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制服管理課のドルマ
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マティアスとユールと、そしてカイルは、頭上からの仲間の爆笑を感じながら、ゆっくりと馬場のぬかるみの泥の中から重そうに体を起こした。
「あーあ、新人さんついてないな、しばらくそこでそのまま伏せてろ、危ないぞ」
「昨日雨が降ったばかりだったからねえ、それにしても戦闘が終わったら早く風呂に入ってこないと、ヒゲについた臭いが取れないよ」
マティアス達が第6に潜入しておおよそ10日が経過した。
和やかで、実に居心地がよい場所だが、別段気になる事は今の所なにもない。
意外だった発見は、訓練は案外厳しめだった事くらいだろうか。
高地での久しぶりの本気の走り込みに、さすがの3人も息があがる。
この第6要塞では走り込みが訓練の大きな部分を占めている。
剣術や魔術には各々厳しい鍛錬を積んできて、戦闘には多少の自信がある3人も、ここの所の式典の準備やらで書類仕事が続いていた中、結構体力が落ちていた様子だ。
急斜面の山の牧場をかけまわって育ってきた、少年のように細い体のテムジンにすら体力は遥かに及ばない。
ひいひいと息もたえだえに走り込みをしていたら、そんな中、急に小型の飛竜が襲来してきたのだ。
普段であれば3人は馬上から剣を一振りか、魔術を展開すればそれで終了だが、今回はぬかるんだ足元でのなれない走り込みの最中、初動を誤って、3人は思い切りぬかるみに頭からつっこんでしまったのだ。
ぬかるんだ地面を走っていた第6の兵士達は、そんな3人を爆笑で労りながらもキビキビと動いて一気に戦闘態勢に入る。
「来たぞ!」
こちらに飛来してくる飛竜に、槍部隊が一気に槍を空に向かって放った。
地面から飛竜は相当の距離だ。恐らく槍が当たる事はないだろう。
だが、槍部隊の最後尾にいたダンダップのはなった槍がどうやら少しだけ、飛竜の尻尾をかすめたらしい。
飛竜が要塞に飛来した狙いは中庭で飼っているニワトリだったらしく、すでにお目当てのニワトリをクチバシに咥えていた飛竜はそのまま痛みを感じてグええ!と大きな鳴き声をあげると第6から飛び去った。
怪我人なし。見事だ。
掠っただけにしろ、飛竜の尻尾に槍で痛みを与えられて、飛竜の戦闘意欲を削った事は実に幸運だった。
機嫌の悪い飛竜に運悪く戦闘体制に入られると、とんでもない大事にもなりかねるのだ。
今回の飛竜の到来の被害は3人の新人が馬場の馬糞がドロドロに溶けた泥を頭から浴びただけ。
「ダンダップ隊長、見事な槍の腕です。あのサイズの飛竜の到来で、被害無しですむとは素晴らしい」
馬糞入りの泥だらけの姿でマティアスが心からの賛辞をダンダップに贈った。
ダンダップは微笑んだ。
「いやいや、今日は手袋を手になじんだものにしていたから、たまたま運が良かっただけだよ。この手袋じゃななかったら掠りもしてない。俺は老眼の上に四十肩だからな・・あ!だけど・・」
効き洩らしてはならない大切な情報か、と、マティアスはごくりと喉を鳴らして次のダンダップの言葉を待った。
ダンダップは厳しい顔をすると、大きく息を吸い込んで、そしてゆっくりと言った。
「四十肩がひどくて、シップがしっぷう(疾風)みたいに飛んでっちゃった!なーんちゃって!」
くだらないダンダップのギャグにどっと沸く周囲に3人はずっこけるが、ずっこけた目線の先に見えたのは、ダンダップの手元だ。先ほどダンダップが言っていた手袋は、ぼろぼろ、という言葉がふさわしい、あちこちがつくろわれた手袋だったのだ。
だがそんな和やかな空気の中、マティアスの目はギラりと光る。
ダンダップが式典の為に最正装していた際ですら、手放そうとしなかったぼろぼろの手袋。
「あー、いつもながら隊長のギャグは最高だな!」
娯楽の少ない要塞では、こんなギャグでも騎士達に相当喜ばれている様子だ。
「やっぱりか!ドルマちゃんのおかげだったか」
「隊長はギャグは最高だけど、あんま槍は得意じゃないもんな、まぐれまぐれ」
怪我の一つもない部隊の隊員はみな、のんびりと楽しそうに笑っていた。
もし運が悪ければ、大惨事になりかねなかった事を知らないでいるほど、この隊の連中が能天気ではない事はマティアスもよく知っている。
「ドルマちゃん・・ですか」
「ああ、マティ、さっきのゴタゴタで君の制服の膝がやぶれている。丁度いい、テムジン、この三人を制服管理部につれていってやれ。あ、大事な事を思いついたぞ・・」
3人が身構えるなか、厳しい顔でダンダップは言った
「ズボンが破れたら、ズボーンって音がした!」
他の兵士たちがどっと笑いを起こす中、テムジンが偉そうにマティアスに言った。
「マティ、おい、お前独身か? 警告しておくが、ドルマちゃんにはちょっかい出すなよ。声もかけるなよ、あの娘は酷い対人恐怖症なんだ」
「えっと・・そのドルマちゃんとやらは何者ですか?」
「制服管理部の、繕い物係りの女の子だよ。あの子に繕ってもらったら、なんだかちょっと、上手く行くんだ」
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