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もしもの話
神の血
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あと数年で死ぬことを女神に教えられた。
「アド君には3つの選択肢があるの。1つは夢を叶えるために数年後の死を受け入れること。1つは夢を諦めて少しでも長く生きること。最後の1つは、人間を辞めること」
「人間を、辞める?」
「アド君には幸いにも鬼の呪いがかけられている。それを受け入れて鬼を支配すれば、すぐに死ぬことはなくなると思うの。今では紫の髪を持つ子が忌み子と呼ばれているけど、大昔はツノを持つ子が忌み子だったんだの」
「ツノを持つ、人間」
「大昔に鬼人族と呼ばれる種族がいた。見た目は人なんだけど、額に立派なツノを持っていたの。力が強くて短気なんだけど、仲間思いの種族だった。なんやかんやあって滅んじゃったけど、鬼という魔物になって現れるようになったの。だから元を辿れば、鬼の呪いは鬼人族の呪いとも言える」
「呪いを受け入れて鬼人族になれってことか」
「鬼人族はエルフ族には劣るけど長寿でね。400年は生きるだろうし、不老の呪いが有ってもすぐに死ぬことはなくなる、と思う」
「女神のくせに確信はないんだな」
「うん。初めてのことだからね。私にもわからないことはあるさ!」
「流石は駄女神だな。胸を張るところじゃないだろ」
「いや~それほどでも~」
「ほめてねぇよ。で、どうやって受け入れるんだ?」
「簡単なのは不老の呪いを解いちゃうことなんだけど、それだと呪いの反動と一緒に鬼の呪いもアド君に襲いかかるから成功確率は0に等しいと思うの。なので、これを飲んでもらいます!」
「これは?」
「わ・た・し・の・血」
「捨てていいか?」
「ちょ! 痛い思いしてせっかく持ってきてあげたのに!」
「こんなの飲んでバカになったらどうすんだ」
「遠回しに私のことバカにしてるよね!? いくら私でも怒っちゃうぞ! プンプン!」
「……」
「無視はやめてぇ! これ結構恥ずかしいんだよ!?」
「さっさと説明しろ」
「は~い。簡単に言っちゃうと、本当にちょっとだけ神に近い存在になっちゃえば鬼を支配できると思うの。やってみないとわからないんだけどね」
「これを飲むだけで、簡単になれるのか?」
「やったことないからわかんないな~。アド君が、実験体第一号だね」
「そう、か。…夢を叶えたその先も、俺は見てみたい」
女神から渡された小瓶のフタを開ける。血を飲むなんて初めてのことで戸惑ってしまうが、小瓶の口に自分の口を当てて、一気に小瓶の中身を口内に入れる。
ゴクリ、と音を鳴らして女神の血を飲み込んだ。味はよくわからない。
ドクン、と心臓から音が聞こえる。手から小瓶が落ちた。
体に力が入らず、目を開けていられない。
「君の未来を、私は見ることはできない。君がどんな未来を作るのか、私は楽しみで仕方ないよ」
女神が何を言っているのかわからないまま、俺の意識は無くなった。
目を開けると、鎖に繋がれた鬼がいた。泣いているのがわかる。
「何をしにきた?」
「普通に話せるんだな」
「お前の呪いで暴れられないからな。理性を取り戻す時間は、十分にあったというわけだ」
「なら、俺がここにきた理由がわかるんじゃないか?」
「お前は人間を辞めたいのか? 昔は鬼人族と呼ばれていたかもしれないが、今では魔物だ。人ではなくなるんだぞ?」
「別に人であることにこだわって生きてきたわけじゃないからな。俺は夢を叶えることができるなら、魔物にでも悪魔にでもなってやる」
「そんなに夢が大切か?」
「夢は俺の生きる意味だ。叶えられるなら死んでもいいと、この前までは思ってたんだが、夢を叶えた先を見たくなった」
「知っているぞ、人間。好きな女ができたのだろ? いや、好きであることを認めたのか。強欲だな、人間」
「そうだな。俺は強欲だ。だからお前を、支配する」
「できるものならやってみろ! と、言いたいところなんだが、お前のせいで思い出してしまった。我らの夢を」
「鬼人族の夢か?」
「そうだ。お前の夢を叶えた先を見えてやる代わりに、我らの夢を叶えるというのならば、お前に支配されてやってもいい」
「随分と上から目線だな」
「神の血という劇薬を飲んだお前は死ぬ運命にあるのだから、どちらかといえばこちらの方が立場は上だろ?」
「あの駄女神。で、夢の内容は?」
「幸せに死ね」
鬼の言葉を聞き終わると同時に、見慣れた天井が視界に入った。
「幸せに死ねって、どんな夢だよ」
鬼の言葉を思い出して苦笑いを浮かべる。
「お、目を覚ましたね。どうだい? 気分は」
なぜか隣で寝ている駄女神が声をかけてきた。
「さあな。あまり変わった気はしない」
駄女神の行動を気にすることなく体を起こす。体に力がみなぎることはなく、額のツノが伸びていることはない。
「どうやら、うまく言ったみたいだね。アド君の種族が人族でなくて、鬼神族になってるよ~」
「そうなのか? あまり変わった感じはしないが」
「不老のせいだね。寿命は延びたというよりも変わったから呪いの効果は適用されなかったみたいだけど、力をつけることはできなかったみたいだね」
「力をつけられなかったのは残念だが、見た目が変わらなかったのは、いいことだと思うことにするか」
「そだね~。これで君は数年後に死ぬことはなくなった。おめでとうって言っとくよ」
「お前にありがとうとは言いたくないが、助かった。ありがとう」
「いいのいいの! 呪いを掛けたのは私なんだし~」
「そういえばそうだったな。感謝してもしたりないくらいだよ」
「う、うん。どういたしまして。じゃあ、私は帰るね。幸せに死ぬんだよ?」
「それはどういう意味だ?」
「バイバ~イ!」
駄女神は俺の質問に答えることなく消えた。
「幸せに死ねって、女神の言うことかよ」
「アド君には3つの選択肢があるの。1つは夢を叶えるために数年後の死を受け入れること。1つは夢を諦めて少しでも長く生きること。最後の1つは、人間を辞めること」
「人間を、辞める?」
「アド君には幸いにも鬼の呪いがかけられている。それを受け入れて鬼を支配すれば、すぐに死ぬことはなくなると思うの。今では紫の髪を持つ子が忌み子と呼ばれているけど、大昔はツノを持つ子が忌み子だったんだの」
「ツノを持つ、人間」
「大昔に鬼人族と呼ばれる種族がいた。見た目は人なんだけど、額に立派なツノを持っていたの。力が強くて短気なんだけど、仲間思いの種族だった。なんやかんやあって滅んじゃったけど、鬼という魔物になって現れるようになったの。だから元を辿れば、鬼の呪いは鬼人族の呪いとも言える」
「呪いを受け入れて鬼人族になれってことか」
「鬼人族はエルフ族には劣るけど長寿でね。400年は生きるだろうし、不老の呪いが有ってもすぐに死ぬことはなくなる、と思う」
「女神のくせに確信はないんだな」
「うん。初めてのことだからね。私にもわからないことはあるさ!」
「流石は駄女神だな。胸を張るところじゃないだろ」
「いや~それほどでも~」
「ほめてねぇよ。で、どうやって受け入れるんだ?」
「簡単なのは不老の呪いを解いちゃうことなんだけど、それだと呪いの反動と一緒に鬼の呪いもアド君に襲いかかるから成功確率は0に等しいと思うの。なので、これを飲んでもらいます!」
「これは?」
「わ・た・し・の・血」
「捨てていいか?」
「ちょ! 痛い思いしてせっかく持ってきてあげたのに!」
「こんなの飲んでバカになったらどうすんだ」
「遠回しに私のことバカにしてるよね!? いくら私でも怒っちゃうぞ! プンプン!」
「……」
「無視はやめてぇ! これ結構恥ずかしいんだよ!?」
「さっさと説明しろ」
