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2:上手く立ち回るだけの簡単なお仕事です[2]

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「あの……すみません、私はそろそろ部屋に戻ろうかと思います。美味しいお茶ありがとうございました」



これ以上の長居は危険なような気がする。そもそも呼び出しされておいてたいした話を聞かされていないんだからもう帰ったって構わないだろう




「まだ来たばかりじゃないか。もう少しゆっくりしていきなさい」




「いえ、大丈夫です」




「どうして?お前は病み上がりなんだから、予定も特に無いだろう。体調が優れないなら休んでいっても構わないよ」





「ええ、ですが、用事を思い出したので」



「……へぇ。どんな用事が出来たのかな」



「……っ!すみません、失礼します!」




フォルティアはルシウスの制止の声を振り切って立ち上がると、急いで扉へと向かう。



「……また隠し事をするんだね」


「っ、触るな!」



突然背後から伸びてきた手に腕を掴まれ引き止められる。その拍子にフォルティアは思わず声を上げてしまった。




「……なんですか」



「いや、ごめんね。ただ、いつものお前と雰囲気が大分違うから」



「離してください」



「あはは、そんなに怒らなくてもいいじゃないか。お前、本当は僕が怖いんでしょう?」



「いい加減にしてください」



「ふぅん。じゃあ、どう説明するのかな」




ルシウスはそう言うとフォルティアの腕を掴む手に力を入れる。




「痛いっ」




「ねぇ、お前は体調を崩していたと言ってたけど、その間に人をつけなかったのは何故?仮にも王族の一人が体調を崩しているというのに無視していたのはお前の使用人の判断ミスだ。処罰の対象になるかもしれないね?」




___しまった。
フォルティアは心の中で舌打ちをする。




「……彼には私から断りを入れたのです。世話をされるほどひどいものでもなかったので。そもそも貴方には関係の無いことですのでお気になさらず」




「関係ない……ね。お前は本当に強情だね。……いいよ。そういうところも可愛いけれど」



そう言いながら、ルシウスの顔が近づいてくる気配がして、思わず身を引く。



「やめてください。本当に怒りますよ」



「怒ってもいいよ。でも、お前は逃げられない。ほら、僕の目をみて」




ルシウスはそう言うとフォルティアの顎を片手で固定して強制的に自分の方へと顔を向けさせた。



「っ……」



「やっと目が合った。ふふ、可愛い。……ねぇ、やっぱりお前も僕を愛しているだろう?そうでなければ、あんなにも熱く見つめたりしないはずだものね」



「……」



一体いつのこと言っているのだろう。少なくとも自分が成り代わってからこの男をそんな風に見た覚えはないし



「黙っているということは肯定とみなしても構わないのかな」



「ちがっ、やめて下さい!」



「あぁ、その目だよ。すごく良い。ゾクゾクする」




ルシウスの瞳の奥に宿る狂気の色に恐怖を覚えて、フォルティアは必死に抵抗するが、力で敵うはずもなく、そのまま押し倒されてしまう。



「ひっ……い、嫌だ……やめろ!!」



「ふふ、怖がっている顔も良いね。もっと虐めたくなる」



「ふざけるな!!お前なんか嫌いだ!!!」



「知ってるよ。だからお前が素直になるまで愛し続けるんだから」



______狂ってる。

この男は正気ではない。フォルティアはそう確信すると、ありったけの力を込めて抵抗するがビクリとも動かない。




「っ……何するんだ!やめろよ!!」



こうなってくるといよいよ口調だと何だのに構っている余裕も無くなってきて、素のまま半ば怒鳴るように声を荒げる。しかし、当の相手は気にした素振りもなく、こちらの言葉に一切耳を傾けるつもりはないらしい。



「あはは、何言っているんだい。これからが良い所じゃないか。お前だって期待しているんだろう?いつもみたいにお仕置きをしないと」



ルシウスはそう言ってニヤリと笑う。まともに噛み合うことのない応答に、フォルティアは全身の血の気が引くのを感じた。



「触るなよ、っ!!!」


「__煩い。ちょっと静かにしていてくれないかな」




ルシウスはそう言うとフォルティアの口を手で塞ぎ、もう片方の手で首元を押さえつける。



「んーっ!?」


「……ふふ、これで喋れないよね」



____まずい、息ができない。
フォルティアはルシウスの手を引き剥がそうとするがびくともせず、どんどん苦しさが増していく。



「あれ、どうかしたのかい?顔色が悪いよ」



「ん……ぐ……っ……」



「……あはは!そうか、苦しいんだね。それなら早く降参すればいいものを。ほら、楽になりたいでしょう?」


「んぅ……!!」


フォルティアは涙を浮かべながら首を横に振ると、更に力を込めたのか、ルシウスの手に込められる力が強くなる。



「……仕方ないね。あまりこういうことはしたくないんだけど」


ルシウスはそう言うと、首を押さえていた手を離し付近にあったローテーブルに手を伸ばす。警戒に身を硬くしたフォルティアの目に映ったのは鈍く光る刃物。ルシウスの手には小振りのナイフが握られていた。



「ふっ……ん……!」



___駄目だ、このままだと殺される。


咄嗟に魔法での現状打開を試みるが、おかしな事に一切反応がない。何度か試したが間違いなく使えなくなっている。となると、発動しないそれに頼るのは悪手だろう。そもそも優れた才能を持つと称されるフォルティアを相手にするのに、目の前のこの男がなんの対策もしない方が不自然だ。恐らく何かしらの妨害措置が取られていると考えたほうが良いと、フォルティアは状況の悪さに歯噛みする。




「……珍しいね、お前が取り乱すのは。最近はちっとも反応してくれなくなっていたから、てっきり痛みには慣れてしまったのかと思っていたよ。やっぱり、お前にはその表情の方が似合う」


「ぅ、っ……んん!」


「ああ、答えなくていいよ。どうせお前は何も言えないんだから」


「んぅっ!!」



ルシウスはそう言いながら刃先をフォルティアの鎖骨に軽く当て撫でるように滑らせる。つきんと走った鋭い痛みに堪らず声を上げ身を捩る。



「あはは、そんなに気持ちよかったのかな?」


「ふぅ……ん……っ」


そんなわけないだろう。怒りを堪えフォルティアは肩で息をしながら、必死に呼吸を整えようとするが上手くいかない。



______なんでこんなことに……。

口元を押さえつけていた手が離されると突如肺を満たした酸素に勢い良く咳き込み視界が滲んだ。



「……まぁ、いいや。言うことを聞かない悪い子にお仕置きを始めようか」



ルシウスはそう言うと、フォルティアの衣服にナイフの刃面を引っ掛けいともたやすく布を割いた。



「……!やめろ!!」



「やめないよ。お前が僕の命令に逆らう限りは限りね」
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