婚約者が勇者の生まれ変わりだと大変です。

しとしと

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ラウーラ、思いつく。

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「何か、対策が必要だ」
 ラウーラは机に肘をつき組んだ両手に顎を乗せて顔をしかめた。



「あっ」
 ソレを思い出したのは魔術の授業中だった。
 魔術師メキジャがつらつらと書く魔術式を眺めていると、ラウーラはふと前世の記憶、ある赤髪の魔術師のことを思い出した。いや、彼は自分の事を「魔法使い」と言っていたが。

「どうしました?何か疑問点でも?」
「あの、メキジャ先生。防御と位置把握のアミュレットなんですが…………ええと、確かこんな魔術式だった気が……」

 ラウーラが記憶を頼りに書き出した魔術式を見て、メキジャは「ふむ」と一声漏らした。

 それはかつて魔王討伐の旅の途中、たまたま仲良くなった赤髪の魔術師に「行動的かつ方向音痴な仲間がいて困っている」とグラフがこぼした際に教えてもらったものだ。

 魔術師メキジャは、ラウーラの書いた魔術式をじっと眺めると
「そうですね。これ…ここは、多分こうです。それにこことここはこれだと繋がらないから、えーっと……あ、成る程凄いですねこの式」
 メキジャは次第に目をキラキラとさせて、ラウーラが書いた式を修正していった。
「随分簡略化されていると思いましたが、余計な式を省く事で魔力効率が上がる仕組みになっていますね。蓄魔力の持続時間も強化されてる様です。どれくらいの効果があるのかは、ちょっと作ってみないとわかりませんが。うーん。こことかはもしかしたら他の魔術式にも応用が出来るんじゃないか……?」

 早口でぶつぶつと呟くと「一旦持ち帰らせて欲しい」とメキジャは授業を中断して帰っていった。

 そして翌日早朝から大興奮で屋敷にやってくると、ラウーラに何がどうすごいのかを事細かにギラギラと説明してくれた。半分もわからなかったが。


 そうして興奮冷めやらぬメキジャと、いつもより口数の減ったラウーラとで、数日かけて特製のアミュレット「ちびっ子用お守り~迷子防止機能付き~」を作り上げたのだ。




「えっこれ、ラウーラが作ったの?」

 完成したアミュレットを差し出すと、アルフレッドは初めこそ驚いた顔をしたものの、それは嬉しそうに受け取った。そして「大切にする」との宣言通り肩身離さず持ち歩いてくれるようになった。
 これによりラウーラはアルフレッドがどこにいるのかを常に把握できる様になった。突然の来訪も、何かあった時に駆けつける事も格段に対応がしやすくなる。ラウーラは自らの仕事に満足げに頷いた。


 そんなことがあってしばらく後。グリフ祭真っ只中の、城内魔物侵入未遂事件から程なくして、アルフレッドが初めての討伐に向かうことが決まった。


「レアストロ地方の森に魔物が相当数住み着いているらしいくてね。最近はこう言った被害が年に何度も起きていて国民も不安になっている、だから僕が先頭に立って直接討伐に行くことにした」

 そう言ったアルフレッドは、いつも通りしゃっきり背筋を伸ばしキリリとしていたが、ラウーラはその瞳の奥に不安を見た。それはそうだ。初陣を不安に思わない人間はいない。
 ラウーラ……グラフの初陣は9歳だった。怪我をした兄の代理で突然討伐隊に放り込まれたため、不安に思う間もなかったが、何より周りの騎士たちが手練揃いだったので安心感があった。そう考えると、今回のアルフレッドは対極的な初陣だろう。

「そう、ですか……」

 ……レアストロで確認されている魔物は、報告の内容からしてジメクリの群れ。体はやや大きく牙があり、力も強い。だが基本的にとにかく一直線に襲いかかってくるという、動きが短調な魔物なのでそこまで難しく無いはずだ。
(騎士団も数班同行するらしいし、今のアルフレッドならばきちんと準備をして慌てずやれば対処できるだろう)

 うん。と頷くと、ラウーラはアルフレッドの目を見つめて答えた。

「殿下はこれまでとても努力を重ねていらっしゃいました。ですので落ち着いて対処されれば、きっと成果を得られると思います。ご無事を祈っております」


 翌朝、アルフレッドがレアストロに向かうのを見送ると、ラウーラは駆け足で公爵家に戻った。そして用意していた荷物を抱え、腰に剣を携え、黒いマントを羽織ると馬に跨ったーーこれまで影に日向に秘密裏に、せっせと支え見守って来たアルフレッドの初陣を見届ける為にーー
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