対人恐怖症のメンダーと辺境の騎士 ~この恋は、世界のほころびを繕う~

Moonshine

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「マティアス様、やっと目覚めましたか?」

カイルとユールだ。
二人とも、心底安心したような顔をして、嬉しそうにマティアスのベッドまで駆け寄ってくる。
急いでやってきたのだろう。二人とも息があがって、額に汗がにじんでいる。

「ああ、二人ともありがとう。さあ、あの後一体何がどうなったのか、教えてくれ、ドルマはどうしている?」

カイルが嬉しそうに言った。

「ドルマちゃんなら元気だよ。だけど少しだけドルマちゃんは怪我してたし、あんな恐ろしい目にあっただろう?そうでなくても怖がりのあの子を部屋に一人にしておくのは心配だから、ハンザをわざわざ第六から呼んできて、しばらくドルマちゃんの面倒を見てもらってるよ。今は二人で閉じこもって、部屋でお菓子を食べてるよ。ローズ様がドルマちゃんを甘やかしてどんどん高級なお菓子を部屋に送ってよこすもんだから、ハンザの舌まで肥えちゃって、俺、後が大変だよ」

そう言って、カイルは肩をすくめた。

「あら! 私だけまだ会ってももらえないし、怯えさせてはいけないから、まずはお菓子で懐柔してるのよ。雪豹の子供を懐柔するのと同じやり方よ、甘やかすだなんて人聞きの悪い事!」

ほほほ、と嬉しそうにローズは笑った。

「なるほど・・それで、カイルがハンザをわざわざ第六まで迎えに行って、第一まで連れてきたというわけだな」

言葉とは裏腹に、幸せそうな顔をしているカイルとハンザの間に、どんな会話があったのだろうかは想像に難くない。なんだかニヤニヤとだらしない顔をしているカイルの事はほうっておいて、ユールが話をつづけた。

「マティアス様、二人が穴に向かってしばらくしてから、辺境は信じられないくらいの大嵐になりました。見た事もないような大きな雹が辺境中に降って、雷があちこちに落雷して、その後凄まじい竜巻が起こって、戦闘どころではありませんでした。皆で森で避難してた所に、大きな雷と一緒に二人が意識無く結界の外に投げ出されてきたんです、絶対二人とも死んだのだと思いましたよ。その後意識のなかった二人を無事館まで運んで治療を行い、今に至ります」

「そうか・・スタンピートはその後、」

マティアスが質問を終わらせる前に、ノックもなしにレナがドン!と扉を開けて走り寄ってきて、目に涙を一杯浮かべてマティアスの手を取った。

「見事に収まったわよ! ええ、本当に見事に! マティアス様があんな雷を起こすわ、雹を降らすわで、大暴れをするものだから、魔獣もみんな怯えて人間を襲うどころじゃなくなって、しっぽを撒いて魔の森に返っていったわよ。「穴」も閉じられたし、結界は繕われたし、もう大丈夫よ、平和は戻ったわ。私、心からマティアス様の事を尊敬するわ」

その場で突っ伏して、ワンワン泣くレナの言っている事が、マティアスは理解できない。

「私が落雷を? 何を言っているレナ? 私にそんな天候を操るような大魔法など、使える訳がないだろう」

ははは、と笑って、開け放しの扉から中に入ってきたのは、レナの後ろについてきていたウルドだ。

「レナがあの日マティアス様にかけた思考共有の魔術は、放出したらその後半日は効果が続いて、少しずつ薄くなって消えるタイプのものなのです。レナあの後、高熱を出して寝込んでしまいましたよ、ドルマもマティアス様も、あんな思考に触れてよく耐えて戻ってこられた」

「そうだったのか・・それは知らなかった事とはいえ、レナには悪い事をした、」

マティアスは、身震いのするような恐ろしい「穴」からのぞく幾万の目の事を思い返して、ブルりと震えた。

「マティアス様があんな無茶苦茶するから、途中で姉さんは思考がもう抱えきれなくて、魔道具を使って思考を空に放出したんですよ。ほら、この魔道具を使って。これはドルマが繕ってくれたやつです」

ユールが差し出した、マティアスも見おぼえがある汚い布の魔法陣は、確かに思考に関与する魔法の発動を促すものだとは認識していたが、そんな効果のあるものであったとは。

魔法泊家の、思考魔法の遣い手以外は知りえない魔術で、この汚い布を繕ってドルマが渡した時にウルドが鼻息荒く喜び興奮していた事をぼんやりとマティアスは思い出す。

「姉さんが空に放出した思考の魔術を目撃して、その場にいらした大神官様が放出された思考に増幅の魔術を掛けて、それが空一杯に広がったんです。お陰でドルマちゃんの引き取った痛みと恐怖と絶望が、マティアス様を通じて、それから姉さんを通じて空一杯に広がり、辺境の人々に皆共有されてしまったんです。その後のマティアス様の怒りが一緒空に放たれたものだから、怒りが天候に影響を及ぼして、この辺境中が大嵐になって広がったんですよ。まあ、他にも色々共有されましたが・・」

それはそうとして、後でマティアス様の降らせた雹の農作物の被害を計算しておくので、ちゃんと補償案を後で立てておいてくださいね、と有能な側近でもあるユールは楽しそうに笑った。

(色々?)

マティアスが回らない頭で、ぼんやりとユールの言葉の意味を考えていると、発言をお許しください、と小さくローズに言ったメイドが、マティアスの包帯をそっと変えながら、控えめに言った。

「・・マティアス様。私達もそうですが、あの思考に触れた辺境中の人々は、皆神殿に押しよせて、世界の為に、二人の為に祈りを捧げました。世界の傷も、世界の悲しみもドルマちゃんとマティアス様の二人だけで背負う咎ではありません。世界の苦しみも、悲しみも、生きている全ての我々等しく背負うべきだと、そう悟りました。そしてマティアス様のお心に触れて、お二人は誰にも邪魔される事なく幸せになって欲しいと、辺境の皆がそう願っています」

そして見事な繕いが施されている古いエプロンで、そっとまなじりを拭った。

「メンダーは、綻びが発生した世界が必要とした時に、生まれるんだ。その能力で、その世界の綻びを繕うために」

ウルドは遠くを見ながら、ため息をついて言った。

「レナ。ユール。私達魔法伯一族の認識は間違っていた。メンダーは厄難でも、災害でもない。愚かな我々への世界からの贈り物だったんだ。ドルマはこの辺境への祝福だ」

メンダーの研究を重ねてきた一族の長は、まだ泣き止まずにいるレナと、ユールを抱き寄せた。
長い歴史を誇るこの魔法泊家は、今日この瞬間から生まれ変わるだろう。
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