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穴
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ビシ、ビシと黒いヘドロのような霧の塊が、凄まじい勢いで穴から二人に襲いかかってくる。
ドルマは勢いに吹き飛ばされそうになるが、マティアスはドルマをがっしりと後ろから支えて、力強く抱きしめている。ドルマは怯えながらも、ドルマをしっかりと支えて離さない、
マティアスに勇気づけられてドルマは覚悟を決めた。
(怖い。怖いけれど、マティ様なら私を見捨てない。決して私を一人にしないわ)
ドルマは決心した。
自分の心を守る事を手放したのだ。
胸の一番奥の、誰にも入ってこられない場所に囲われていた剥き出しの心には、ポッカリと大きな穴が開いている。
穴からは、ジクジクと何かが滲み出ている。
絶望だ。ドルマは涙を流しながら手を離して、むき出しの絶望をマティアスに託した。
「マティアス様!!怖い、怖いわ!!!」
「ドルマ、大丈夫だ!!ありがとう、後は俺に任せてくれ!!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(なんという深い痛み・・悲しみ・・孤独・・)
叩きつけられるような黒い霧の暴風の中、ドルマの心の奥の穴に触れ、ドルマの絶望の深さがマティアスの心を真っすぐに襲う。
悲しみと孤独と絶望で、マティアスの心は大きな暗い穴の中に真っ逆さまに落ちてゆく。
あまりの恐怖と、あまりの孤独。
マティアスはにできる事は何もない。ただただ滂沱の涙を流しながら、マティアスはだが、ドルマの手を上から掴んで、目の前の「穴」を繕い続けた。
己の胸の中で苦しみに悶絶するドルマを胸に抱えながら、マティアスはドルマの痛みを、悲しみを、絶望を引き受けたのだ。
(く、苦しい、辛い、息ができない・・恐ろしい・・ドルマは、これほどの悲しみを、苦しみを、たった一人で今まで引き受けてきたのか・・苦しい、痛い・・孤独だ・・恐ろしい、恐ろしい、恐ろしい・・)
張り裂けんばかりの胸の痛みと恐怖と孤独にもがき苦しみながらも「穴」を繕っているマティアスの目と、「穴」の暗闇の向こうから、空間にぼんやりと浮かんだ大きな目が、こちらをじっと見ている目と、バチリと目が合った。
「ぎゃあああ!!!誰だお前は!!!!」
目はマティアスの頭に直接語り掛けてきた。
(マティアス。苦しいか。悲しいか。この娘を手放せば、お前はこの恐怖からも痛みからも、苦しみからも自由になる。この絶望はお前の絶望ではない。この娘の絶望だ。引き受けるな)
そしてその大きな目の後ろの暗闇の空間に、沢山の嫌な目つきをした数多の目が出現する。
(あの目は・・ドルマの母が、ドルマを遺棄した時の目だ、なんて卑怯な、何て怯えた嫌な目だ・・ああこれは・・ドルマを見る村人たちの疑いの目・・汚い目だ、いやだ、こちらを向くな・・この小さな目は、ドルマに怯える小さな子供の目だ・・あれも、これも、ああどれもこれもなんて嫌な目なんだ)
幾百、幾千の悪意や恐怖、嫌悪の目に、マティアスは耐えきれなくなる。
(やめてくれ、俺をそんな目で見ないでくれ!!!)
(手放せマティアス、お前の荷物ではない)
マティアスの頭に響き渡る。
「いやだ!!!」
「それでも俺はドルマと共にあると決めた!!!」
マティアスはあらん限りの声で咆哮すると、震えるドルマの手を力強くつかみなおして、ドルマの手から伸びている金色の糸で、ひと針、ひと針「穴」を繕ってゆく。
繕うマティアスの心に湧いてきたのは、怒りだ。
「マティアス様!!」
「なぜドルマがこんな運命を引き受ける必要があった!!なぜこの優しい娘がこんな目にあわなくてはいけないんだ?? なぜだ神よ、なぜだ、そこの目玉! 答えろ絶望の目玉よ、なぜドルマの絶望に誰も寄り添わない!!、俺は、俺だけは何があってもドルマを二度と一人になどしない!!!そこを退け!!!」
怒りに震えるマティアスの糸は、穴の後ろの数多の目を容赦なく巻き込んで、力任せに繕ってゆく。
「二度とそんな目でドルマを見るな!! 二度とドルマを悲しませるな!! そんな目で俺のドルマを見てみろ、俺がこの手でその目を繕って二度と目が開かないようにしてやる!!」
マティアスはほとんど、毛を逆立てんがばかりに絶叫して糸を操った。
マティアスの怒りで、今にも切れそうに頼りなかった糸は熱を帯びて、炎を伴いはじめた。炎を伴った糸はギリギリと金属の音を立てて、穴を溶かしてふさいでゆく。
「うおおおおおおおおお!!!!」
マティアスは穴の奥から見据えてくる目と、決して目を離さずに、ついに最後の一針をつくろって、「穴」を塞いだ。
穴を塞いだ瞬間に、一斉に世界から、数千の、数万の鈴が鳴り、世界の終わりのように大きな光が発生した。
