復讐令嬢の甘く美しき鉄槌

きのと

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第14話 法務官side 「あきらめきれない想い」 最終話

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「おい、起きろ!」

頬に強い痛みを感じてカーティスは自室のベッドで目を覚ました。

「フォード?」
「3日も欠勤しやがって、死んだんじゃないかと心配したんだぞ」
「3日……?」

そんなに長い間、眠っていたのか。
割れそうに頭が痛い。
身体が強張り、思うように動かない。

「大丈夫か?」
「ああ」
「何かあったんだろ?話してみろ」
「いや、何でもないんだ」
「何でもないわけないだろう」
「すまない、今はまだ話せないんだ」

身体に問題はない、明日から仕事に出られるからと、フォードを追い返した。


ふらふらの体でシルビアの屋敷へ向かったが、すでにもぬけの殻だった。
ほんの数日前まで人が暮らしていたとは考えられないほどに一切の痕跡が消されていた。

階段を上がり、シルビアの寝室だった部屋の扉を開ける。
ここで二人、何度も激しく愛し合った。
いや、愛していたのは自分だけだった。
全部芝居だったのだろう。
情欲を掻き立てる喘ぎ声も、すがるように見つめるまなざしも、背中につけられた爪痕も。
何もかも、カーティスを操るための嘘。

かつてラブレターを忍ばせた文机の引き出しを開けると、そこには伯爵を刺したあの短剣があった。
丁寧に磨かれており、血液の跡はなかった。

ベッドにどさりと腰を下ろし、頭をかきむしる。
ああ、なんてことだろう。
あんな目に遇ったというのに、シルビアが恋しくてたまらない。



***



水分を含んだ潮風がカーティスの頬にあたる。
港は大勢の客と、忙しく働く船員たちでごった返していた。

カーティスは法務官を辞めた。
借りていた部屋も引き払った。
シルビアを追いかけるために。


もう最後の復讐は果たしたのだろうか。


おそらく彼女は迷惑だと思うだろう。
せっかく見逃してやったのにと罵倒してくるだろうか。
いや、今度こそ殺されるかもしれない。

それでもかまわない。
シルビアに会いたい。
もう一度抱きしめられるなら、命を捨てても惜しくない。

カーティスはレニング王国行きの船に乗りこんだ。
出航を告げる汽笛の音が港に響き渡ると、桟橋にとまっていたカモメが一斉に飛び立った。
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