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米の神様と、商売の神様

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垢ぬけない、田舎風の若い二人。
船でこの国に到着したらしい。船着場で、少ない荷物を片手に、喜びを隠さない、若い二人が見える。二人の新天地での生活の幕開けは、二人合わせてたった、3つの鞄だけらしい。

初めてのこの国での二人の家は、日の当たらない、市場の片隅の、魚屋の2階。

ここ外国で、二人で一生懸命に生きてきた様子だ。
男は商売に全力で挑み、女は慣れない環境で、子供を産み、育てた。
一生懸命生きてきた様子だ。魚屋の二階から、外れの花屋の隣に引っ越し、次に見えたのは、割と閑静な住宅街。
順調に、成長している。子供は二人に、増えていた。

だがそれは、途中までの物語だ。

このオイチャの神に愛されている男の商売は、年を重ねるごとに、実に順調に進んでいたらしい。
販路を広げ、どんどんとこの国に商売の基盤を築いて、自信を深めていく男。

男は、そんな多忙の中でも、生まれた子供をかわいがって、できる限り教育にかかわって、ゆくゆくはこの二人の子供に商売を継がせたいと、努力してきたらしい。

だが女の方は、そうはいかなかった様子だ。
女は、商売をしに外国に来たわけでない。穀物の神に愛された、きらきらと輝く目をした、若い恋人を、愛する男の夢をささえる為に、緑豊かな故郷を離れて、この外国にやってきたのだ。

二人で四苦八苦しながら、手を取り合って、外国で一生懸命生きている間はよかった。

夫はどんどんこの国で成功をおさめ、夢に一歩一歩あゆんで、近づいてきた。

女も、家族からも遠く離れた外国で、慣れない生活に苦心しながらも、二人の子供を授かった。
一人で一生懸命、外国で子供を育てていた。

男の商売が軌道にのるにつれ、夫の帰りは遅くなり、会話は少なくなってきた。

男は、女に難しい商売の話をするようになった。
偉い人と、会食が増えて、家で食事をすることも少なくなったなった。
男が刺激的な会話を仕事相手と楽しんでいる間、女は一人で、子供を寝かしつけてから、男の帰りをまっていた。

女が今日、口をきいた人間は、牛乳屋のおかみと、まだ幼児の二人の子供だけ。

女は外国で、孤独だったのだ。

様々な経験を経て、立派な商売人として成功をおさめつつあった男は、いつまでたっても昔とかわらない、子供の話しかできない、そんな女をつまらないと感じ出してきた。

これだけ苦労して、軌道に乗せた商売、そのまま子供に商売をついでもらう。

男は一流の学び舎を探してきて、まだ幼児の子供たちに、高い学費をねん出して通わせる事とした。
高い学費を稼いで、それなりの親たちの付き合いにも、忙しいなか積極的に顔を出した。

女の愛した、素朴な、きらきらした目の若い男は、そこにはいなかった。
成功を求め、野心家となった、立派な実業家の男がいた。

女には、故郷の小さな学び舎で学んだ事以外に、学はない。
子供の学び舎に通う子供たちの親に比べて、自分に学がないことも、身分がないことを知っていたので、男の教育熱心さには、感謝をしていた。

将来、子供の為になる。
だが、愛した男も、子供たちも、どんどん自分から離れていくようで、孤独だった。

女は不満を口にするようになった。
孤独を訴えるようになった。

男は思った。
俺は外国で、こんなに仕事を頑張っているのに、この女は、俺の金で、のうのうと生きているのに、なぜ文句ばかりで、私に感謝をしないんだ。

女は気鬱を患うようになった。
朝起きられない。外にでられない。来客に、対応できない。
女の心はは限界を迎えていた。

朝の子供の送迎すら、できなくなった女を、男は心配する事はなかった。
ある日、女は、男が、子供たちに言った言葉を、聞いた。

「お母様は、やくたたずだ」

女は、その日のうちに子供を連れて、国に帰った。


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