ドルマとマティアスは大きな光に巻き込まれて飛ばされて、気を失った。
ドルマは勢いに吹き飛ばされそうになるが、マティアスはドルマをがっしりと後ろから支えて、力強く抱きしめている。ドルマは怯えながらも、ドルマをしっかりと支えて離さない、
マティアスに勇気づけられてドルマは覚悟を決めた。
(怖い。怖いけれど、マティ様なら私を見捨てない。決して私を一人にしないわ)
ドルマは決心した。
自分の心を守る事を手放したのだ。
胸の一番奥の、誰にも入ってこられない場所に囲われていた剥き出しの心には、ポッカリと大きな穴が開いている。
穴からは、ジクジクと何かが滲み出ている。
絶望だ。ドルマは涙を流しながら手を離して、むき出しの絶望をマティアスに託した。
「マティアス様!!怖い、怖いわ!!!」
「ドルマ、大丈夫だ!!ありがとう、後は俺に任せてくれ!!」
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(なんという深い痛み・・悲しみ・・孤独・・)
叩きつけられるような黒い霧の暴風の中、ドルマの心の奥の穴に触れ、ドルマの絶望の深さがマティアスの心を真っすぐに襲う。
悲しみと孤独と絶望で、マティアスの心は大きな暗い穴の中に真っ逆さまに落ちてゆく。
あまりの恐怖と、あまりの孤独。
マティアスはにできる事は何もない。ただただ滂沱の涙を流しながら、マティアスはだが、ドルマの手を上から掴んで、目の前の「穴」を繕い続けた。
己の胸の中で苦しみに悶絶するドルマを胸に抱えながら、マティアスはドルマの痛みを、悲しみを、絶望を引き受けたのだ。
(く、苦しい、辛い、息ができない・・恐ろしい・・ドルマは、これほどの悲しみを、苦しみを、たった一人で今まで引き受けてきたのか・・苦しい、痛い・・孤独だ・・恐ろしい、恐ろしい、恐ろしい・・)
張り裂けんばかりの胸の痛みと恐怖と孤独にもがき苦しみながらも「穴」を繕っているマティアスの目と、「穴」の暗闇の向こうから、空間にぼんやりと浮かんだ大きな目が、こちらをじっと見ている目と、バチリと目が合った。
「ぎゃあああ!!!誰だお前は!!!!」
目はマティアスの頭に直接語り掛けてきた。
(マティアス。苦しいか。悲しいか。この娘を手放せば、お前はこの恐怖からも痛みからも、苦しみからも自由になる。この絶望はお前の絶望ではない。この娘の絶望だ。引き受けるな)
そしてその大きな目の後ろの暗闇の空間に、沢山の嫌な目つきをした数多の目が出現する。
(あの目は・・ドルマの母が、ドルマを遺棄した時の目だ、なんて卑怯な、何て怯えた嫌な目だ・・ああこれは・・ドルマを見る村人たちの疑いの目・・汚い目だ、いやだ、こちらを向くな・・この小さな目は、ドルマに怯える小さな子供の目だ・・あれも、これも、ああどれもこれもなんて嫌な目なんだ)
幾百、幾千の悪意や恐怖、嫌悪の目に、マティアスは耐えきれなくなる。
(やめてくれ、俺をそんな目で見ないでくれ!!!)
(手放せマティアス、お前の荷物ではない)
マティアスの頭に響き渡る。
「いやだ!!!」
「それでも俺はドルマと共にあると決めた!!!」
マティアスはあらん限りの声で咆哮すると、震えるドルマの手を力強くつかみなおして、ドルマの手から伸びている金色の糸で、ひと針、ひと針「穴」を繕ってゆく。
繕うマティアスの心に湧いてきたのは、怒りだ。
「マティアス様!!」
「なぜドルマがこんな運命を引き受ける必要があった!!なぜこの優しい娘がこんな目にあわなくてはいけないんだ?? なぜだ神よ、なぜだ、そこの目玉! 答えろ絶望の目玉よ、なぜドルマの絶望に誰も寄り添わない!!、俺は、俺だけは何があってもドルマを二度と一人になどしない!!!そこを退け!!!」
怒りに震えるマティアスの糸は、穴の後ろの数多の目を容赦なく巻き込んで、力任せに繕ってゆく。
「二度とそんな目でドルマを見るな!! 二度とドルマを悲しませるな!! そんな目で俺のドルマを見てみろ、俺がこの手でその目を繕って二度と目が開かないようにしてやる!!」
マティアスはほとんど、毛を逆立てんがばかりに絶叫して糸を操った。
マティアスの怒りで、今にも切れそうに頼りなかった糸は熱を帯びて、炎を伴いはじめた。炎を伴った糸はギリギリと金属の音を立てて、穴を溶かしてふさいでゆく。
「うおおおおおおおおお!!!!」
マティアスは穴の奥から見据えてくる目と、決して目を離さずに、ついに最後の一針をつくろって、「穴」を塞いだ。
穴を塞いだ瞬間に、一斉に世界から、数千の、数万の鈴が鳴り、世界の終わりのように大きな光が発生した。
ドルマとマティアスは大きな光に巻き込まれて飛ばされて、気を失った。
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