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三章
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第三章 捜査・推理
高槻源一郎の死体は、誰も触れぬまま大鏡の間に残された。
外は嵐、電話も圏外。助けを呼ぶ手段はない。私たちは館の中で、互いを疑い合うしかなかった。
「まず確認しましょう」
相原麻衣が声を上げた。
「停電の時間は、ほんの数十秒だった。にもかかわらず、高槻さんは即座に殺された。犯人は、彼のすぐそばにいたはずよ」
なるほど、と私は思った。
短剣で胸を一突きにするには、距離が近くなければならない。
だが、堂本教授が首を振った。
「いや、状況は単純ではない。この館は《鏡》でできている。暗闇の中で、方向感覚が狂った可能性もある。犯人は意図的に混乱を利用したのだ」
教授の言葉に、女優の桐生麗華が叫ぶ。
「そんなこと言ったって……私じゃないわ! 私は悲鳴を上げただけよ!」
隼人はうつむいたまま、小声でつぶやく。
「……でも、叫び声があったってことは……その直前まで近くにいた人が怪しいんじゃ……」
場が再びざわめく。
疑いの矛先は桐生へと向かいつつあった。
⸻
その空気を断ち切ったのは、中年の女性――白石美鶴だった。
「落ち着きなさい。……犯人探しも大事だけれど、まずはこの館の構造を調べるべきよ。氷室静馬はなぜ私たちをここへ呼んだのか。その理由が分かれば、殺人の動機も見えてくるはず」
彼女の冷静な提案で、私たちは館の探索に乗り出すことになった。
⸻
鏡館の内部は、想像以上に迷宮じみていた。
長い回廊の両壁がすべて鏡で、進むたびに自分の姿が幾重にも映り込む。どちらが現実の通路で、どちらが鏡なのか、すぐに分からなくなる。
探索の途中、私は奇妙な部屋を見つけた。
壁一面の鏡の中央にだけ、古びた木製の扉が埋め込まれている。だが取っ手を引いても、びくともしなかった。
「隠し部屋……?」
私は思わずつぶやく。
そのとき、後ろから堂本教授が現れた。
「木崎君、ここを見つけたか。……私も調べたが、開かぬようだ。だが氷室が我々を呼んだ理由と、この部屋は無関係ではあるまい」
教授の目は、学者の好奇心と別の何か――狂気に似た輝きを帯びていた。
⸻
一方その頃、相原麻衣は各人の「氷室静馬との関わり」を探り出そうとしていた。
夕食後のホールに皆を集め、彼女は問いかける。
「正直に答えてください。氷室氏に会ったことがある人はいませんか?」
最初に口を開いたのは白石美鶴だった。
「……二十年前、私は氷室家に仕えていたことがあるの。女中としてね。彼は気難しい方だったけれど、知性と威厳を持っていた」
次に堂本教授がうなずいた。
「私は研究者として彼に会った。彼の館は心理学的にも非常に興味深い。人間を映す鏡の迷宮――彼の思想そのものだ」
桐生麗華は苦い顔をした。
「私は……氷室氏にスカウトされそうになったことがあるの。十代の頃、芸能界に入る前に。結局は断ったけれど」
森下隼人はしばらく黙っていたが、やがてぽつりと漏らす。
「……氷室静馬は、俺の母を捨てた男だ」
部屋の空気が張り詰めた。
思わぬ告白に、誰もが息を呑んだ。
⸻
しかし――真相に近づいたと思った矢先、再び館内の明かりが瞬き、消えた。
闇の中で、鋭い悲鳴。
灯りが戻ったとき、今度は――
床に崩れ落ちた相原麻衣の姿があった。背中に突き立てられたのは、またしても銀色の短剣。
「二人目……!」
私は絶句した。
そのとき、壁のスピーカーから氷室の声が響く。
「秘密に近づいた者から、消えていくのです。
さあ――夜はまだ終わらない」
鏡に映る私たちの顔が、どれもこれも犯人のように見えた。
高槻源一郎の死体は、誰も触れぬまま大鏡の間に残された。
