対人恐怖症のメンダーと辺境の騎士 ~この恋は、世界のほころびを繕う~

Moonshine

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テムジンの牧場

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「ほら、あそこだよ!」

深く切り立った山岳地の間に、広々とした美しい緑の草原がみえてきた。
テムジンの牧場はかなり大きな牧場で、牛の他にも羊や山羊がいる様子だ。大きくこちらに手をふっている人々の姿が遠くに見える。どうやらあれがテムジンの家族らしい。馬車の馬の上から、テムジンが大きく手を振り返しているのが見える。

テムジンのお父さんとお母さんと兄弟たちだ。テムジンは長男で、5人の弟妹がいるのだとか。

「兄ちゃんおかえり!」
「うわ、でっけえ人達だ!」

北の傭兵の恰好がよほど珍しいらしい、あっという間にマティアスとカイルの馬は子供達に囲まれてしまった。

「こら、お前ら迷惑かけるなよ。手紙で知らせた通り、ここのマティが牛乳があまり好きじゃないっていうんだよ。うちの牛乳を飲ませたら考えも変わるだろうと思って連れてきてやったんだ。お前ら、しぼりたてをもってきてやれ!」

テムジンの言葉に子供達は大騒ぎだ。

「ええー!牛乳が好きじゃないなんて、お兄ちゃんおかしいんじゃないの?」

「きっと北には碌な牧場がないんだよ。牛乳が好きじゃないなんて、そりゃどこかおかしいよ」

「あんたたちそう言ってやらないの! この美味しい牛乳も知らない可哀そうな北のお方に、わたしたちが世界で一番美味い牛乳を振舞ってやればいいのよ。お兄ちゃんたち、牛舎に案内するわ、こっちにおいでよ」

子供達の大騒ぎを見る以上、この家の牛乳至上主義はテムジンに限った事ではなさそうだ。

「やあ、北のお方と制服管理課のお嬢さんたち。俺はテムジンの親父で、こっちは俺の奥さん。で、このちびたちがテムジンの弟妹だ。よく来てくれた」

いかにも柔和そうな牧場の主の夫婦が現われて、マティアスとカイルに握手を交わした。

「こんにちわ!おばさんのミルクプリンは最高だって、テムジンが言うから、きちゃいました!私、ハンザです。初めまして」

ハンザが幌馬車から出てきて、商会の娘らしくテムジンの母に丁寧に挨拶をする。

「まあ! こんな可愛い女の子までがこの牧場まできてくれるだなんて。テムジンは要塞で頑張っているのね」

テムジンの母は、感慨深そうにテムジンの頬に触れた。

テムジンは照れ臭そうに言った。

「よせよ母ちゃん。でも、要塞ではみんな良くしてくれてるよ。あ、それから母ちゃん、幌馬車の中にいるのがハンザと同じ制服管理課のドルマちゃん。手紙で書いた通りで、ドルマちゃんは対人恐怖があるからみんな幌馬車に近づくなよ。ドルマは色々怖いのに、それでも母ちゃんのミルクプリンが食べたいっていうから、みんなで考えて、頑張ってここまできてくれたんだぜ」

「・・そう、ドルマちゃんには色々あったのね。怖かったろうに、ここまで来てくれてありがとう」

テムジンの母は、うっすらと涙を浮かべてそう言った。
この山間の牧場での素朴な生活の中ですら、魔獣の急な襲来で一家全滅の危機に瀕した事があったほど、この辺境は危険と隣り合わせの地だ。

一体ドルマの身に何があったのかは、語らずとも察する。

テムジンの母は、目を瞬いて、顔を作り直すと、大きな笑顔で幌馬車に向かって言った。

「ようこそドルマちゃん。そこでゆっくりくつろいでいてちょうだいね。あとでプリンの出来立てを届けてあげるわ。さあハンザちゃん、牧場は始めて?よかったら乳しぼりをしてみない?」

「してみたいです!うわー、はじめて!」

テムジンは皆んなのリーダーになったかのごとく偉そうに胸を張ると、

「じゃあいいな、みんな俺についてこい!世界で最高の牛乳を飲ませてやる!」

と大威張りで牛舎に向かって歩き出した。

「じゃあねドルマ、後でプリンを持ってきてあげる!」

ハンザの大きくて嬉しそうな顔を幌馬車の幌の隙間から見送って、ようやくドルマは大きく息をついた。

(やっと一人になれた・・ああ、緊張したわ・・)



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