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③〈フレドリクサス編〉
8『雨は降りたい時に降ってくる、よくも悪くも』①
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その頃、フレドリクサスは――うさみ町の空を飛んでいました。
水を得た魚、いいえ、空を得た竜のように、力強く飛んでいきます。
やはり、自分のように翼を持つ生き物には、自由な空がよく似合う。
といっても、今はご機嫌斜めの曇り空。憂うつな雨を、今にも降らせそう。
それでも、あの真っ暗な鳥かごの中とは、天と地ほどの差があります。
あんなところ、二度と戻ってたまるものか。
(だけど、あそこまでひどいことをするなんて――)
フレドリクサスは胸がつまって、ヨシを気の毒に思うのでした。
今は、わずかにエネルギーがある……一刻も早く、仲間を探し出さないと。
こんな人間の多い場所では、食べ物を探すのも一苦労になる。
もしもの時に備えて、ネズミサイズのまま、巨大化はしばらく控えなくては。
フレドリクサスは、ドラギィの匂いはないかと、一気に高度を下げていきます。
人間に見つからないように家々の屋根をかすめながら、
警察犬より何十倍も優れた鼻で、町のにおいを嗅ぎ回ります。
そうして、いつの間にか町中にある緑豊かな森の公園へと入っていったのです。
カアーッ!! カアーッ!!
フレドリクサスの前方から、真っ黒な鳥が飛んでくるのが見えました。
カラスです! 警戒心をむき出しにして、一直線にむかってきます。
今は繁殖期ですから、いわゆる発情期でしょうか?
(しまった! 近くにこいつの巣があるのか!)
フレドリクサスは、素早くUターンをして、カラスから逃げてゆきます。
しかしカラスの親鳥は、ヒナを狙う恐れのある者に容赦がありません。
彼の後を、ホーミング弾のようにしつこく追い回してきました。
「ごめんなさい! あなたの巣を、襲う、つもりは、ぐすん、ありませんから!」
フレドリクサスは、怖くなって涙ぐみながら、森を逃げ惑いました。
人間界は本当に恐ろしいところです……いきなりの大嵐、裏切りに監禁、
果ては、問答無用の追跡にまであうとは。
怖くて泣き叫ぶうちに、フレドリクサスの高度と飛行速度が落ちていきます。
親鳥はこれを見逃さず、黒いくちばしで牙をむきました。
「うぅわっ!!」
フレドリクサスは背中にくちばしの攻撃を受け、
その弾みで、木々の間から、森の公園の外へとはじき出されてしまうのでした――。
*
「く、くぅ~~ん……」
フレドリクサスは、闇の中から浮き上がるように、民家の塀の上で目覚めました。
気を失っていたに違いありません。
「ああっ、つっ!」
ゆっくり起き上がろうとすると、背中に灼熱のような激痛が走ります。
親鳥の鋭いくちばしが、彼の背中を少しえぐったのでしょう。
痛み、みじめさ、空腹、そして、孤独感――。
フレドリクサスの目から、じわりと涙があふれてきます。
なんで……なんでぼくがこんな目に。
フレドリクサスは、自分を〈下界落とし〉したスクールの校長を恨みながら、
塀の上をとぼとぼと歩き出しました。
逃げ回ったせいで、せっかくのエネルギーも無駄に使い果たしてしまったのです。
涙なら、いくらでも流せ! 手でぬぐうのも、忘れてしまえばいい!
こんなところで死ぬわけにはいかない。
人間に見つかるわけにもいかない。仲間さえ、仲間さえいれば。
(フラップ、フリーナ……!!)
