすると、年若い執事が応対した。
「申し訳ございませんが、当家の主は病弱なゆえ、余計な心労をかけるわけにはまいりません。お引き取りを」
有無を言わさず、追い返されそうになるが、カーティスは食い下がった。
「ほんの少しでいいんです、お願いします」
「お断りいたします」
「そこをなんとか」
「お引き取り下さい」
押し問答が続く。
「いいのよ、ルゼック。お通しして」
女の声が聞こえた。
「……かしこまりました」
執事は扉を大きく開けると、法務官を中に通した。
「わたくしがシルビア・ローズです」
カーティスは思わす息を飲んだ。
年齢は20歳くらいだろうか、ほっそりとした身体に、薔薇が咲いたような愛らしい顔立ち。
サファイヤのように青く澄み切った瞳がまっすぐにこちらを見つめている。
粗末な家の中でも彼女は光り輝いていた。
あまりの美しさにカーティスは一瞬で心を奪われた。
「突然の来訪をお許しください。法務官のケビン・カーティスと申します。あなたの亡くなられたお兄様についてお伺いしたいのですが」
声が上ずっているのが自分でもわかる。
他人から話を聞くなど慣れているのに、平常心でいられない。
シルビアはうつむきがちに話し出した。
「ごめんなさい。ご協力したいのは山々なのですが、兄が亡くなった時はわたくしは幼かったし、兄も学生寮にいましたから、一緒に過ごす時間も少なくて、兄のことはよく知らないのです」
「そうですか」
「そのあと、火事で両親も失いました。その時のショックが原因だと思うのですが、わたくし、幼少期の記憶が曖昧で……」
「申し訳ありません。あなたの心の傷を抉るような真似をしてしまいました」
カーティスは頭を下げて詫びた。
「シルビア嬢、なにか私が力になれることがあるでしょうか?」
「法務官様、お優しいのね。わたくし、それだけで救われた気持ちになりますわ」
シルビアは笑顔を作りながら、目にうっすらと涙を浮かべた。
ボビー・リッチは学生時代の思い出を少しは話して聞かせてくれたが、当たり障りのないもので、事件の参考にはならない。
ジェシー・ロビンソンは行方不明で所在がつかめなかった。
「手詰まりか」
サミュエル・ローズは、学院の近くの崖から河原に転落し、亡くなっているところを発見された。
伯爵の妹も同じような状況で亡くなっている。
犯人が意図的にやったようにも見えるが、ただの偶然かもしれない。
サミュエルについてもう少し調べてみると、ローズ子爵家のその後がわかった。
跡取りを亡くしたショックから母親が精神的に病み、数か月後、屋敷に油をまき放火したという。その火事で父親も、家令や侍女など使用人も死亡した。妹のシルビアは庭で遊んでいたため無事だった。
妹は親族に引き取られたが、今は王都の外れで一人暮らしているという。
「仕方ない、妹に話を聞きに行くか」
何でもいい、手掛かりが欲しい。
藁にもすがる思いだった。
街の中心から少し外れた森の中に、シルビア・ローズの暮らすその屋敷はあった。
古めかしく、とても手入れが行き届いているとは言い難かった。
元貴族とはいえ、あまり暮らし向きは良くないのかもしれない。
ドアをノックすると、年若い執事が応対した。
「申し訳ございませんが、当家の主は病弱なゆえ、余計な心労をかけるわけにはまいりません。お引き取りを」
有無を言わさず、追い返されそうになるが、カーティスは食い下がった。
「ほんの少しでいいんです、お願いします」
「お断りいたします」
「そこをなんとか」
「お引き取り下さい」
押し問答が続く。
「いいのよ、ルゼック。お通しして」
女の声が聞こえた。
「……かしこまりました」
執事は扉を大きく開けると、法務官を中に通した。
「わたくしがシルビア・ローズです」
カーティスは思わす息を飲んだ。
年齢は20歳くらいだろうか、ほっそりとした身体に、薔薇が咲いたような愛らしい顔立ち。
サファイヤのように青く澄み切った瞳がまっすぐにこちらを見つめている。
粗末な家の中でも彼女は光り輝いていた。
あまりの美しさにカーティスは一瞬で心を奪われた。
「突然の来訪をお許しください。法務官のケビン・カーティスと申します。あなたの亡くなられたお兄様についてお伺いしたいのですが」
声が上ずっているのが自分でもわかる。
他人から話を聞くなど慣れているのに、平常心でいられない。
シルビアはうつむきがちに話し出した。
「ごめんなさい。ご協力したいのは山々なのですが、兄が亡くなった時はわたくしは幼かったし、兄も学生寮にいましたから、一緒に過ごす時間も少なくて、兄のことはよく知らないのです」
「そうですか」
「そのあと、火事で両親も失いました。その時のショックが原因だと思うのですが、わたくし、幼少期の記憶が曖昧で……」
「申し訳ありません。あなたの心の傷を抉るような真似をしてしまいました」
カーティスは頭を下げて詫びた。
「シルビア嬢、なにか私が力になれることがあるでしょうか?」
「法務官様、お優しいのね。わたくし、それだけで救われた気持ちになりますわ」
シルビアは笑顔を作りながら、目にうっすらと涙を浮かべた。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
密会~合コン相手はドS社長~
日下奈緒
恋愛
デザイナーとして働く冬佳は、社長である綾斗にこっぴどくしばかれる毎日。そんな中、合コンに行った冬佳の前の席に座ったのは、誰でもない綾斗。誰かどうにかして。
【完結】離婚を切り出したら私に不干渉だったはずの夫が激甘に豹変しました
雨宮羽那
恋愛
結婚して5年。リディアは悩んでいた。
夫のレナードが仕事で忙しく、夫婦らしいことが何一つないことに。
ある日「私、離婚しようと思うの」と義妹に相談すると、とある薬を渡される。
どうやらそれは、『ちょーっとだけ本音がでちゃう薬』のよう。
そうしてやってきた離婚の話を告げる場で、リディアはつい好奇心に負けて、夫へ薬を飲ませてしまう。
すると、あら不思議。
いつもは浮ついた言葉なんて口にしない夫が、とんでもなく甘い言葉を口にしはじめたのだ。
「どうか離婚だなんて言わないでください。私のスイートハニーは君だけなんです」
(誰ですかあなた)
◇◇◇◇
※全3話。
旦那様の愛が重い
おきょう
恋愛
マリーナの旦那様は愛情表現がはげしい。
毎朝毎晩「愛してる」と耳元でささやき、隣にいれば腰を抱き寄せてくる。
他人は大切にされていて羨ましいと言うけれど、マリーナには怖いばかり。
甘いばかりの言葉も、優しい視線も、どうにも嘘くさいと思ってしまう。
本心の分からない人の心を、一体どうやって信じればいいのだろう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる