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オープニング
~婚約破棄されました~
しおりを挟む「はぁ、エレミオ様。いまなんと仰いましたか?」
私――エレナ・ファーガソンは呆れてそう言った。
目の前に立つ青年貴族、エレミオ・リードハルトに対して。淡い青の髪をし、小柄なほっそりとした体格の彼は金の瞳に嬉々とした輝きを宿して答えた。
「何度でも言いましょう。ボクは今――キミに婚約破棄を言い渡した!」
大げさに両手を広げて。
その宣告をする自分に酔い痴れるかのように。
自分は正義だと、そう信じて疑わない男の恍惚とした表情であった。
「一応、理由だけはうかがっておきましょうか……」
そんな彼に、私は仕方なしにそう言う。なお、すでに頭が痛い。
しかしそんな私の様子など気にもしないで、エレミオはウキウキとした表情で語るのである。その内容というのも、実はなんとなく理解できるのだけど……。
さて、そんな私の気持ちも把握できない彼はこう言うのであった。
「いやぁ、キミがボクの家の財産を狙っている、という話には驚いたよ。キミの学友――レイラ・フランソワから教えてもらわなければ、とんだ災難に見舞われるところだった」――と。
それは、どう考えても濡れ衣としか思えないモノだった。
正直なところ私は親の決めた結婚に従おうとしていただけで、彼の家の財産なんて興味がない。ファーガソン家の三女として、とりあえず貴族と婚約しただけに過ぎない。それなのに、どうしてそんな話が出てきたのか――レイラ・フランソワ。その名が鍵であった。
「なるほど。レイラの虚言をそのまま信じた、ということですか」
「虚言だって!? 今すぐ、訂正したまえエレナ!!」
「はぁ……」
私の言葉に、キッと目を吊り上げて抗議する優男。
ちなみに補足しておくと、レイラ・フランソワは私の学友ではあるが、そこまで仲の良い女性ではない。その理由というのも、彼女の性格に難があるためだった。
自分が有利になるため、利益を得るためなら、臆面もなく嘘をつく。
正直なところ、女性人気は地に落ちている人物だった。
「……こほん。まぁ、いいだろう」
咳払いをするエレミオ。
彼は仕切り直すように、あるいは確認のために改めてこう言った。
「とにかく! 金輪際、ボクの家の敷居を跨ぐことは許さない! いいな!!」
絶縁宣言。
しかし、私にとってはどうでも良いコトだったため――。
「――あー、はいはい」
なんとも軽い返事をしてしまう。
そしてその日以来、私はこの男と出会うことはなくなったのだった――。
◆◇◆
「――さて、エレナ? お前の今後についてであるが……」
私の父ことダン・ファーガソンは顎鬚を撫でながらそう切り出した。
食卓を囲んで。しかし、場の空気はそこまで重いモノではない。二人の兄も、母も、みなが私の気持ちをしっかりと理解してくれているからだった。
「……どうする? ぶっちゃけ、好きにしていいよ?」
「お父様。せめて、最後まで威厳は保って下さいまし」
唐突に口調が軽くなった父に、私は思わずそうツッコみを入れる。
「いや、だってさ。元々エレミオくんとの結婚には乗り気じゃなかったっしょ? それなら今後は、お前の好きなように生きてほしいなって、そう思うのよ儂は」
「はぁ。好きなように、ですか」
しかし、口調を戻すつもりがないらしい父は、そのままに語る。
仕方ないのでそれを無視して、私は少し考え込む。
「エレナは昔から、アレになりたいと言っていたじゃないか。この際だから、家を飛び出してみるのもいいんじゃないか?」
「アレンお兄様――本気でそう仰っているのですか?」
さて。そうしていると、一番上の兄ことアレンがそう言った。
私は少しだけ眉をひそめて答える。
「そうだね。アレン兄さんの言う通りだよ。アレになるための鍛錬なんて、騎士の僕が引くほどやっていたじゃないか」
「もう。リューク兄様まで……」
さらには、もう一人の兄ことリュークまでそう口にした。
たしかに私は幼少期から『アレ』になりたいと思って、色々と勉学に励んできてはいる。だがそれも、あくまで趣味としての知識であって……。
「お母様は、どう思われますか?」
「あららぁ? わたくし、ですかぁ?」
困り果てた私は、ついに最後の砦である母にそう問いかけた。
ほんわかとした彼女は、う~んと、少しだけ考えてから笑顔でこう述べる。
「エレナちゃんがやってみたいなら、それで良いんじゃないかしら?」――と。
あまりに、気の抜けた声で。
頭の上にお花畑が咲いていそう、とは前々から思っていたが。ここまでか……。
しかし、そこまでとなると。もうその道に進んでも良いような気がしてきてしまった。そう――子供の頃から夢に見てきた、自由の象徴とも呼べる職業。
「それじゃあ、せっかくですし――お言葉に甘えることにします」
そう。私が、子供の頃からなりたかった職業。
それは――。
「――私は、明日から一人の冒険者として、生きますわ」
そう、冒険者。
それが家柄や決め事に縛られてた私の抱いた夢だった。
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――国をも揺るがす、大きなうねりになるなんて……。
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