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辺境伯
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外は明るい日の光がのぼってきた。朝だ。
塔の入り口を軽快にノックする音が聞こえる。
「おはようドルマ、私よ。昨日は大丈夫だった? すごい嵐だったから…って!!!!」
ひょい、と2階から顔を出したマティアスはレナに答えた。
「ドルマは大丈夫だよ。雷がひどかったから少し怯えているけれど、それにしてもどこからも雨漏りもないし、この塔は素晴らしい建築物だな」
「ママママ、マティアス様!!!!」
「ああ、俺だ。心配するな。ここには俺の意思でいる」
「ど、どうやって・・・」
パクパクとレナは口をあけたり閉じたりしながら、目の前の光景が信じられない。
この魔法塔は、レナの一族の力の集結ともいえる王国一の魔法施設だ。
たとえマティアスであっても、この塔にレナの一族の魔力の介入なしに侵入する事などできるはずではない。
ひらりと扉の前にメモがおちてくる。
【レナさんおはようございます。昨日の雷はこわかったですね。私は大丈夫です。申し訳ないのですけれど、今朝はマティアス様の分の朝食のもってきてもらっていいですか】
まだ驚きの最中にいるレナとは違って、中のドルマは随分落ち着いている様子だ。
「それから、お前らが捜していたケープはこれだろう?4階じゃなくて5階の奥でぐしゃぐしゃになってたぞ。ドルマじゃどれがどれだがわからないだろう。これは後でドルマが修繕してくれるそうだから、お前ら一族はもう少しきちんと整理整頓をした方がいい。協力を仰ぐのは良いが、ドルマをこき使うな」
あ然としているレナには構わず、マティアスは2階の窓からレナにきたないケープを見せて、そしてキビキビとマティアスはレナの後ろに控えている見張り兵に指示を出した。
「そんな事よりあの雷が魔力を含んでいたものだったのを察知したか。魔の森のひび割れが、空と呼応している。空に穴があいている。穴から濃い瘴気が漏れているのを感じる。穴が大きくなれば、あの穴から空の魔獣があふれてくる。お前たち、即刻神殿と連絡をとって穴の対応せよ」
見張り兵がマティアスの指示にバタバタと走り去った。
まだあ然としているレナは、口をパクパクと開けたり閉じたりしながら、それでもようやく落ち着きを取り戻して話をする体制に入った。
マティアスの機嫌のよさそうな様子を見る限り、マティアスの意思でこの塔の中にいるのは間違いがなさそうだ。
「マティアス様。本当に、一体どのようにしてこの魔法塔に入られたのですか。一度この塔に入ったら、何人たりとも脱出する事はできないですよ・・」
焦りに焦るレナを後目に、マティアスは堂々と、そしてそして幸せそうな笑顔で言った。
「それを私が強く願ったからだ。理屈は分からんが、ドルマが願い、私が願った時に、気が付けばドルマの元に私はいた。私にはそれだけしかわからないし、それで十分だ。脱出の事は今はいい。今はここに居る幸せを、ただ感じさせていてくれ」
レナは頭を抱えてしまった。
メンダーのまだ解明されていない能力の一つが、これ。
理を超えた「つながり」を結ぶ能力。
(まさか空間を結ぶ能力があるとは・・)
記録にあるメンダーは、まるで転移魔法のごとく、瞬時に場所を移動する事ができる存在もあったという。
もしもメンダーの転移能力の秘密が、空間を結ぶ能力にあるのであれば、長年魔術界の間で投げかけられていた疑問が解決する。
そして、もう一つの大きな問題が発生している事をレナは知る。
(・・・あれは、完全に恋する男の顔だわ)
マティアスがドルマの恋心を利用してこの塔に閉じ込めたと信じて疑っていなかったレナは、ここの所青く、暗い顔をしていたマティアスの多幸感で満たされた嬉しそうな顔をみて、頭を抱えてしまう。
(どうすんのよ、王女様の降嫁がほとんど内定してるはずなのよね、マティアス様)
「・・ともかく、どのようにして中に侵入できたのかは後でしっかりと検証するとして、お二人とも怪我はないのですね。マティアス様、とりあえず出られそうでしたら一旦試しに外にでてみていただけますか・・」
パンクしそうな頭を抱えながら、力なくそうレナはつぶやいた。その時だ。
「マティアス様!レナ様!お、お館様が!」
先ほど神殿に伝令に送ったはずの見張り兵の一人が息せき切って塔まで駆けてきた。
「一体何事だ!」
「前に魔獣に突かれた肺の穴から、昨日割れた空の穴から漏れていた瘴気が、直接体に入ってしまった様子です!」
「なんだと・・・」
先ほどまでの幸せに満ちたマティアスの顔は、青くなる。
瘴気とは、霧状の毒のようなものだ。
瘴気が沈殿した場所は汚染され、汚染された場所から生まれた生き物は魔獣となる。
沼や谷の合間などに自然に発生るものだが、時として空や、地から割れ目が発生し、瘴気が噴き出す事がある。
瘴気が噴き出し汚染された場所は、神殿の神官や巫女が浄化するのが一般的な対処方法だ。
一般の人間が多少瘴気を吸い込んだ所で大した影響はない。
頭痛を起こしたり、咳がひどくなったりその程度だ。
だが、肺病をわずらっている人間や、胸を怪我した事のある人間にとって、瘴気は猛毒となる。
「今、大神官がお館様の元にむかっているそうです!ですが、危険な状態です」
はあはあと、息を切らせて見張り兵は膝をついた。
(お館様が危険な状態・・次期辺境伯のマティアス様はこの塔の中・・今、魔獣のスタンピートが起きたら、この辺境は一体どうなるの・・)
