異世界で王子様の代わりを務めるだけの簡単なお仕事です

豆野 豆助

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3:従者と打ち解けるだけの簡単なお仕事です[3]

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「……どうぞ」


「失礼します。お寛ぎ中のところ申し訳ありませんが、レイヴァン様がいらしております」


___レイヴァン?誰だ?



思案したのも一瞬、直ぐにフォルティアの弟の名前であると気が付き気が引き締まる。何故弟が来たのか、その理由については全く心当たりがない。レイヴァンとは朝食の席で顔を合わせる程度で会話という会話もしていないし、突然部屋を訪れてくるのは些か不自然に思えた。



取り敢えずフォルティアは急いで身支度を整えて入室の許可を出す。すぐに扉が開きその先にはローランとその隣で萎縮しているレイヴァンの姿があった。


フォルティアが立ち上がるよりも早くレイヴァンが口を開く。


「兄上……、その、……急に訪ねてしまい申し訳ありません」


本音で言えばフォルティアの身内にはあまり関わりたくない。特に弟のレイヴァンには尚更だ。だが、それを表に出すわけにはいかない。フォルティアはなるべく平静を装いながら尋ねる。


「いや、それは構わないが……何か用事か?」


ローランを一度下がらせようか、とも思ったがまた自分がボロを出したときにフォローしてくれる相手がいないのは心許ない。取り敢えず二人に部屋へ入るように促すと、ローランは定位置の壁際に、レイヴァンは所在無さげにきょろきょろと周囲を見渡しているため、側ある椅子に座るように伝える。


「えっと、兄上。その……」


「なんだ?」


「……いえ、なんでもありません」


椅子に腰を下ろした後レイヴァンは暫くの間、もごもごと言葉を詰まらせるような素振りを見せたが、結局何も言わずに口を閉ざしてしまった。



何をしに来たんだ、こいつは……。



フォルティアは内心で溜息をつく。それから沈黙が流れること数分。しびれを切らしてフォルティアの方から切り出した。



「あー、それで、一体どういう要件で来たんだ?まさか世間話をしに来たわけでもないだろう」


「……はい、実は折り入ってお願いがありまして。……その、兄上に魔法を教えて欲しいのです!」


そう言ってレイヴァンは勢いよく頭を下げた。



「はぁ!?」


何を言い出すんだこの馬鹿王子は。予想外過ぎる発言に思わず大声で聞き返してしまった。慌てて手で口元を抑えたがもう遅い。部屋中に響いた声に驚いた様子のローランがこちらを見ていた。まずい、非常にまずい状況だ。いくら弟とはいえ王族からの頼み事を断れば面倒なことになる。



「いやいや、教師なら専門の人間を付けた方が良いだろう。おい、ローラン。お前からも何とか言ってくれ」


助け舟を求めて視線で仰ぐと、ローランが仕方なくといった様子で淡々と割って入る。


「殿下、落ち着いてください。まだ話の続きがあるでしょう」


「いや、だが、まずこいつが私に魔法の指南をしてくれなんて言いだすのはおかしいだろう」


「殿下、レイヴァン様は真剣なんですよ。少しは真面目に取り合ってあげてください」


フォルティアは渋々と言った表情を浮かべながら小さくため息を吐く。確かにレイヴァンの様子を見る限りふざけているわけではないようだ。だが、それでも自分もまだ本質を理解していないような魔法を他人に教えるというのはリスクが大きい。
取り敢えずフォルティアは困惑しながらも、レイヴァンの話を聞くことにした。


___当人曰く、自分は魔法の才能がなく、せめてもの対抗策いままでとして剣術を磨いていたが、矢張り魔法を満足に扱えるようにしたいのだと言う。


しかし、レイヴァンに才能がないというのは少し違う気がする。というのも、フォルティア自身もあまり詳しくはないが、魔法の使役についてごく一般的な範囲であれば素質の有無はそこまで重要ではないようにも思える。とは言ってもフォルティアは並外れているため比較のしようがないが、この世界では多くの人間がほぼほぼ同等の魔力を持つという。その魔力を魔法へと変換する過程にその人個人の力量が出るとか出ないとか。ややこしい魔法に傾倒するよりも剣術の訓練をしていた方がよっぽど健康的だと考えるがレイヴァンにとってはそうではないらしい。


「兄上、俺は本当に悩んでいるんです!このままでは俺のせいで兄上方にまで迷惑を掛けてしまうかもしれない。だから、どうか力を貸していただけませんか」


「うっ、ぐぅ……。わ、分かった。分かったよ。教える、教えればいいんだろう」


必死に訴えかけるレイヴァンに対して、フォルティアはとうとう根負けした。正直面倒臭いことこの上ないが、ここで断ったところで解決にはならない。ならば、今のうちに恩を売っておいた方が得策だ。


「ありがとうございます、兄上」


「ただし、条件がある」


レイヴァンは一瞬戸惑った表情を浮かべたが、直ぐに気を取り直して問い返す。フォルティアが提示した条件は、週に1回、時間にして1時間程度の指導のみをするというものだった。


これには理由がある。そもそもフォルティアは人に何かを教えるということに慣れていない。加えて毎日毎日部屋に来られるのは精神衛生上よろしくない、現に今もキリキリと胃が痛む。なので、これくらいが丁度良い塩梅だろうと判断したのだ。



レイヴァンは納得のいかない様子だったが、渋々といった感じで了承してくれた。



こうしてフォルティアはレイヴァンに魔法を教えることになった。












***




「どうしてこうなった……」

どうにか説得しようとしたが、レイヴァンの意思は固いようで結局押し切られてしまった。


明日から相手をするということで一度部屋から追い出し、レイヴァンはローランに連れられて部屋を出て行った。二人がいなくなったのを確認して、フォルティアはベッドに飛び込む。今日はもう疲れた。約束してしまった以上明日はレイヴァンに魔法の使い方について教えてやらないと。


「はぁ、全く面倒なことになりそうだ」


ルシウスからの呼び出しがなくなるわけもなく、純粋に面倒ごとが増えただけのこの状況に憂鬱としてため息をつく。




そう時間が立たないうちにしないうちにローランが部屋へと戻ってくる。そういえばフォルティアとなって目覚めた直後、初めてローランと顔を合わせた時、彼はフォルテに対してわずかばかり緊張を抱いていたはず。それがどうにも今はある程度砕けているように感じてならない。



やはり本人でないと気付かれていると考えるのが妥当なのだろうか、まとまった時間を一緒に居て、そんな話題を上げる素振りは微塵もない。こちらの出方を伺っているのだろうか。


見た目だけは恐らくそのままのはずだが、性格はそう簡単に変わるものでもない。演じると言ってもやはり限度がある。そのため、フォルティアがフォルティアになったばかりの頃は多少なりともぎこちなさを感じていたはずだ。だが、周囲に違和感を持たれない程度にはフォルティアになりきっているため、今のところボロは出ていない。


フォルティアは考える。



仮に自分が別人だとバレたらどうなるのか。
考えられる最悪のケースは、偽物だと看破された上で殺されてしまうこと。


いや、これは流石に考えすぎか。どちらにせよ、今の自分に出来ることは、時が来るまでフォルティアを演じ続けることだけだ。
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