異世界で王子様の代わりを務めるだけの簡単なお仕事です

豆野 豆助

文字の大きさ
8 / 21

2:上手く立ち回るだけの簡単なお仕事です[2]

しおりを挟む
「あの……すみません、私はそろそろ部屋に戻ろうかと思います。美味しいお茶ありがとうございました」



これ以上の長居は危険なような気がする。そもそも呼び出しされておいてたいした話を聞かされていないんだからもう帰ったって構わないだろう




「まだ来たばかりじゃないか。もう少しゆっくりしていきなさい」




「いえ、大丈夫です」




「どうして?お前は病み上がりなんだから、予定も特に無いだろう。体調が優れないなら休んでいっても構わないよ」





「ええ、ですが、用事を思い出したので」



「……へぇ。どんな用事が出来たのかな」



「……っ!すみません、失礼します!」




フォルティアはルシウスの制止の声を振り切って立ち上がると、急いで扉へと向かう。



「……また隠し事をするんだね」


「っ、触るな!」



突然背後から伸びてきた手に腕を掴まれ引き止められる。その拍子にフォルティアは思わず声を上げてしまった。




「……なんですか」



「いや、ごめんね。ただ、いつものお前と雰囲気が大分違うから」



「離してください」



「あはは、そんなに怒らなくてもいいじゃないか。お前、本当は僕が怖いんでしょう?」



「いい加減にしてください」



「ふぅん。じゃあ、どう説明するのかな」




ルシウスはそう言うとフォルティアの腕を掴む手に力を入れる。




「痛いっ」




「ねぇ、お前は体調を崩していたと言ってたけど、その間に人をつけなかったのは何故?仮にも王族の一人が体調を崩しているというのに無視していたのはお前の使用人の判断ミスだ。処罰の対象になるかもしれないね?」




___しまった。
フォルティアは心の中で舌打ちをする。




「……彼には私から断りを入れたのです。世話をされるほどひどいものでもなかったので。そもそも貴方には関係の無いことですのでお気になさらず」




「関係ない……ね。お前は本当に強情だね。……いいよ。そういうところも可愛いけれど」



そう言いながら、ルシウスの顔が近づいてくる気配がして、思わず身を引く。



「やめてください。本当に怒りますよ」



「怒ってもいいよ。でも、お前は逃げられない。ほら、僕の目をみて」




ルシウスはそう言うとフォルティアの顎を片手で固定して強制的に自分の方へと顔を向けさせた。



「っ……」



「やっと目が合った。ふふ、可愛い。……ねぇ、やっぱりお前も僕を愛しているだろう?そうでなければ、あんなにも熱く見つめたりしないはずだものね」



「……」



一体いつのこと言っているのだろう。少なくとも自分が成り代わってからこの男をそんな風に見た覚えはないし



「黙っているということは肯定とみなしても構わないのかな」



「ちがっ、やめて下さい!」



「あぁ、その目だよ。すごく良い。ゾクゾクする」




ルシウスの瞳の奥に宿る狂気の色に恐怖を覚えて、フォルティアは必死に抵抗するが、力で敵うはずもなく、そのまま押し倒されてしまう。



「ひっ……い、嫌だ……やめろ!!」



「ふふ、怖がっている顔も良いね。もっと虐めたくなる」



「ふざけるな!!お前なんか嫌いだ!!!」



「知ってるよ。だからお前が素直になるまで愛し続けるんだから」



______狂ってる。

この男は正気ではない。フォルティアはそう確信すると、ありったけの力を込めて抵抗するがビクリとも動かない。




「っ……何するんだ!やめろよ!!」



こうなってくるといよいよ口調だと何だのに構っている余裕も無くなってきて、素のまま半ば怒鳴るように声を荒げる。しかし、当の相手は気にした素振りもなく、こちらの言葉に一切耳を傾けるつもりはないらしい。



