ニューヨークの物乞い

Moonshine

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「おはよう。今日はあったかいね。」

そんな言葉を交わす様になって、財布にいつも1ドル札を欠かさない様になって、もう数ヶ月になるか。

私はすっかり、青年と仲良く。。は別になっていなかった。
私はおっかなびっくり、いつも人目を避けて、青年にお金を握らせておはようと言って、大急ぎでその場をさるだけ。

それでも、「彼」はいつも嬉しそうに私がくると、大きな笑顔で「ありがとう」と言ってくれる。

私は毎朝、少しだけ、嬉しい気持ちをもらって、気が重くなる職場に出る。彼は、1ドルもらって、それで二人ともいい気分で1日が始まれば、いいじゃないか。

(元気をもらってるのは、私ね。ありがとう、と言ってもらって、笑ってもらえて、なんだかいい事した様な気にも、してもらえて。)

そのうち、「彼」の名は、「ピーター」である事を知った。

いつも、誰も見ていないタイミングでお金を握らせてあげたいので、私は時々、タイミングを見計らうために、駅でピーターの様子を伺う様になった。

今まで何も気がついていなかったが、私の他にも、彼にお金をあげる時に挨拶したり、自分のお弁当の一部だろうか、ヨーグルトをあげたりする人が、ボチボチいる事に気がついた。皆、彼のことをピーター、と呼んでいた。

どの人がやってきても、ピーターは、ニコニコと嬉しそうで、時には会話も交わしていた。ちょっと私は、なぜかうらやましかった。

ある日、いつもの様に私が、ピーターに挨拶をして、お金を手に握らせてあげて、「おはよう」というと、ピーターは、いつもの様ににっこり笑うと、

「やあ、おはよう僕の友達。」

そう言ってくれた。

(私、ピーターの友達なんだ。。)

ピーターは、私の顔も、名前も知らない。
毎日、そっと一方的にお金を握らせて挨拶をするだけの、関係。

でも、私はその日は本当に、嬉しかった。

日本から、銀行勤めの彼氏から、電話があったのはその日。
取引先の接待のゴルフで、先方の取締役の息子さんと友達になったそうだ。
それから150億の約定が確定して、という仕事の話。
喜ばしい事だし、今年のボーナスが増えそうだとか。
そうしたら、欲しがっていた靴を買ってくれると、言ってくれた。

私は、ふと、ピーターを思い出す。
一ドル札と、それから、友達。

(友達って、なんだろう。)

未来の夫の出世につながる良い話であるはずなのに、なぜか心は弾まなかった。ピーターに、「友達」と呼んでもらった事の方が、余程嬉しかった。
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