対人恐怖症のメンダーと辺境の騎士 ~この恋は、世界のほころびを繕う~

Moonshine

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辺境伯

取り調べ:孤児院長

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ようこそこんな地下牢までお越しくださいました。
事情聴取ですよね、ええ。お待ちしていましたよ。弟の聴取は終わりましたか? あの子は話が長いですからね。お手間を取らせないように簡潔に参りましょう。

ええ、そうですね。うちの孤児院でドルマを引き取ったのはドルマが3歳くらいの頃でしたね。
その頃から対人恐怖が酷かったですけれど、成長するにつれてどんどん酷くなっていきました。

理由ですか?
騎士様もよくご存じの通り、あの子の周りではおかしな事ばかり起こるのですよ。
大人は薄気味悪がるし、子供は怖がるしで、すっかり臆病になってしまいましてね。
・・私はね、あの子には孤児だと言い聞かせていますけれどね、あの子は戦争のどさくさで保護者から捨てられた子だと思っていますよ。
だってね、あの子が最初に来ていた服には、悪魔除けのおまじないが貼ってあったんですよ。それも、内側に。
あの子を悪魔だと言って、戦場においていった大人がいるのでしょう。あんな小さな子供に、どうしてそんな事ができるんでしょうね。本当に人間とは恐ろしい生き物です。
あ、騎士様、これは絶対にドルマには言わないでくださいね。私と騎士様の間だけの秘密の話にしておいてください。ドルマをこれ以上傷つけたくないのですよ。そうですか、お優しい騎士様、感謝します。

他にドルマの周りでどんなおかしな事があったかですか?
そうですね、本当に色んな事がありましたよ。
例えばですけれど、孤児院で飼っていた犬が、魔獣に襲われて足がもがれてしまった事があったんです。
ドルマの可愛がっていた犬でね、灰色のやせっぽっちな犬でした。
可哀そうな話ですが、時々この場所でも、魔獣が襲来すればそんな事はあります。
それだというのに、そんな事があった次の日にその灰色の犬のもがれた足がつながっていたんですよ。夢でも見ていたのかとおもって犬の足をみてみると、足は妙にまがっていて、間違いなくもがれた跡がありました。
本当に不思議な事でしたので子供達に聞いてみたら、もちろんみんな知らないと言っていたのですけれど、ただドルマだけ「私が繋いだの」とそう言ってね。
その犬ですか?どこかに逃げてしまって、今ではどこにいるのかもわかりません。

いいえ、それだけではありません。他にも色々とおかしな事がありました。
孤児院の職員の娘が、峠の門番の男に恋をした事があったんですけどね。
その門番は期間傭兵でしたので、契約が終わったら国に帰る予定だったので、娘は自分からは何も言わなかったんですよ、別れる時、辛くなる事は目に見えていましたからね。
その職員の娘はドルマを可愛がっていた娘でね。
ドルマも、自分を可愛がってくれている娘が門番の男に恋していたのを知っていたのでしょう。
何をどうしたのか私にはわかりません。
でも、ドルマがある日妙にニコニコしているので聞いてみたら、「私、二人を繋いだの」というんですよ。
それからしばらくして、辛い別れが決まっているというのに、目に見えない力でつながるかのようにあの二人は結ばれてしまって。
別れの日のああ、娘の嘆きっぷりは見てはいられなかったですよ。
こんなつらい事が待っていると知っているから、決して傭兵の男に思いなどを告げるつもりも、縁を結ぶつもりもなかったのに、なぜだか引き寄せられるようにあの人とつながってしまったと、涙ながらに語っていました。
私はドルマが親切心で、何かの力を使って大好きなお姉さんとその恋する男の二人の縁をつないだのだろうと、その時確信しました。
あの子は本当に優しい子でしてね。親切心で自分が繋いだ何かが、深く大好きな人を傷つける事になった事で、それはショックをうけていましたね。ドルマはご存じの通り、本当に心の優しい子なんですよ。

ドルマが魔女の子ではないかと思ったのはその頃です。
決して、「繋いで」はいけないよ、と言い聞かせたのもその頃からです。
ドルマがそのつもりでなくても、繋ぐ事で大きな災いになる事があるのだから、と。

他にも不思議な事はありましたよ。ドルマは針仕事を覚えてから繕いものが得意になりましてね。
あの子の言葉を借りると、「綻んでいる所を元に戻す」のがとても得意なんだとか。

吃音の酷い子供が孤児院にいたんですけれどね。
ドルマはその子供に親切でマスクを縫ってやったんです。
すると、マスクをつけたあの子は嘘のようにスルスルと言葉のつまりが消えて。
ドルマに一体どうやったのかと聞いたら、本来あるものを、本来あるべき場所に繕ってあげた、というのです。
黄色い糸のようなものが体から見えて、それを針と糸を使って、つなげてあげるのだと。
さすがにドルマを叱るわけにはいかないのですし、その子が急に吃音が治ったのは「緊張がとれたのだろう」と周りには心の問題だったと言い訳していましたけど、焦りましたね。

他にも本当に色々ありましたよ。
孤児院の子供達は平気でしたが、職員の中にはドルマを化け物だと、そう呼んで近づきたがらない者もおりましたし、ドルマが親切で助けたらしい町の人から、悪魔だと石を投げられた事もあります。

ひどい? ええ、そうですね。親切な子供に対して、本当にひどいですね。
でも人とはね、騎士様、そういう生き物なんですよ。

吃音の子供の件以来、たとえ親切心でもその力は使ってはいけないと、厳しくドルマに言い聞かせていたのですが、私もずっとあの子ばかり監視している訳にはいかないでしょう。
私の知らない所でも色々あったみたいですよ。
年齢を重ねるにつけ、あの子はどんどん対人恐怖も社会不安も強くなっていきました。

ドルマも大きくなって物の分別がつくようになって、妙な力も使わずに静かにしていたのですけれど、針と糸を使うと、少しだけ、ほんの少しだけその力が出てしまうみたいでね。
どこから嗅ぎつけたのか、あの子の力を利用しようと、犯罪組織から誘拐されそうになった事もあります。

この孤児院ではあの子の安全が守り切る事ができないと、騎士団長をしている弟に事情を話して、第六の騎士団の下働きで雇ってもらっていまして、今に至ります。
何か妙な事になっても、騎士団の元でしたら安全ですし、弟はあの子を決して利用などしないですからね。
騎士団を危険の可能性にさらしてしまった事は、申し訳ないと思います。
でもね、ドルマは静かにあの場所で生きていたでしょう?

私のした事に対する後悔ですか?
いいえ、ありませんよ騎士様。後悔があるとすれば、なぜあの子を連れて、誰もいない森の奥にでも逃げなかったのか、そのくらいです。
でも私には他の子供達の面倒もあるのです。
この世はドルマにとって、あまりにもつらい場所です。こうしてドルマの為に牢屋に放り込まれる事など、私にも、弟にとってもなんでもありませんよ。

そうですか騎士様。ドルマに伝言をして下さるのですか。
ありがとう、ご親切に心から感謝します。
では一言だけ、「愛してるわ」と伝えてください。

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