「は~い。簡単に言っちゃうと、本当にちょっとだけ神に近い存在になっちゃえば鬼を支配できると思うの。やってみないとわからないんだけどね」
「これを飲むだけで、簡単になれるのか?」
「やったことないからわかんないな~。アド君が、実験体第一号だね」
「そう、か。…夢を叶えたその先も、俺は見てみたい」
女神から渡された小瓶のフタを開ける。血を飲むなんて初めてのことで戸惑ってしまうが、小瓶の口に自分の口を当てて、一気に小瓶の中身を口内に入れる。
ゴクリ、と音を鳴らして女神の血を飲み込んだ。味はよくわからない。
ドクン、と心臓から音が聞こえる。手から小瓶が落ちた。
体に力が入らず、目を開けていられない。
「君の未来を、私は見ることはできない。君がどんな未来を作るのか、私は楽しみで仕方ないよ」
女神が何を言っているのかわからないまま、俺の意識は無くなった。
目を開けると、鎖に繋がれた鬼がいた。泣いているのがわかる。
「何をしにきた?」
「普通に話せるんだな」
「お前の呪いで暴れられないからな。理性を取り戻す時間は、十分にあったというわけだ」
「なら、俺がここにきた理由がわかるんじゃないか?」
「お前は人間を辞めたいのか? 昔は鬼人族と呼ばれていたかもしれないが、今では魔物だ。人ではなくなるんだぞ?」
「別に人であることにこだわって生きてきたわけじゃないからな。俺は夢を叶えることができるなら、魔物にでも悪魔にでもなってやる」
「そんなに夢が大切か?」
「夢は俺の生きる意味だ。叶えられるなら死んでもいいと、この前までは思ってたんだが、夢を叶えた先を見たくなった」
「知っているぞ、人間。好きな女ができたのだろ? いや、好きであることを認めたのか。強欲だな、人間」
「そうだな。俺は強欲だ。だからお前を、支配する」
「できるものならやってみろ! と、言いたいところなんだが、お前のせいで思い出してしまった。我らの夢を」
「鬼人族の夢か?」
「そうだ。お前の夢を叶えた先を見えてやる代わりに、我らの夢を叶えるというのならば、お前に支配されてやってもいい」
「随分と上から目線だな」
「神の血という劇薬を飲んだお前は死ぬ運命にあるのだから、どちらかといえばこちらの方が立場は上だろ?」
「あの駄女神。で、夢の内容は?」
「幸せに死ね」
鬼の言葉を聞き終わると同時に、見慣れた天井が視界に入った。
「幸せに死ねって、どんな夢だよ」
鬼の言葉を思い出して苦笑いを浮かべる。
「お、目を覚ましたね。どうだい? 気分は」
なぜか隣で寝ている駄女神が声をかけてきた。
「さあな。あまり変わった気はしない」
駄女神の行動を気にすることなく体を起こす。体に力がみなぎることはなく、額のツノが伸びていることはない。
「どうやら、うまく言ったみたいだね。アド君の種族が人族でなくて、鬼神族になってるよ~」
「そうなのか? あまり変わった感じはしないが」
「不老のせいだね。寿命は延びたというよりも変わったから呪いの効果は適用されなかったみたいだけど、力をつけることはできなかったみたいだね」
「力をつけられなかったのは残念だが、見た目が変わらなかったのは、いいことだと思うことにするか」
「そだね~。これで君は数年後に死ぬことはなくなった。おめでとうって言っとくよ」
「お前にありがとうとは言いたくないが、助かった。ありがとう」
「いいのいいの! 呪いを掛けたのは私なんだし~」
「そういえばそうだったな。感謝してもしたりないくらいだよ」
「う、うん。どういたしまして。じゃあ、私は帰るね。幸せに死ぬんだよ?」
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駄女神は俺の質問に答えることなく消えた。
「幸せに死ねって、女神の言うことかよ」
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