対人恐怖症のメンダーと辺境の騎士 ~この恋は、世界のほころびを繕う~

Moonshine

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ドルマの一日

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ドルマの朝は早い。
まだ日が上る前から起き出して、身支度すると、廊下に誰もいない事を確認して、真っ黒なローブで姿を隠してすぐに食堂まで全速力で走る。

ドルマの寮は女子寮の最上階の、一番隅にある。

女子寮の最上階の部屋は、この大きな要塞の女子寮の中で、一番部屋が小さい上に時々雨漏りがするので、全く人気がない部屋だ。
そのせいで、ドルマの部屋の両隣が空室になっている最上階の部屋は、対人恐怖症のドルマにとっては、多少狭いが人と鉢合わせる確率が少ないだけで、天国だ。

ドルマの小さな部屋は他のメイドや洗濯娘たちの部屋に比べて何もなく、殺風景だが、たくさんのドルマの仕事道具である繕い物の道具に囲まれていて、ドルマはこの部屋にいる時がとても落ち着く。
繕い物に使うキノコのような形の道具には、それぞれ名前がついている。
糸を入れる箱や缶は、時々やってくる王都からの行商から購入する、キャンディやチョコレートの缶でとても気に入っている。
壁には絵の一つも飾られていないが、小さな窓からは美しい峠の断崖が見渡せる。
継ぎだらけのカーテンも古いものだが、ドルマが自分の気に入っている布で継いだ、素敵なカーテンだ。

誰も起き出してこないうちに、食堂から大急ぎで並んでいる朝食をもらってくると、その足で大急ぎで制服管理室に走る。

ドルマよりも朝の早い食堂のおかみさんは、ドルマが対人恐怖である事に胸を痛めていて、ドルマがコソコソ食堂に食事をとりにやってきても、後ろを向いて作業をしてドルマがやってきた事を知らんぷりしていてくれる。

それでもドルマの事を気にかけてくれていて、ドルマが風邪を引いた時は、いつの間にかドルマの朝食用のトレイにそっと暖かいスープを乗せておいてくれるような、そんな心の優しい人だ。

(朝ごはんをありがとう、おかみさん)

ドルマは、ドルマが食堂に入ったことを知ってくるりと背を向けてくれたおかみさんの大きな背中に、心の中で声をかけた。

この頃にはチラホラと早出の職員が出てくるので、急がないと人に出会ってしまう。

今日はもう2人ほどの早出の清掃担当の職員に、制服管理室に帰る道道で鉢合わせてしまい、ドルマは仕事をする前からもう心労でヘトヘトだ。

(まだ胸の動悸が収まらない・・本当に怖かったわ)

制服管理課のドアを内側からしめて、ようやくドルマは一息ついて、ほっと黒いローブを脱ぐ。
ゆっくりと一人でトレイごと持ってきた朝の食事を終えた頃に、ようやくハンザが出勤してくる。

「ふわー、まだ眠いわああ・・おはようドルマ、えっと・・お!今日はパンケーキが朝ごはん? ラッキー、美味しそうね、すぐいってくるわ!」

ハンザは近くの実家から通いで通勤しているため、ドルマに比べてゆっくりの出勤だ。

ハンザが朝食に食堂に出るあたりで、ドルマの一日の仕事が始まる。
毎日20ほどの制服の継ぎ当てや補強。
毎日毎日、ドルマはその一つ一つに丁寧に取り組みながら、制服の持ち主の安全を祈る。

ドルマが朝食から帰ってきたら、騎士達がやってくる、1日で一番忙しい時間帯だ。
次々に騎士達が新しく継ぎの必要な制服を持ってくる。

誰かが制服管理課のドアをノックするたびに、ドルマは怯えて衝立の向こうに隠れて人が去るのを待つのだが、ハンザはドルマと違って陽気で社交的で、訪ねてきた騎士達とよくおしゃべりをして楽しそうだ。

ドルマは対人恐怖症だけれど、人の話を聞く事自体は好きなので、ハンザと騎士達の長話は割と歓迎している。
そうやって、ドルマは制服の持ち主である騎士達とハンザの雑談に耳を傾けながら、制服の継ぎ当てをする事はドルマにとってとても楽しいのだ。

(ああ、この穴がさっきのドルジさんが言っていた、沼で発生した蛙魔獣の仕業ね。こんなの大きいのに二十匹も飛びかかられたら、ドルジさん怖かったでしょうね。しっかり繕ってあげよう)

昼食は、要塞内郵便を使って、部屋に配達してもらう。
ドルマに食事が届くころには食事がすっかり冷めているのは残念なのだが、人でごったがえす昼食時の食堂に出向かなくて良いのであれば、冷めた食事を食べる方がドルマにとってよほどマシだ。

ハンザは昼食を楽しみにしている上、友人とおしゃべりしながら食べるので、仕事に帰るのはだいぶゆっくり目だ。

今までドルマは昼食を食べたら、ハンザのようにお話しする友人がいるわけでもなく、散歩に出るわけでもなく、特にすることがないので、食事を終えたらすぐに仕事に戻っていた。

だがここ最近は、昼食後のドルマには大きな楽しみがある。

冷めた食事を終えると、ドルマはいそいそと昼の便で届いた制服管理課に届いた要塞内郵便の束を取り出した。
ほとんど全てはハンザ宛のものだが、最近は一通は必ずドルマ宛ての手紙があるのだ。

(あった。いつも本当に綺麗な文字ね)

お馴染みとなった、美しい青い便箋は、マティからの手紙だ。

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