転生者は夢の続きを見たくない(連載版)

無花果

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二十三日目 セドリックの望み※

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 老廃物を溜め込むのは体に悪い。
 溜まったものは外に出すべきで、排泄に快感が伴うのはその行為を促すため。
 人間は生物として洗練していく過程で、対価によって需要と供給を自己補完する生理的なメカニズムを獲得してきたのだろう。出すべき物を、出すだけで気持ちがいいというシンプルで無駄のない理で。
 そのお陰で排泄という煩わしい行為を日に何度となく、自発的かつ自力によってこなしたいと誰もが望む(それが可能かどうかは別として)。赤ん坊でもない限り。
 そう。完成されたシステムを持ってしても、この世に生まれ落ちたばかりの貧弱な我々には、排泄を含むあらゆる機能に介助が必要だ。母親達は汚物を扱う抵抗感も物ともせず、乳を吸わせ、排泄を介助するのだ。何ものにも変え難い普遍的な愛によって。
 我々の本能に"原初の愛"は与えられるものとして刻みこまれる。

「気持ちよくして差し上げますから」

 そう言って、女達はセドリックを愛した。花の香の柔らかな肌で。それが正しい営みだからと得意げに。
 乳母や侍女、親類または袖ふる女。優しい女、可愛らしい女、美しい女、甘い女、姦しい女、女、女、女。
 女達の愛は真綿のようだった。
 何ものも響かない空虚な心をフワフワと包まれて、微睡む内に蔑ろにした約束。失われた希望。自ら葬った友情。はじめて知った憎悪。
 ふと、愛憎とは無縁と信じていた自身の内に初めて見出す、憎しみの糧となって変容した"愛"の痕跡。我知らず渇望しつつ、気がつけばすでに喪われ、憎しみに染め替えられた想い。
 滾々と湧き出ずる"無上の愛"であったもの。
 失ってはじめてその尊さに気付いて打ちのめされた。その喪失にセドリックは静かに激怒した。与えられた運命を捻じ曲げるほど。
 それで、やり直すチャンスを得た。

 ——ギッ、ギッ、ギシ、ギッ、ギ………

「ぅンっ、ん、ん、んぅ……」
「気持ちいいね。ラウル」

 かつて血に染まった肌が、桃色に色付くのを見下ろす。喜びに震えつつ、取り戻した愛に口づけた。
 セドリックの愛撫に応じて躍動する肉体の耽美的な曲線と直線。その陰影。放たれる熱と香気。呼吸。
 貪欲に性を謳歌しようと力強く繰り返される——呼吸。
 快感に潤んだ茶色の瞳が光を宿し、こちらを見上げる。物言わずとも雄弁な瞳で語る。セドリックを望む。得難い奇跡。
 命の鳴動がきらりきらりと輝いて、脳裏に刻まれた残像を——弛緩する肢体をダラリと投げ出す殉教者の絵を打ち消していく。

「ここ?」
「ぁんっ、んっ、待っ……ああ♡あ、♡あっ♡あっ……んぁあああ♡♡♡♡」
「っふ、んっ。ぅあぁ……」

 腰を回してグイグイと奥をかき混ぜてやる。
 仕込んだままのピンクスライムがとぷとぷと粘液を分泌しながら蠢めくのだろう。イキっぱなしのラウルは勿論、セドリックも腰が砕けそうな快感に襲われ、ブルリと震えた。
 そのまま放ってしまえば満足だろうに。セドリックは射精感を堪え、絶頂するラウルの体が緩んで、きつく握りしめられた指が解けるのを辛抱強く待つ。そして呼吸が整った頃合いに、そっと唇を合わせ、優しく舌を絡める。
 潮が満ちるように。ジワジワと快感の波に飲みこみ、水底に捕らえて逃さないように。この檻を愛して望むようになる様に。

「ん、……ふぅ……ン♡」

 セドリックの動きに合わせて、舌を絡ませ快感を追いはじめたラウルが、両腕を巻きつけて身をすり寄せてくる。ふうふうと懐に息づく、涙の出るような温もりに、セドリックは嘆息する。
 固く目を閉じて、首筋に這う指が、ゾクゾクするような喜びを爪弾く音に耳を澄ました。渇いた胸に、とぷりと潮が満ちる。
 海の香りは腐敗臭だとか。

 ——ぐちゅんっ……「っあン……♡!!」

 ヒタヒタと忍び寄るような攻め手が直截的に変化する。
 カリ首を前立腺を引っ掛けて、ゴリゴリ♡と刺激しながらズルリ♡と引き抜き、抉るようにズドン♡と一気に奥まで穿つ。長いストロークでばちゅん♡ばちゅん♡と蜜洞をピストンする。

「っああぁ♡、そ、それっ、……ひぁ♡あんっ……だっ、だめっ……やっ……あん♡んっんっんぅっ♡♡♡♡」

 サラサラの焦茶の髪を振り乱すラウル。きりりとした眉はハの字に歪み、白い肌も上気して、壮絶な色気を放っている。目元にはポロポロと涙を溢れさせて。
 その甘露のような雫に舌を伸ばし吸い付く。首元からは果実に似た香りが立ち昇って、セドリックを誘惑した。
 誘われて鼻を寄せると、汗をまとって輝く肌に、いかにも美味そうに飾られた胸の突起。れろりと舐めれば「正解」とばかりに、セドリックの肉棒をウネウネときつく締め上げた。

「ン、あぁ……っはぁ。……ふ、出ちゃうかと、思った」
「……っ、も、……はぁ、ァ、ン♡……っだせよ!……っぁ♡あ♡♡♡」
「ふふっ」

 もう海の匂いはもうしない。セドリックは晴れ晴れと笑った。
 つまり、そういう事だ。
 一度目の人生で女性たちと持った関係が、言わば「排泄介助」であったとして。
 ラウルも、どこぞの女にソレをさせるのかと思うと、何やら非常に不快になるのだ。なぜかは分からないが、例えば母親とヤってる、と聞かされるくらいには不快であるのだ。
 まったく。これを他の誰かとするなんて!
 セドリックは過去の自分に呆れかえった。だけど、仕方がない部分もある。なにせ昔のラウルは酷かった。
 一応は伯爵家じっかの庇護下にある田舎貴族で、両親が用意した学友。とは言え、何一つセドリックに及ぶ所のないシスコン根暗。果ては壮大な自殺にセドリックを付き合わせた地雷男。
 本当に酷い。
 もっと言えば、あれほどセドリックに対して我を通した人間も他にいなかった。何でも思い通りになるのがセドリックの人生だったのに。何もかもが思い通りではないと気付かせた。
 セドリックの胸に憎しみを植えつけた人間。
 絶望を。
 希望が失われる傷みを、セドリックに教えた人。
 無惨に刈り取られる愛を。楽園の喪失を、その身もって示した人。
 だから、今度は、間違えないように。愛を欲する幼子ラウルにセドリックがこの手で楽園を与えよう。そこに湧き出る無上の愛の泉は、二度と再び失わない。何者にも、セドリック自身にだって奪えないよう、万難を廃して。
 それはラウルのためであると同時に、嘘偽りなく自分自身のために。
 遺伝子に組み込まれたシステムのように。
 為すべきことを為すだけで善い。そういう在り方。

 それこそがきっと、幸福。

 



 セドリックは、すっかり出すものも無くなってドライで達することを覚えたラウルの内に、迸る欲望を解き放った。

 最愛の彼を抱きしめ「愛してる」と囁いて。











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