対人恐怖症のメンダーと辺境の騎士 ~この恋は、世界のほころびを繕う~

Moonshine

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エピローグ

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パタン、と静かに部屋の扉が閉じられて、ようやくマティアスは部屋に一人となった。

静けさが戻った部屋で、マティアスは一人ベッドに横たわり直して、マティアスは目覚める前に起こった怒涛の出来事を自分なりに理解しようと目を閉じた。

(・・あの日、我々は綻んだ結界の先に向かった。ドルマが大聖女の結界を繕った後に、二人で魔の森に発生した「穴」に向かった。大聖女の残留思考は言った。「世界の痛みは一人では引き受けられない」と。だがドルマは犠牲者なしで「穴」を閉じた。「穴」の向こうにあったのは世界の絶望、ではなぜドルマは閉じる事ができたのだろう・・)

コンコン、と扉を叩く音がする。

「色男、やっと目覚めたか」

今度入ってきたのは、父であるヴァルクだ。
頭に大きな包帯が巻かれて、首にはギブスがはまっているところを見ると、先ほどローズが言っていたように、かなりの重傷だったのだろう。

「父上。父上こそご無事のご生還で何よりです」

「マティアス、積もる話もあるのだが、とにかく目覚めたお前にドルマがどうしても会いたいというから連れてきたよ。さあドルマ、今部屋はハンザが人払いをしてくれたからマティアス以外誰もいない。扉は閉めている。大丈夫だ、安心して出ておいで」

ヴァルクの大きなローブの下で、モゾモゾと部屋の様子を伺って、キョロキョロと動く小さな塊が見えた。誰もいないか確認している、臆病な娘がそこにいる。

マティアスの口角が大きく上がった。

「ドルマ!!」

マティアスは大きく腕を広げて、ヴァルクのローブの下から子猫のように飛び出してきた、世界で一番愛おしい、大切な小さな塊をしっかりとその胸に抱きしめた。

「ドルマ!!会いたかった・・」

「マティ様、マティ様!!」

子供のようにえんえんとマティアスの胸で、ドルマは泣き続ける。

「ドルマ、泣かないで。私によくその可愛い顔を見せてくれ、ああ、ドルマ、ハンザから指を怪我したと聞いていたよ。痛くないかい、怖くないか?」

「痛くないです、もう大丈夫です。マティ様こそ、私をたくさん庇ってこんなにお怪我をされて・・ご無事で本当によかった、もう二度とマティ様がお目覚めにならなかったらどうしようかと、ずっと心配だったんです」

「ドルマ、言っただろう? マティアスはただ眠っているだけだよ、と。あれだけの魔力の放出があったんだ、昏睡は普通の状態なんだよ」

ベッドに近づいて、ドルマの頭を撫でながらヴァルクは優しくそう語りかけた。

「でも、でも・・」

「ああ、そうだね、心配だったんだよね」

なんとなく仲良くしている二人に苛立ちを覚えたマティアスは、ドルマをぎゅっと引き寄せてヴァルクから引き離した。ヴァルクは呆れたようにそんな息子を見ていたが、気を取り直して少し真剣な顔をしていった。

「息子よ。魔の森に発生した「穴」は閉じられて、大聖女の結界も綻びも繕われた。スタンピートは平定されて、魔女たちがもう魔の森に帰ってきているのが目撃されている。未曾有の大災害は、お前とドルマの手によって未然に治められた。私はお前たちを誇りに思う」

ヴァルクの目には、うっすらと涙が浮かんでいた。

「よかった・・」

父の顔を見て、マティアスはようやく安堵のため息を漏らした。そして、心にずっと浮かんでいた疑問を口にした。

「・・父上、大聖女の思考は「穴」は一人では繕う事はできないと。なぜドルマは一人の犠牲も必要せずに、「穴」を繕えたのでしょうか」

「ああ、レナが触れた大聖女の思考については、全て報告書に記載させて、大神官に大聖女の言葉の解釈を依頼した。大神官の解釈によると、解釈は二通りが可能だと。一つは「犠牲者なしに穴を縫うことはできない」そしてもう一つは、「一人であれば、引き受けられないが、二人以上であれば、引き受けられる」という解釈だった。後の解釈が正とすれば、一人以上であれば。つまりドルマとお前の二人であれば、可能であったという事だ」