その時、塀のむこう側に、不吉な気配を感じました。
ぴょん。
前方に跳び上がってきたのは、一匹の野良猫でした。
ですが、くろさまではありません。ぼさぼさした茶トラの野良猫でした。
「みゃぁぁぁ~~お……!」
ふてぶてしく、穏やかではない瞳をして、近づいてきます。
フレドリクサスをエサだと思っているのでしょうか。
(今、仕かけられたら、逃げ場はないな……)
フレドリクサスは、不運を嘆きながら、その場に倒れこみました。
死んだふりをするコウモリを、見たことのある猫はいるでしょうか。
少なくとも、この茶トラのぼさ猫は、フレドリクサスを見逃しませんでした。
抵抗する様子のない奇妙な生き物を、口でくわえ上げると、
そのまま塀を飛び降り、静かな足取りで道路を歩いていきました。
水を得た魚、いいえ、空を得た竜のように、力強く飛んでいきます。
やはり、自分のように翼を持つ生き物には、自由な空がよく似合う。
といっても、今はご機嫌斜めの曇り空。憂うつな雨を、今にも降らせそう。
それでも、あの真っ暗な鳥かごの中とは、天と地ほどの差があります。
あんなところ、二度と戻ってたまるものか。
(だけど、あそこまでひどいことをするなんて――)
フレドリクサスは胸がつまって、ヨシを気の毒に思うのでした。
今は、わずかにエネルギーがある……一刻も早く、仲間を探し出さないと。
こんな人間の多い場所では、食べ物を探すのも一苦労になる。
もしもの時に備えて、ネズミサイズのまま、巨大化はしばらく控えなくては。
フレドリクサスは、ドラギィの匂いはないかと、一気に高度を下げていきます。
人間に見つからないように家々の屋根をかすめながら、
警察犬より何十倍も優れた鼻で、町のにおいを嗅ぎ回ります。
そうして、いつの間にか町中にある緑豊かな森の公園へと入っていったのです。
カアーッ!! カアーッ!!
フレドリクサスの前方から、真っ黒な鳥が飛んでくるのが見えました。
カラスです! 警戒心をむき出しにして、一直線にむかってきます。
今は繁殖期ですから、いわゆる発情期でしょうか?
(しまった! 近くにこいつの巣があるのか!)
フレドリクサスは、素早くUターンをして、カラスから逃げてゆきます。
しかしカラスの親鳥は、ヒナを狙う恐れのある者に容赦がありません。
彼の後を、ホーミング弾のようにしつこく追い回してきました。
「ごめんなさい! あなたの巣を、襲う、つもりは、ぐすん、ありませんから!」
フレドリクサスは、怖くなって涙ぐみながら、森を逃げ惑いました。
人間界は本当に恐ろしいところです……いきなりの大嵐、裏切りに監禁、
果ては、問答無用の追跡にまであうとは。
怖くて泣き叫ぶうちに、フレドリクサスの高度と飛行速度が落ちていきます。
親鳥はこれを見逃さず、黒いくちばしで牙をむきました。
「うぅわっ!!」
フレドリクサスは背中にくちばしの攻撃を受け、
その弾みで、木々の間から、森の公園の外へとはじき出されてしまうのでした――。
*
「く、くぅ~~ん……」
フレドリクサスは、闇の中から浮き上がるように、民家の塀の上で目覚めました。
気を失っていたに違いありません。
「ああっ、つっ!」
ゆっくり起き上がろうとすると、背中に灼熱のような激痛が走ります。
親鳥の鋭いくちばしが、彼の背中を少しえぐったのでしょう。
痛み、みじめさ、空腹、そして、孤独感――。
フレドリクサスの目から、じわりと涙があふれてきます。
なんで……なんでぼくがこんな目に。
フレドリクサスは、自分を〈下界落とし〉したスクールの校長を恨みながら、
塀の上をとぼとぼと歩き出しました。
逃げ回ったせいで、せっかくのエネルギーも無駄に使い果たしてしまったのです。
涙なら、いくらでも流せ! 手でぬぐうのも、忘れてしまえばいい!
こんなところで死ぬわけにはいかない。
人間に見つかるわけにもいかない。仲間さえ、仲間さえいれば。
(フラップ、フリーナ……!!)
その時、塀のむこう側に、不吉な気配を感じました。
ぴょん。
前方に跳び上がってきたのは、一匹の野良猫でした。
ですが、くろさまではありません。ぼさぼさした茶トラの野良猫でした。
「みゃぁぁぁ~~お……!」
ふてぶてしく、穏やかではない瞳をして、近づいてきます。
フレドリクサスをエサだと思っているのでしょうか。
(今、仕かけられたら、逃げ場はないな……)
フレドリクサスは、不運を嘆きながら、その場に倒れこみました。
死んだふりをするコウモリを、見たことのある猫はいるでしょうか。
少なくとも、この茶トラのぼさ猫は、フレドリクサスを見逃しませんでした。
抵抗する様子のない奇妙な生き物を、口でくわえ上げると、
そのまま塀を飛び降り、静かな足取りで道路を歩いていきました。
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