DRAGGY!ードラギィ!ー【フレデリック編連載中!】

Sirocos(シロコス)

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①〈フラップ編〉

11『空は楽しさだけでなく、アクシデントがつきもの』①

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突きぬけるような風の音に、他の一切の音がかき消えていました。
もうどれくらい、上昇し続けたことでしょう。
いったいどれほど長い時間を……いや、
実はさほど時間は経っていないのかもしれません。

フラップは、まっすぐ上空だけを見据えたまま、
レンに負担をかけないよう気を配りつつ、なおも空高く……
メリーゴーランドのような速度で輪を描きながら、高度を取り続けます。

ピコン、ピコン!

レンのヘルメットの中から、電子音と、機械の声が聞こえてきました。

『――上空、五百メートルに到達しました。
巨大化と、逆行チヂミガンの準備をしてください』

「こんな機能がついてるのか、このヘルメット。
フラップー!  そろそろ大きくなる時間だよー!」

「はーい、準備しましょう!  いったん、ここで止まりますねー!」

フラップは旋回上昇をやめると、うつぶせのまま状態じっと滞空し、
その間にレンは、バッグの中から手際よくチヂミガンを取り出します。
――こんなところで銃を落としたら、たまったものではありませんね。

銃についたダイヤルを『逆行』に合わせ、先端をこめかみに当ててから、

「いくよー!  いっせーの!!」

パシュ!

レンの体が大きくなる速度に合わせて、フラップ自身も巨大化してゆきます。

タイミングはぴったり一致!  これこそ、練習の成果というものです。
あの出会いの日にナイトフライトした時のように、フラップの姿はドンと立派に、
人力飛行機くらいに堂々とした有様になりました。

「レンくーん、方角はどっちですかー」

「えーっと……」レンが返答に困ってキョロキョロしていると、

ピコン、ピコン!

『――フェイスガードに表示される矢印の方角に、進んでください』

レンの目の前に、あるはずのない矢印がポンッと表示されました。
はじめは左へ折れ曲がっていましたが、レンが左を向いたとたん、
矢印はまっすぐ直線になって、正確な方角を示します。

「フラップ、十時の方角だよ!」

「了解です!  それじゃ、時速およそ九十キロで、すずか町を目指しまーす!
ぼくの肩にあるグリップに、しっかりつかまっててね!」

    *

お忍びとはいえ、昼間の空を飛ぶのは、なんと清々しい気分なのでしょう!
レンは、見慣れた町の家々が、豆粒のように小さくなった景色を眺め、
どうしようもなほど優越感に浸っていました。

「そういえばさー。チヂミガンは、ぼくの服や持ち物も全部、
一緒くたにサイズ変化させてくれるけどぉ、キミの場合は自力でしょー?
鞍とか、ベルトとか、細かいものとか、どうやってサイズ変化してるのかなー」

「ああ、そのことで、しろさんが説明してましたぁ。
『これらの器具は、前回使用したものに大きな改良を加え、
おぬしのサイズ変化に合わせて膨張、収縮できるようにしたのじゃ。
これこそ真の〈ドラギィ乗用具ライダーガジェット〉じゃぞー!』って。
ちなみに、レンくんが被ってるヘルメットにも改造を施したと言ってましたよ。
しかも、〈ARナビメット〉って名づけてましたし」

「エーアール?  よく分かんないけど、
地味じみなとこまで気を配るネズミ博士だなぁー。あははは!」

悠然とした時間が過ぎていく中、
眼下の町々や道路は、川のように後ろへと流れていきます。
空が、地平が、風が――世界のすべてがレンを快く迎え入れているようです。
この非現実的な夢の時間を幸せに思うたびに、
高揚感で血が激流のようにかけめぐり、胸があふれそうになります。

「おっと、そろそろエネルギー補給をしなくちゃ!」

フラップは、どこからともなく取り出したドリンクボトルのストローに口をつけ、
ちゅうちゅう、と音を立てながら中身を飲みはじめました。

「なに、それ?」

「――あっ、これですか。しろさんが持ってきてくれたんです。
『フレデリック印の元気ドリンク』っていうらしくて、
タウリンだか、ビタミンだか、ミネラルだか、いろいろ混ざってるそうです。
しかも、ほんの少量飲むだけで、一日分のエネルギーを補給できるとか!」

そう言えば、フレデリック・ラボでは、
薬用ドリンクの研究も行っていると、しろさんが言っていたような――。

「すごい、美味しそう!  ぼくも飲んでみたいなぁ」

「あ、これ……ぼく用に調合されたやつだそうで、レンくんには危険だと。
残念でしたねぇ。ちゅう、ちゅう」


――出発から一時間以上が過ぎたでしょうか。
家々の数がずいぶんと減り、場所もまばらになって、
だんだん、鮮やかな緑の田園でんえん風景が目立つようになりました。
広大な田んぼのど真ん中を、一本の灰色の高速道路が伸び、
小さな車たちの影が水路を流れるように走っているのが見えます。

だいぶ遠くまで来てしまったようです。
ホームシックのせいなのか、レンはふと、こんなことをたずねました。

「……あのさ、フラップ。
このまま、スカイランドに帰ってみようとか、思わないの?」

「うーん、思わないじゃなくて……思えない、かなぁ」

突然の感傷的な質問に、フラップの声は少々重たくなります。

「そんなことしても、たぶんダメでしょうね。
校長から下界落としされる直前に、たいして修行もせずに帰ってきたら、
部下が門前払いするって、念を押されましたから」

「つくづくヒドイな、その校長先生!」

あきれてものが言えない、とはこの事です。
レンは、フラップのことがますます哀れに思えてきました。

「家族や友達に会うチャンスももらえないんだ?
なんでそんなスクールを卒業しようなんて思ったの?」

「だって、ドラギィのスクールはそこだけなんですもの。
たった一つだけなんですよう!  スカイランドに一つだけ……」

そう言われてしまったら、返す言葉もありません。
人間の学校は、この地上の至る場所にあるというのに。
あそこに見える小さな町にも、あの川のむこうにも、あんなところにも――。

ピコン、ピコン!

ヘルメットからのアナウンスです。

『目的地まで、あと八十キロメートルです。
そろそろ、地上で休憩を取ってください。
なお現在、この地域に雨雲が迫っております。注意してください』

その通りでした。先ほどまでピカピカに晴れていた空のむこうから、
何やら重くのしかかるような暗い雲が、流れてくるではありませんか。
 
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