DRAGGY!ードラギィ!ー【フレデリック編連載中!】

Sirocos(シロコス)

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②〈フリーナ編〉

9『不思議なにおいを想像するのも、夢物語のダイゴミ』①

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その後、夕方の六時を過ぎても、ユカは家に帰りませんでした。
スマホで自分の家に連絡を入れたのです。
何といっても、今日はフラップとフリーナが再会できた日ですから、
夜までレンの家で過ごすことにしたわけです。

ユカのお母さんは、娘がよそ様のご飯にお呼ばれされることには、
たいして気にならない人だったので、簡単にオーケーをもらえました。

その晩、レンとユカは、リビングでレンママお手製のカレーをいただきながら、
このすぐ後の予定のことを、ひそひそと楽しく話しあっていました。

「――ほーんとに仲よしだねえ、お二人ちゃん」

キッチンシンクにたまったお皿をスポンジでせっせと洗い落としながら、
お母さんが微笑ましそうに言いました。

「そういえばレン、市原君がさっきウチに電話かけてきたよ。
最近、あんたとあまり遊べないとか、浜田君がさみしがってるとか何とか。
不平たらたらに伝言残してたよ。いい加減戻ってこーい、だってさ」

「あー、あの二人……」レンはちょっぴり頭痛を覚えて、手で額を抱えました。

「そろそろ、あの二人に例のことを話すべきかどうか。
でも、話したら話したで、彼に怒られちゃいそうだし」

「?  例のことってなに?  彼って?」

レンは、うっかり口を滑らせてしまったことに気づき、すぐにはぐらかしました。

「――ユ、ユカちゃん!  今週の『魔獣の刃』の話は見逃せないね!」

「えっ?  ああ、うん!  ついに主人公が竜を乗りこなすところなんだよね!」

その後、お母さんがお店のお片づけの手伝いをしに、
一階へ降りていったのを見計らって、レンは二枚の小皿にお米をよそい、
お鍋に残ったカレーをかけて、二人で部屋へ撤収しました。



ドラギィは、辛い食べ物が好物なのです。
坂本家の自家製辛口カレーは、フリーナにも大好評でした。

「かっら~~~い!!  でも、うまいッ!」

さっきまであれだけお菓子を食べておいて、まだお腹に入るとは驚きです。

フラップも、久しぶりに刺激的な物を食べたからか、
元気もりもりの様子で次々とカレーをかっこんでいます。

「レンくんのお家の、モグモグ、特製カレー、モグモグ、
何度も食べたくなって、ガツガツ……んー、困っちゃいますう」

「フラップの分は、気持ち多めによそったからね。
この後のナイトフライトに備えて、エネルギーチャージだね」

「やーっと調子が戻ったようじゃな。フライトも心配なさそうじゃ」

ベッドの上からフラップの様子を観察していたしろさんが、安心して言いました。

「ところでフラップ」ユカがふとたずねます。
「あなたの次の休養期間はいつ?」

「さっき、体と相談してみたんですが、あと数か月も先みたいです」

「いーなあ、フラップ。
こうなったらあたし、フラップの翼におんぶに抱っこされちゃうもんネ」

「いいとも、いいとも!  ごちそう様!  さあ、そろそろ出かけましょう!」

    *

夜の七時半過ぎです。

月夜の爽快な空気が、強い風圧となって、髪や洋服をバラバラと暴れさせます。
レンとユカは、大きくなったフラップの背中の上で、
心地よいアップダウンに身をまかせながら、歓声を上げていました。
ユカの背中にはフリーナがつかまっていて、同じように歓声を上げています。

「あーん!  さーいーこーーー!!」

自分の意思で空を飛ぶのと、仲間の背中に乗って飛ぶのとでは、明らかに違います。
どっちへどう飛ぶか分からない、意外性というものがありますものね。

眼下では、真っ黒なビロードの地平に浮かぶ街の夜景が、
フラップたちを祝福するようにキラキラ色づき、夜を謳歌おうかしています。

レンたちは、さながらレールのないジェットコースターに乗っているような、
スリル満点な感覚を味わっているわけです。

「フラップー!  あまり高度を下げないようにー!  でないと見つかるぞー!」

「分かってますって~!  さあ、今度はぐるぐる旋回しますよー!」

姿勢を斜めに倒し、右に大きく輪を描きながらどんどん上昇。
遠心力で、レンとユカの小さなお尻が、温かな背中に押しつけられます。

水平ループが終了すると、レンたちは、空のてっぺんまで昇ってきたような、
清々しい気分になりました。

「あたしだったら、もーっと早く飛べるんだけどねえ!」

「いやあ、ぼくのほうが断然早いね!
スクールじゃあ、三百メートル飛行でトップ3に入るくらいだったもの!」

「レッドクラスの中では、の話でしょー?
あたしなんか、イエロークラスの中じゃダントツの――」

と、ここでフリーナが、何かの匂いを嗅ぎつけたのか、
ユカの背中の上でくんくんとせわしなく鼻を動かしました。

「〈異界穴〉の匂いがする!  ものすごくいい匂い!
フラップ、あっちあっち!」

「あっちじゃ分かんないよう!」

「あの丘!  あの背の高い木がちょんと立ってる丘の上ー!」

「あそこに穴があるの!?  変だなあ、この町にある異界穴の匂いは、
あらかた探知してたんだけど……大きくなると嗅覚にぶっちゃうからなあ!」

フラップは、六時の方角にむかってUターンすると、
高い一本杉がそびえ立つ町はずれの丘の上へと、高度を下げはじめました。

(そういえば、ドラギィには、
裏側の世界の扉を見つけ出す力と、その扉を開く力があるんだった)

レンは、新しく発覚したその能力について、
すでにしろさんに報告していました。
奇想天外な新発見に、しろさんも飛び上がって驚いていたものです。

その一方、ユカは、話がまったく見えないと、レンに言いました。
レンは、最近知ったばかりのドラギィの特殊な力について、
自分の体験したこともふまえながら、教えてあげるのでした。

「ユカちゃんも、見てみれば分かるよ!
キラッとして、ぽわっと穴が開いて……新世界の入り口みたいな現象なんだ!」
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