外は嵐、電話も圏外。助けを呼ぶ手段はない。私たちは館の中で、互いを疑い合うしかなかった。
「まず確認しましょう」
相原麻衣が声を上げた。
「停電の時間は、ほんの数十秒だった。にもかかわらず、高槻さんは即座に殺された。犯人は、彼のすぐそばにいたはずよ」
なるほど、と私は思った。
短剣で胸を一突きにするには、距離が近くなければならない。
だが、堂本教授が首を振った。
「いや、状況は単純ではない。この館は《鏡》でできている。暗闇の中で、方向感覚が狂った可能性もある。犯人は意図的に混乱を利用したのだ」
教授の言葉に、女優の桐生麗華が叫ぶ。
「そんなこと言ったって……私じゃないわ! 私は悲鳴を上げただけよ!」
隼人はうつむいたまま、小声でつぶやく。
「……でも、叫び声があったってことは……その直前まで近くにいた人が怪しいんじゃ……」
場が再びざわめく。
疑いの矛先は桐生へと向かいつつあった。
⸻
その空気を断ち切ったのは、中年の女性――白石美鶴だった。
「落ち着きなさい。……犯人探しも大事だけれど、まずはこの館の構造を調べるべきよ。氷室静馬はなぜ私たちをここへ呼んだのか。その理由が分かれば、殺人の動機も見えてくるはず」
彼女の冷静な提案で、私たちは館の探索に乗り出すことになった。
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鏡館の内部は、想像以上に迷宮じみていた。
長い回廊の両壁がすべて鏡で、進むたびに自分の姿が幾重にも映り込む。どちらが現実の通路で、どちらが鏡なのか、すぐに分からなくなる。
探索の途中、私は奇妙な部屋を見つけた。
壁一面の鏡の中央にだけ、古びた木製の扉が埋め込まれている。だが取っ手を引いても、びくともしなかった。
「隠し部屋……?」
私は思わずつぶやく。
そのとき、後ろから堂本教授が現れた。
「木崎君、ここを見つけたか。……私も調べたが、開かぬようだ。だが氷室が我々を呼んだ理由と、この部屋は無関係ではあるまい」
教授の目は、学者の好奇心と別の何か――狂気に似た輝きを帯びていた。
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一方その頃、相原麻衣は各人の「氷室静馬との関わり」を探り出そうとしていた。
夕食後のホールに皆を集め、彼女は問いかける。
「正直に答えてください。氷室氏に会ったことがある人はいませんか?」
最初に口を開いたのは白石美鶴だった。
「……二十年前、私は氷室家に仕えていたことがあるの。女中としてね。彼は気難しい方だったけれど、知性と威厳を持っていた」
次に堂本教授がうなずいた。
「私は研究者として彼に会った。彼の館は心理学的にも非常に興味深い。人間を映す鏡の迷宮――彼の思想そのものだ」
桐生麗華は苦い顔をした。
「私は……氷室氏にスカウトされそうになったことがあるの。十代の頃、芸能界に入る前に。結局は断ったけれど」
森下隼人はしばらく黙っていたが、やがてぽつりと漏らす。
「……氷室静馬は、俺の母を捨てた男だ」
部屋の空気が張り詰めた。
思わぬ告白に、誰もが息を呑んだ。
⸻
しかし――真相に近づいたと思った矢先、再び館内の明かりが瞬き、消えた。
闇の中で、鋭い悲鳴。
灯りが戻ったとき、今度は――
床に崩れ落ちた相原麻衣の姿があった。背中に突き立てられたのは、またしても銀色の短剣。
「二人目……!」
私は絶句した。
そのとき、壁のスピーカーから氷室の声が響く。
「秘密に近づいた者から、消えていくのです。
さあ――夜はまだ終わらない」
鏡に映る私たちの顔が、どれもこれも犯人のように見えた。
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