対人恐怖症のメンダーと辺境の騎士 ~この恋は、世界のほころびを繕う~

Moonshine

文字の大きさ
8 / 87
辺境の土地・ディトマス第六要塞

しおりを挟む
「おーい起きろ新人! さっさと準備しろよ」

まだ幼さすらを感じるような屈託のない笑顔で、テムジンは宣言通り夜明け前から3人を迎えにきてくれた。

「早く食堂にいかないと、メシがなくなる事はないけど牛乳がなくなるんだ」

牧場の子であるテムジンにとって、朝食時に牛乳のあるなしは随分な大事らしい。
三人は苦笑いして眠い目を擦ってテムジンについてゆく。

食堂は昨晩案内された大食堂だ。三人の部屋のある棟の、1階の奥にある。

「あ、よかった、残ってた!」

テムジンは嬉しそうに牛乳を4杯確保すると窓際の席に3人を誘った。
この場所の窓からは美しい日の出が見えるとの事、テムジンのお気に入りの席だそうだ。

「おおテムジン、この3人がお前の後輩か!よく面倒見てやるんだぞ」
「お前もやっと新人じゃなくなったな、おめでとう先輩!」
「おお、さすが北の傭兵だ。3人ともでかいな!特にこっちの兄ちゃんはすごい筋肉だ!これはすぐに戦力になりそうだ、頼むぞ」

続々と4人の元にやってくる騎士たちは、みな気さくにそうやって温かい声を掛けていく。
テムジンは嬉しそうにその度に皆に3人を紹介して、親しげに声を交わしていた。

(この砦は非常に雰囲気が良い)

マティアスは安堵して、本当はあまり好きではない牛乳を飲んだ。

魔獣と戦う最前線では、兵隊達の気が立っている事が多い。
兵士同士の諍いは、実は最前線での「事故」の大変多い理由の一つだ。

マティアスが要塞の責任者となってから一度兵士同士の諍いによる死傷事件が発生した事がある。
心を痛めたマティアスは、それからは定期的に兵士同士の緊張状態をほぐすように楽団を呼んだり、祭りを開催したり、家族感謝デーを設けたりと息抜きを設ける事にも尽力している。

「おお、お前たちがマティアス様が言っていた新兵だな、よく来てくれた。この土地は気候が荒いからな、最初は無理せずに体を慣らしてくれ」

やや時間がたってより現れたのはこの要塞の責任者であるダンダップだ。
ニコニコと笑顔で、(それもどうかと思うのだが)全くこの3人の正体には気もついていない様子だ。
ダンダップは食堂の隅に野菜の箱を重ねて作られている簡易の壇上にのっそりと上がると、えへん、と咳払いをして言った。

「みんなー、よく聞け、第6に新人が来たぞ。この三人は、なーんちゃって」

くだらなすぎるこの男の冗談に、食堂中の男達が爆笑の渦に巻き込まれた。

「あんたらは北からきたのか?そりゃいいや!」
「北のお人か!よろしくな」
「寒い所は大丈夫なんだろう、たよりになるな」

隣のテーブルにに座っていた騎士達が、ダンダップの冗談に笑いながら三人に声を掛けてきた。

和やかだ。実に和やかだ。
とてもこの場所が、魔獣との闘いの最前線の、生と死が隣り合わせの要塞とは思えない。

マティアスは口を開いた。

「この砦は雰囲気が良いですね、たいていの砦では緊張状態が続くと殺伐とした雰囲気になるのですが、何か雰囲気のよくなる秘密でもあるのでしょうか」

「うーんそうだな、この砦では鹿とリンゴが採れるから、まあメシは旨い所が秘密といえば秘密かな」

なあ、おかみさん!

そうダンダップはマティアスに答え、壇上から食堂のおかみさんに大きな声を掛けた。
遠くに見えるふくよかな食堂のおかみさんは、嬉しそうに手を振っていた。

非常に微笑ましい場所だ。
温かい気持ちになって、ようやくマティアスも朝食を一口食べてみる。

味はどこにでもある普通の美味い砦の朝食だ。

マティアスの側に控えていたユールが、気づかれないように魔道具を使っているのが見えた。
おそらく食事の成分の調査だ。
一見普通にみえる食事でも、調理の際に使っている水に祝福がかけられていたり、聖なる山からの収穫物である場合は、魔道具が反応する。

だが、ユールはマティアスの方を向くと、小さく首を振った。普通の成分だったらしい。

上に立つ立場のダンダップの、いかにもお人よしな感じががこの砦の緩い雰囲気の秘密であるのだろうが、テムジンとの握手から察するに、訓練は新兵にもきちんとそれなりに厳しく行われている様子だ。

ここはただの普通の、だが雰囲気の良い要塞にしか見えない。
なら、この要塞だけ、死傷者ゼロという偉業を成し遂げた秘密は言ったい何なのだろう。

(まあ良い。一週間ほど訓練に参加すれば何かが見えてくるだろう)


しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたのでファンシーショップ始めました。 ― 元婚約者が、お人形さんを側室にしようとして大恥をかきました ―

鷹 綾
恋愛
隣国の王子から「政略的にも個人的にも魅力を感じない」と婚約破棄された、ファンタジア王国第三女王タナー。 泣きも怒りもせず、彼女が考えたのは――「いつか王宮の庇護がなくなっても困らない生き方」だった。 まだ八歳。 それでも先を見据え、タナーは王都の片隅で小さなファンシーショップを開くことを決意する。 並ぶのは、かわいい雑貨。 そして、かわいい魔法の雑貨。 お茶を淹れてくれるクマのぬいぐるみ店員《テイデイ・バトラー》、 冷めないティーカップ、 時間になると小鳥が飛び出すアンティーク時計――。 静かに広がる評判の裏で、 かつての元婚約者は「お人形さんを側室にしようとして」赤っ恥をかくことに。 ざまぁは控えめ、日常はやさしく。 かわいいものに囲まれながら、女王は今日も穏やかにお店を開けています。 --- この文面は ✔ アルファポリス向け文字数 ✔ 女子読者に刺さるワード配置 ✔ ネタバレしすぎない ✔ ほのぼの感キープ を全部満たしています。 次は 👉 タグ案 👉 ランキング用超短縮あらすじ(100字) どちらにしますか?

