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④〈フロン編〉
1『ウソか本物か最後まで分からないのが、夢なのです』①
しおりを挟むさえるような青空の下を、おかしなものが飛んでいました。
それは――白い球体でした。
ニワトリの生みたて卵のように白い、野球ボールのようなその物体は、
どこか機械じかけにも見えて、UFOのごとく水平に回転しています。
つるつると手触りのよさそうな表面には、まばゆい太陽の光が反射しています。
そして、ぽわわわわ……という、モーター音だかエンジン音だか分からない、
妙な音をもらしながら飛んでいるのです。
宇宙人がやってきたのでしょうか? それとも、最新鋭のドローンでしょうか?
正体も、目的も不明瞭な、夢の中にしか出てきそうにないその物体は、
突然、くるっと方向転換しながら地上へ降下していきます。
下には、山のてっぺんが見えます。
こんもりとした森のいただきには、そこだけすっきりとはげたように草地が広がり、
飛行物体が着陸するには絶好の平べったさがあったのです。
少しずつ地面が迫ってくると、白い球体はピタリと回転をやめて、
三つの穴を底に開き、しゅううう~! とホバリングをはじめます。
強い風を受けた草花が、鮮やかな緑の波を放射状になびかせています。
「……来たあ! 本当に来たよ」
林の中に身を潜めていたレンは、あぜんとしながらつぶやきました。
あの球体、森の小屋一つ分の大きさはあるだろうか?
「あれって何かの卵です? 割ったら、とろっとした黄身が出てきたりして」
そばにいたフラップが、のんきにつぶやき返しました。
「アタシ、おっきなカステラかプリンにして食べたいなあ。ペロリ」
フリーナがうっとりとしながら、舌なめずりをしています。
「どう見ても卵じゃないって。あれが今回の調査対象だよ」レンが言います。
「たぶん、いろんな技で抵抗してくるだろうから。みんな気をつけて捕まえてね」
「問題はないよ、レンくん」
レンの頭の上から、ひょっこりとフレディが出てきて、自信満々に言いました。
「ぼくらは今日という日まで、修行に修行を積んできたんだ。
あんなもの、恐るるに足りないさ」
白い球体が、下半球の表面から、三つの細長いすき間を開きました。
かと思うと、そこからにょきにょきと折れ曲がったカニのような脚が生えてきて、
最後の着陸態勢に入ったのです。本物のUFOのように!
「よーし、アタシが一番乗りだあ!」
黄色い羽のフリーナが、ババッと、林の中から飛び出していきました。
レンの合図を待たずに!
「ああっ、まだ早いってば!!」
弾丸のごとく、あるいは雷のごとく動き出したフリーナは、
むく~っ! と巨大化していきます。
そして、今にも着陸しようとしていた白い球体に、
がっちりとムササビのごとくへばりついたのです!
あきれ返ったフレディが、フリーナに続いて飛び出しました。
「何をやってるんだ、カノジョは!」
白い球体は、衝撃で驚いたようにぐらりと体をゆらします。
そのせいで着陸を中止したのか、三本の脚を中にしまいはじめると、
ホバリングの出力を上げて空へ戻りはじめたのです。
「そのまましっかり押さえつけるんだ!」
フレディは、フリーナと同じくらいまでむぅっと巨大化して、
彼女のもとに駆けつけてゆきます――が、
ドシュウウウーーーーーッ!!
フレディの目と鼻の先で、
白い球体がロケットのようにうなりを上げて飛び上がっていったのです。
「うわわわわああ~~~っ!!」
球体にへばりついたまま、空へと舞い上がるフリーナ。
「スパークするんだーっ!」
下から聞こえてきたフレディの指示に、フリーナはすぐに従いました。
「う~ん……! ハッピー☆スパーーーク!!」
おかしなかけ声とともに、フリーナの体からすさまじい電気がほとばしります。
目の錯覚のような、七色の電気の嵐が!
けれども、白い球体はびくともしません。効果がまったく現れなかったのです。
やがて風圧におされて、フリーナはつるりんっ、と球体からはがれ落ちました。
「あわっ、とっととっと……!」
バサバサッ! と羽ばたいて態勢を立て直したフリーナの頭上で、
邪魔者をどかした白い球体が、くるくると水平回転を取り戻します。
さらに、なんのつもりなのかゆっくりと降下してきて、
フリーナの目の前に立ちはだかったのです。
「あれれ? アタシとお友達になりたいノ?」
見ると白い球体は、しゅっ、しゅっ、しゅしゅっと、
上下左右を問わずに宙を滑り出したのです。
まるで、捕まえられるなら捕まえてみろと言わんばかりに。
「あ、もしかして的当てゲーム? ちょうどよかったあ!
アタシね、フレディのおかげですんごく頭がよくなったんだヨ~。
だからね、こーんな感じに両手の指を立てて構えると――」
フリーナは、両手を銃のような形にして突き出しました。すると――
バシュッ! バシュッ!
指の先から電気の弾が飛び出したのです!
「電気を操る修行を重ねた成果なんだぞう! それっ、それっ!」
次々に撃ち出される電気弾が、動き回る球体をかすめます。
ダンッ! バリバリバリ! ついに、一発が命中しました。
球体は小さくよろめきはしましたが、傷一つついていません。
「何やってるんだ、捕まえるんだろう?」
地上からようやくフレディが追いついてきました。
すると、白い球体が今度は、プシューッ!
てっぺんからも下半球からもスモークを噴き出して、ガタガタ震えだしました。
それから少しずつ、真っ白だった表面が少しずつ鮮やかな赤に変色したのです。
「まさかフリーナ。あいつを怒らせたのか?」
赤くなった球体の表面に、何かが浮かび上がりました。
顔です。それも、つり上がった黒い両目に、ギザギザの鋭い口を持った、
気味の悪い化け物のような顔の模様が!
ガガガッ、ガァーーーーーッ!!
怒りに震えた球体は、フリーナとフレディのほうへその顔を近づけ、
まるで二匹を威嚇しているようでした。もう、なかなかの迫力!
「………」
今までなら、このような顔で脅かされればすぐに泣いていたフレディが、
毛ほどもおびえの表情を見せません。平気そのものだったのです。
「フム。ぼくの泣き顔が見たかったのなら、残念だったな。
もう泣き虫は卒業したのさ。ぼくがそのカッカした顔を冷やしてあげよう!」
フレディは、両手のひらを前に突き出して、そこから大量の水を噴射しました。
ものすごい勢いです。まるで消防隊による放水のよう!
赤い球体は水をかぶり、その顔が水の冷たさでひきつっています。
「ねえ、フレディ。そっちのほうがよっぽど相手を怒らせちゃうと思うヨ」
「あ」
フリーナの言う通りでした。
びしょ濡れになった赤い球体が、猛烈な怒りの顔の模様をあらわにして、
先ほどよりももっと上下に激しく動きました。
その表面が、ぐらぐらと燃え上がる炎のようなオレンジ色になり、
灼熱のパワーを引き出した暖色のグラデーションを見せつけるまで。
「気をつけろ、やばいものが来るぞ!」
「フレディのせいでしょ! セキニン取ってヨ~!」
二匹が身構えるなか、球体のギザギザな口模様のところから、
銀色の大砲のような砲口がせり出してきました。
そして、肩をならべて空に浮かぶ二匹に狙いを定めたのです。
ピピピピピ……エネルギーが充填されていくような音。
砲口の奥のほうが、ギラギラと高熱の光で輝いているのが見えます。
「これは――」「まずいカモ!」
二匹は思わず両手で顔をおおってしまいました。
今回はさらにお話が続きます!→
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