異世界で王子様の代わりを務めるだけの簡単なお仕事です

豆野 豆助

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3:従者と打ち解けるだけの簡単なお仕事です[2]

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「――どうしても、ですか? もし殿下が助けを求めてくだされば、自分はいつでも……」


掴まれた腕に力を加えられ、わずかな痛みに顔をしかめる。顔を上げた彼のその瞳からは相変わらず感情を読み取ることができないが、行動から鑑みるに多少なりとも感情的になっているのは間違いない。


「……そもそも、君がそこまで私の面倒を見ようとする理由は何なんだ?従者としてのその姿勢は称賛に値するが、不要だと言っているだろ」


フォルティアが呆れたように言うと、彼は僅かに目を逸らした。何かを隠している気がする。それが何なのかは分からないが、少なくとも何かしらの事情を抱えているのは確かだ。全く、これについてはフォルティアは人の事を言えないのだが。


「それは、自分がそうしたいからに過ぎません。それ以上の理由が必要でしょうか」


「必要だ。君は使用人で、私は王族、言わずもがな兄上も王族……王太子だ。立場が違いすぎる。本来であればこうして会話を交わすことすら許されないはずだ」



フォルティアが言い放つと、ローランはグッと押し黙った。彼の言い分を真っ向から否定するのは簡単だが、それだと話が平行線のままだ。それにしても何故ここまで食い下がってくるのか、フォルティアには理解できなかった。ローランはしばらく無言だったが、やがてゆっくりと口を開いた。どうやらまだ納得していない様子。



「……この問題に私と殿下の主従は関係ありません。自分が勝手にやっていることであって、それ以上でもそれ以下でもないので。……どうか、分かっていただきたい」ローランが真剣な眼差しを向けてくる。だが、それでもフォルティアの意志は変わらない。ローランが何を思ってこんな行動を取っているのかは知らないが、こんなことをしていては彼の為にもならないし、何よりローランが尽くすべきフォルティア本来の相手は此処にはいない。


「……大体、どうしてそこまでする必要がある。別に君が責任を感じる必要はない。全ては私と兄上との問題だ。……それに、兄上の怒りを買うようなことがあれば、きっとお前は解雇どころの騒ぎじゃ済まなくなる。下手したら何らかの刑に処される可能性だって無いわけじゃない。そうなればお前の家族にも迷惑がかかるだろう。だから、もうこの話は終わりにしてくれないか?」



フォルティアは努めて冷静に諭す。すると、また黙って暫く考え込んだあとローランは静かに目を閉じた。



「…………分かりました。殿下が仰る通り、これ以上は自分が何を言っても無駄でしょう。申し訳ありませんでした。出過ぎた真似をしてしまって……」


彼はそう言うと、フォルティアに背を向けた。この様子だと納得_は恐らくしていないだろう。


――ああ、これはまずいな。
フォルティアは内心で舌打ちをした。ローランがここまで食い下がってくるとは思っていなかったため、ついカッとなってしまった。彼は決して悪い人間ではないし、むしろ善人と言っていいのかもしれない。ただ少しばかり融通の利かないところがあるだけで。数日間の付き合いとはいえ分かっているはずなのに、今回に限って言えば何故か腹立たしく感じてしまった。


……いや、違うか。


たぶん自分はルシウスに対して後ろめたさを感じているのだと思う。結果的にとはいえ騙すような形で彼と向き合っているということに罪悪感を覚えていて、そのせいで余計に苛立ってしまっているのだ。



しかし、今はそんなことを考えていても仕方がない。



今考えるべきことは今後の身の振り方についてだ。建国祭は2週間後。ここで上手く計画が進まず、脱出のタイミングを逃せば今度は自分で1から機会をつくりあげることになる。 それは非常に手間だしリスクが高い。何より失敗すれば命を落とす可能性も高い。だからこそ今回の件は絶対に成功させなければならない。だが、一体どうしたものだろうか……。フォルティアは静まり返った部屋のベッドの上で頭を抱えた。










***





翌日、朝食を食べ終えたフォルティアは自室でぼんやりとしていた。やることは特にないし、置いてあった本も目ぼしいものは読み尽くしたため出来ることは思考に耽る程度。




結局、昨晩はほとんど眠ることができなかった。原因は考えるまでもない。


昨日の一件以来、ローランと顔を合わせる機会は何度もあったののその雰囲気はあまり良くない。というより最悪だった。あの後、ローランが部屋を出ていった後に一晩掛かって色々考えたが、結局何も思いつかないまま時間だけが過ぎていった。その間ずっと考え込んでいたせいで食事もほとんど喉を通らなかったくらいだ。そして今もこうして悩み続けている。


出来ることなら味方にしたい人物ではあるが、彼は王族に仕える使用人である以上、事実を話せばフォルティアに従う理由はなくなる。それを考えると、フォルティアとしては気が気ではなかった。そもそも、彼に真実を話したところで信じてもらえるかさえ怪しいものだ。自分は彼のことをほとんど知らない。彼から見た自分のことも然りだ。仮に彼が信用してくれたとして、それでどうなる?



「……駄目だ、全然良い案が浮かんでこない」



このままでは本当に不味い。孤立無援の状態で味方を作るどころか、味方になりそうな人間を自ら遠ざけてしまうとは。フォルティアは焦燥感を募らせながら、無意識のうちに爪を噛んでいた。


「殿下、よろしいでしょうか」


不意に扉の向こうから声を掛けられた。声の主は恐らくローランだろう。寄りにもよってこのタイミングかと、フォルティアは一瞬躊躇ったが、返事をすることにした。
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