いつになったら、魔王討伐いくんですか勇者様? ~お目付け役賢者の日記~

あざね

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「ついに、魔王が打倒される時がやってくるのですね」
「うむ。先日、神官長のイナンナが報せを持ってきた――勇者が異世界より来たる、と。そして今日、その勇者と思しき若者が発見された」
「そうですね。そのことは私の耳にも届いております国王――カール様」
「ほほう。やはり、そういった情報には強いようだな、アルよ。さすがはこの国一番の賢者、参謀と言ったところか」

 玉座に腰かけた初老の男性は、たくわえられた髭を撫でつつ笑う。
 アルと呼ばれた青年は片膝をつきながら、その男性――カールと言葉を交わしていた。この世界で最も栄えているとはいうものの、決して裕福ではない財政事情。それ故に質素な謁見の間には、彼らの他に数名の兵士しか控えていない。

 それでもカールには国王としての威厳も感じられ、またアルにも齢二十四には似つかわしくない落ち着きがあった。さすがは、最年少でミルドガッドの最高学府を首席で卒業した天童。その噂に違わぬといった雰囲気であった。

「さて。それでは、今後のことについてなのだが――」

 手でアルに起立するよう促したカールは、おもむろにそう切り出す。
 それを受けた賢者は、微笑みを崩さずに立ち上がり、君主の言葉を引き継いだ。

「えぇ。すぐに魔王討伐に赴けるよう、準備を進めております。遅くともアミス神の安息日――すなわち七日の後には進軍を開始できましょう」
「――ふむ。やはり、そなたは仕事が早いな」
「いえ。この程度、造作もないことかと……」

 謙遜するように、アルは苦笑いを浮かべながら頭を垂れる。
 しかしどこか嬉しくも思っているのか、その表情には薄い歓喜が滲み出しているようにも思われた。そういった色が出てしまうあたり、まだまだ未熟な面もあるらしい。

 と、その時であった。
 談笑する二人に向かって、声をかける人物があったのは。

「傍から見たら、男二人で気色悪いですわよ? 国王様、それにアルフレッド」
「おお、イナンナよ。遅かったではないか」

 その人物は、三十代手前の女性――神官長のイナンナであった。
 イナンナはその長く美しい紫色の髪をなびかせつつ、二人の元へと歩み寄ってくる。ややつり目の金色の瞳に、目元にはホクロ。豊かな唇は、魅惑的な紅によって彩られていた。

 背丈は長身痩躯であるアルよりも頭一つ低く、しかし女性にしては高い。たわわな二つの果実も、その女性としての魅力を十分に引き出しているように思われた。
 身にまとう衣服もまた、それを強調するような露出の多いそれ。見知らぬ者が彼女を見たとしたら、いったい誰が神に使える者であると思うであろうか。

「女には準備に時間が必要、なのですよ。男とは違って、ね」

 言って、イナンナは一つウィンクをした。
 アルは思わずドキリとしてしまい、カールに至っては人目をはばからず、文字通りに鼻の下を伸ばしている。それほどまでに、このイナンナという神官長は魅惑的な女性なのであった。
 しかし、いつまでもその色香に当てられている場合ではないと考えたのであろう。いち早くアルは咳払いをし、そして蕩けた表情を浮かべている国王に提言する。

「さて、カール様。役者は揃いました――いま、その勇者様はどこに?」
「おぉ、そうであったな。話を戻すとしよう」

 アルの言葉に、垂れ下がったみっともない表情を引き締めるカール。

「勇者は間もなく、この謁見の間を訪れる、とのことだ。おぉ、噂をすれば――」

 そして、そう言葉を続けた時であった。
 兵士の一人がカールの元へと駆け寄り、何事かを耳打ちしたのは。

「――どうやら、到着したらしい。入ってもらおうではないか」

 彼の声に、場の空気が変わった。
 穏やかなそれから、緊張感に満ちたそれに。
 アル、そしてイナンナもまた、ごくりと喉を鳴らす。

「お通ししろ――勇者様を!」

 そして、ついにその時はやってきたのであった。
 カールが声を上げると、大きな扉が、重厚な音と共に開かれる。

 今この時。
 世界を救うことになる勇者が現れるのであった。
 神に愛され、神に導かれた聖なる者が、今ここにやってきた。

 そして、その者はこう、第一声を上げる。
 はるか遠く異世界『ニホン』よりやってきた者。



 彼は、三人を見据えてこう言ったのであった。




「デュフフフフフフwww拙者が勇者、御堂勇人みどうはやとでござるwww」


 

 ――と。
 三人は硬直した。
 何故ならそこに立っていたのは、

「うはwww玉座って、マジかwwwマジ異世界とかワロタwwwwwww」


 思わず目を背けたくなるような――醜男ぶおとこだったのだから。


 
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