レナは青ざめた。
塔の入り口を軽快にノックする音が聞こえる。
「おはようドルマ、私よ。昨日は大丈夫だった? すごい嵐だったから…って!!!!」
ひょい、と2階から顔を出したマティアスはレナに答えた。
「ドルマは大丈夫だよ。雷がひどかったから少し怯えているけれど、それにしてもどこからも雨漏りもないし、この塔は素晴らしい建築物だな」
「ママママ、マティアス様!!!!」
「ああ、俺だ。心配するな。ここには俺の意思でいる」
「ど、どうやって・・・」
パクパクとレナは口をあけたり閉じたりしながら、目の前の光景が信じられない。
この魔法塔は、レナの一族の力の集結ともいえる王国一の魔法施設だ。
たとえマティアスであっても、この塔にレナの一族の魔力の介入なしに侵入する事などできるはずではない。
ひらりと扉の前にメモがおちてくる。
【レナさんおはようございます。昨日の雷はこわかったですね。私は大丈夫です。申し訳ないのですけれど、今朝はマティアス様の分の朝食のもってきてもらっていいですか】
まだ驚きの最中にいるレナとは違って、中のドルマは随分落ち着いている様子だ。
「それから、お前らが捜していたケープはこれだろう?4階じゃなくて5階の奥でぐしゃぐしゃになってたぞ。ドルマじゃどれがどれだがわからないだろう。これは後でドルマが修繕してくれるそうだから、お前ら一族はもう少しきちんと整理整頓をした方がいい。協力を仰ぐのは良いが、ドルマをこき使うな」
あ然としているレナには構わず、マティアスは2階の窓からレナにきたないケープを見せて、そしてキビキビとマティアスはレナの後ろに控えている見張り兵に指示を出した。
「そんな事よりあの雷が魔力を含んでいたものだったのを察知したか。魔の森のひび割れが、空と呼応している。空に穴があいている。穴から濃い瘴気が漏れているのを感じる。穴が大きくなれば、あの穴から空の魔獣があふれてくる。お前たち、即刻神殿と連絡をとって穴の対応せよ」
見張り兵がマティアスの指示にバタバタと走り去った。
まだあ然としているレナは、口をパクパクと開けたり閉じたりしながら、それでもようやく落ち着きを取り戻して話をする体制に入った。
マティアスの機嫌のよさそうな様子を見る限り、マティアスの意思でこの塔の中にいるのは間違いがなさそうだ。
「マティアス様。本当に、一体どのようにしてこの魔法塔に入られたのですか。一度この塔に入ったら、何人たりとも脱出する事はできないですよ・・」
焦りに焦るレナを後目に、マティアスは堂々と、そしてそして幸せそうな笑顔で言った。
「それを私が強く願ったからだ。理屈は分からんが、ドルマが願い、私が願った時に、気が付けばドルマの元に私はいた。私にはそれだけしかわからないし、それで十分だ。脱出の事は今はいい。今はここに居る幸せを、ただ感じさせていてくれ」
レナは頭を抱えてしまった。
メンダーのまだ解明されていない能力の一つが、これ。
理を超えた「つながり」を結ぶ能力。
(まさか空間を結ぶ能力があるとは・・)
記録にあるメンダーは、まるで転移魔法のごとく、瞬時に場所を移動する事ができる存在もあったという。
もしもメンダーの転移能力の秘密が、空間を結ぶ能力にあるのであれば、長年魔術界の間で投げかけられていた疑問が解決する。
そして、もう一つの大きな問題が発生している事をレナは知る。
(・・・あれは、完全に恋する男の顔だわ)
マティアスがドルマの恋心を利用してこの塔に閉じ込めたと信じて疑っていなかったレナは、ここの所青く、暗い顔をしていたマティアスの多幸感で満たされた嬉しそうな顔をみて、頭を抱えてしまう。
(どうすんのよ、王女様の降嫁がほとんど内定してるはずなのよね、マティアス様)
「・・ともかく、どのようにして中に侵入できたのかは後でしっかりと検証するとして、お二人とも怪我はないのですね。マティアス様、とりあえず出られそうでしたら一旦試しに外にでてみていただけますか・・」
パンクしそうな頭を抱えながら、力なくそうレナはつぶやいた。その時だ。
「マティアス様!レナ様!お、お館様が!」
先ほど神殿に伝令に送ったはずの見張り兵の一人が息せき切って塔まで駆けてきた。
「一体何事だ!」
「前に魔獣に突かれた肺の穴から、昨日割れた空の穴から漏れていた瘴気が、直接体に入ってしまった様子です!」
「なんだと・・・」
先ほどまでの幸せに満ちたマティアスの顔は、青くなる。
瘴気とは、霧状の毒のようなものだ。
瘴気が沈殿した場所は汚染され、汚染された場所から生まれた生き物は魔獣となる。
沼や谷の合間などに自然に発生るものだが、時として空や、地から割れ目が発生し、瘴気が噴き出す事がある。
瘴気が噴き出し汚染された場所は、神殿の神官や巫女が浄化するのが一般的な対処方法だ。
一般の人間が多少瘴気を吸い込んだ所で大した影響はない。
頭痛を起こしたり、咳がひどくなったりその程度だ。
だが、肺病をわずらっている人間や、胸を怪我した事のある人間にとって、瘴気は猛毒となる。
「今、大神官がお館様の元にむかっているそうです!ですが、危険な状態です」
はあはあと、息を切らせて見張り兵は膝をついた。
(お館様が危険な状態・・次期辺境伯のマティアス様はこの塔の中・・今、魔獣のスタンピートが起きたら、この辺境は一体どうなるの・・)
レナは青ざめた。
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