マティアスは天を仰いでため息をついた。

「まるで魔女との取引の時のような二重の意味合いのある言葉だったという事ですね」

魔女の二枚舌は、魔女と取引をする人々の中では最も忌憚され、最も用心されるものだ。
魔女達は、人と契約を結ぶ際の内容に、いく通りとも解釈ができる文面をわざと挿入して、契約を締結させる。
魔女が忌み嫌われる理由の一つがこれだ。

「大聖女は、元々は大魔女の双子の妹だという噂があるけれど、あながち世迷言と片づける話でもないのかもしれないな」

大聖女の類い稀なき聖力は、偶然にも大魔女の魔力とほぼ同じ量であることは、この噂に信憑性の裏付けがあると、まことしやかに囁かれている。

ヴァルクの言葉に感慨深く頷いていたマティアスだったが、マティアスの胸元でもう一つの不可解な疑問を口にしてみる。

「・・・それにしてもドルマ、君は一体何を恥ずかしがっているんだ? 君は怖がりなのは知っているけれど、私が眠っている間に何か恥ずかしい事があったの?」

「お前なあ・・何も聞いていないのか?? あの日の事は、他に何を知っている?」

「繕っている最中の「穴」と私の思考がレナに共有されていて、大神官の増幅魔法で空に共有されて、私の思考が怒りを伴うものであったため、怒りに影響を受けた空に悪天候を呼んだと。悪天候の影響で魔獣達が怯えて、スタンピートが治まったとも・・雹によってもたらされた農作物の被害の補償案をこれから考えないといけないとユールから聞いたばかりですが、それの他にも何か・・?」

ヴァルクは、はあー、とため息をつくと、

「いや、お前が受けた報告が全てだ。だがお前、まさか思考の共有魔術が、「穴」の思考と、お前の世界への怒りだけを空に反映したとでも思ったのか? お前の頭に溢れかえっている、ドルマに対するお前の思いもついでに一緒に、この辺境の空中に鳴り響いてこっちがこっ恥ずかしかったわ!!!」

マティアスは思わず驚きのあまり、ベッドから転がり落ちた。

「ええ!! 父上!!! ドドドドドルマ、それは、ほほほ本当なのか!!!」

マティアスが転がり落ちたベッドの上で、小さくちょこんと座っていたドルマは、恥ずかしそうに俯いて、首を縦に振った。

「ぎゃあああ!!!」

ガハハと笑いながら、悪い顔をしてヴァルクは言った。

「行儀のよいお前にしては、なかなか情熱的で自己中心的な本音が全開で、悪くなかったぞ。「あれだけ苦労してやっと恋人になれたんだ、「穴」如きに邪魔されてたまるか」だの「くそう、これからやっとイチャイチャできると思ったらどいつもこいつも」だの、お前がそんな怒りを全開ににするたびに大きな雹がふるものだから」

「父上!!!やめてください!!!」

(くそ、道理で私やユールなど、実家の飼い猫よりも序列は下だと豪語していたようなレナが、私の事を見直したなどという訳だ・・道理でカイルがニヤニヤしていたわけだ・・あ! くそ、ハンザが言っていた事はそういう意味だったのか・・)

マティアスは転がった先で羞恥に打ち震えて、ジタバタと足と肩を震わせる。
ベッドの上でうつむいているドルマは、ダンゴムシのように丸く丸まって、耳まで真っ赤だ。

「他にも色々世界に対する怒りの真ん中で、まあ惚気る惚気る。惚気が入るたびに空には虹が刺すし、怒りの度に雹が振ってくるしで魔獣も人間も恐怖に打ち震えておったわい。ああ、そうだ、お前ドルマちゃんの顔もえらく好みなんだな、世界中にそう宣伝したはいいが、本人にはちゃんと直接伝えたのか? 「ドルマちゃんの可愛いエクボに指を突っ込んでそれを眺めながら一日過ごしたい」だの、気持ち悪い性癖まで世界に喧伝して、そりゃ可哀想なドルマは恥ずかしくて誰の顔も見られんわ」

「父上・・もう許してください・・」


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