「あはは、何言っているんだい。これからが良い所じゃないか。お前だって期待しているんだろう?いつもみたいにお仕置きをしないと」



ルシウスはそう言ってニヤリと笑う。まともに噛み合うことのない応答に、フォルティアは全身の血の気が引くのを感じた。



「触るなよ、っ!!!」


「__煩い。ちょっと静かにしていてくれないかな」




ルシウスはそう言うとフォルティアの口を手で塞ぎ、もう片方の手で首元を押さえつける。



「んーっ!?」


「……ふふ、これで喋れないよね」



____まずい、息ができない。
フォルティアはルシウスの手を引き剥がそうとするがびくともせず、どんどん苦しさが増していく。



「あれ、どうかしたのかい?顔色が悪いよ」



「ん……ぐ……っ……」



「……あはは!そうか、苦しいんだね。それなら早く降参すればいいものを。ほら、楽になりたいでしょう?」


「んぅ……!!」


フォルティアは涙を浮かべながら首を横に振ると、更に力を込めたのか、ルシウスの手に込められる力が強くなる。



「……仕方ないね。あまりこういうことはしたくないんだけど」


ルシウスはそう言うと、首を押さえていた手を離し付近にあったローテーブルに手を伸ばす。警戒に身を硬くしたフォルティアの目に映ったのは鈍く光る刃物。ルシウスの手には小振りのナイフが握られていた。



「ふっ……ん……!」



___駄目だ、このままだと殺される。


咄嗟に魔法での現状打開を試みるが、おかしな事に一切反応がない。何度か試したが間違いなく使えなくなっている。となると、発動しないそれに頼るのは悪手だろう。そもそも優れた才能を持つと称されるフォルティアを相手にするのに、目の前のこの男がなんの対策もしない方が不自然だ。恐らく何かしらの妨害措置が取られていると考えたほうが良いと、フォルティアは状況の悪さに歯噛みする。




「……珍しいね、お前が取り乱すのは。最近はちっとも反応してくれなくなっていたから、てっきり痛みには慣れてしまったのかと思っていたよ。やっぱり、お前にはその表情の方が似合う」


「ぅ、っ……んん!」


「ああ、答えなくていいよ。どうせお前は何も言えないんだから」


「んぅっ!!」



ルシウスはそう言いながら刃先をフォルティアの鎖骨に軽く当て撫でるように滑らせる。つきんと走った鋭い痛みに堪らず声を上げ身を捩る。



「あはは、そんなに気持ちよかったのかな?」


「ふぅ……ん……っ」


そんなわけないだろう。怒りを堪えフォルティアは肩で息をしながら、必死に呼吸を整えようとするが上手くいかない。



______なんでこんなことに……。

口元を押さえつけていた手が離されると突如肺を満たした酸素に勢い良く咳き込み視界が滲んだ。



「……まぁ、いいや。言うことを聞かない悪い子にお仕置きを始めようか」



ルシウスはそう言うと、フォルティアの衣服にナイフの刃面を引っ掛けいともたやすく布を割いた。



「……!やめろ!!」



「やめないよ。お前が僕の命令に逆らう限りは限りね」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

とある美醜逆転世界の王子様

狼蝶
BL
とある美醜逆転世界には一風変わった王子がいた。容姿が悪くとも誰でも可愛がる様子にB専だという認識を持たれていた彼だが、実際のところは――??

【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件

表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。 病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。 この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。 しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。 ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。 強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。 これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。 甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。 本編完結しました。 続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。 彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!? 
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない! 恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!? 
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする 青春異世界学園BLラブコメディ! 毎日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

平凡なぼくが男子校でイケメンたちに囲まれています

七瀬
BL
あらすじ 春の空の下、名門私立蒼嶺(そうれい)学園に入学した柊凛音(ひいらぎ りおん)。全寮制男子校という新しい環境で、彼の無自覚な美しさと天然な魅力が、周囲の男たちを次々と虜にしていく——。 政治家や実業家の子息が通う格式高い学園で、凛音は完璧な兄・蒼真(そうま)への憧れを胸に、新たな青春を歩み始める。しかし、彼の純粋で愛らしい存在は、学園の秩序を静かに揺るがしていく。 **** 初投稿なので優しい目で見守ってくださると助かります‼️ご指摘などございましたら、気軽にコメントよろしくお願いしますm(_ _)m

処理中です...