虐げられた私が姉の策略で結婚させられたら、スパダリ夫に溺愛され人生大逆転しました。

専業プウタ
恋愛
ミリア・カルマンは帝国唯一の公爵家の次女。高貴な皇族の血を引く紫色の瞳を持って生まれたワガママな姉の陰謀で、帝国一裕福でイケメンのレナード・アーデン侯爵と婚約することになる。父親であるカルマン公爵の指示のもと後継者としてアカデミーで必死に勉強してきて首席で卒業した。アカデミー時代からの恋人、サイラスもいる。公爵になる夢も恋人も諦められない。私の人生は私が決めるんだから、イケメンの婚約者になど屈しない。地位も名誉も美しさも備えた婚約者の弱みを握り、婚約を破棄する。そして、大好きな恋人と結婚してみせる。そう決意して婚約者と接しても、この婚約者一筋縄ではいかない。初対面のはずなのに、まるで自分を知っていたかのような振る舞い。ミリアは恋人を裏切りたくない、姉の思い通りになりたくないと思いつつも彼に惹かれてく気持ちが抑えられなくなっていく。

結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。

しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。 友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。 『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。 取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。 彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。

婚活をがんばる枯葉令嬢は薔薇狼の執着にきづかない~なんで溺愛されてるの!?~

白井
恋愛
「我が伯爵家に貴様は相応しくない! 婚約は解消させてもらう」  枯葉のような地味な容姿が原因で家族から疎まれ、婚約者を姉に奪われたステラ。  土下座を強要され自分が悪いと納得しようとしたその時、謎の美形が跪いて手に口づけをする。  「美しき我が光……。やっと、お会いできましたね」  あなた誰!?  やたら綺麗な怪しい男から逃げようとするが、彼の執着は枯葉令嬢ステラの想像以上だった!  虐げられていた令嬢が男の正体を知り、幸せになる話。

キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる

藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。 将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。 入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。 セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。 家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。 得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。

追放聖女35歳、拾われ王妃になりました

真曽木トウル
恋愛
王女ルイーズは、両親と王太子だった兄を亡くした20歳から15年間、祖国を“聖女”として統治した。 自分は結婚も即位もすることなく、愛する兄の娘が女王として即位するまで国を守るために……。 ところが兄の娘メアリーと宰相たちの裏切りに遭い、自分が追放されることになってしまう。 とりあえず亡き母の母国に身を寄せようと考えたルイーズだったが、なぜか大学の学友だった他国の王ウィルフレッドが「うちに来い」と迎えに来る。 彼はルイーズが15年前に求婚を断った相手。 聖職者が必要なのかと思いきや、なぜかもう一回求婚されて?? 大人なようで素直じゃない2人の両片想い婚。 ●他作品とは特に世界観のつながりはありません。 ●『小説家になろう』に先行して掲載しております。

私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私は実は“本物の聖女”でした。 

さら
恋愛
 私――ミリアは、クラスで地味で取り柄もない“都合のいい子”だった。  そんな私が、いじめの張本人だった美少女・沙羅と一緒に異世界へ召喚された。  王城で“聖女”として迎えられたのは彼女だけ。  私は「魔力が測定不能の無能」と言われ、冷たく追い出された。  ――でも、それは間違いだった。  辺境の村で出会った青年リオネルに助けられ、私は初めて自分の力を信じようと決意する。  やがて傷ついた人々を癒やすうちに、私の“無”と呼ばれた力が、誰にも真似できない“神の光”だと判明して――。  王都での再召喚、偽りの聖女との再会、かつての嘲笑が驚嘆に変わる瞬間。  無能と呼ばれた少女が、“本物の聖女”として世界を救う――優しさと再生のざまぁストーリー。  裏切りから始まる癒しの恋。  厳しくも温かい騎士リオネルとの出会いが、ミリアの運命を優しく変えていく。

王太子に愛されないので、隣国王子に拾われました

鍛高譚
恋愛
「王太子妃として、私はただの飾り――それなら、いっそ逃げるわ」 オデット・ド・ブランシュフォール侯爵令嬢は、王太子アルベールの婚約者として育てられた。誰もが羨む立場のはずだったが、彼の心は愛人ミレイユに奪われ、オデットはただの“形式だけの妻”として冷遇される。 「君との結婚はただの義務だ。愛するのはミレイユだけ」 そう嘲笑う王太子と、勝ち誇る愛人。耐え忍ぶことを強いられた日々に、オデットの心は次第に冷え切っていった。だが、ある日――隣国アルヴェールの王子・レオポルドから届いた一通の書簡が、彼女の運命を大きく変える。 「もし君が望むなら、私は君を迎え入れよう」 このまま王太子妃として屈辱に耐え続けるのか。それとも、自らの人生を取り戻すのか。 オデットは決断する。――もう、アルベールの傀儡にはならない。 愛人に嘲笑われた王妃の座などまっぴらごめん! 王宮を飛び出し、隣国で新たな人生を掴み取ったオデットを待っていたのは、誠実な王子の深い愛。 冷遇された令嬢が、理不尽な白い結婚を捨てて“本当の幸せ”を手にする

処理中です...