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第3章 二度目の初夜
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しおりを挟む「それで、その……前のクロードが月に一度しかセックスをしなかったから、僕も月に一度しかセックスをしてはいけないということですか?」
「セッ…………、いえ、そういうわけでは……ただ、前のクロード様の行動をなぞるのなら、そうなるのではないかと……」
クロードの口からセックスなんて言葉が出たことに、ヴィンセントは軽く狼狽えていた。
別にヴィンセントとて、それほど上品な世界で生きてきたわけではない。だが、あのクロードの顔でそんな言葉を口にされると、なんだか妙に焦ってしまう。
しかし、以前のクロードが性的なことを一切口にしなかったのとは反対に、いまのクロードはその手の言葉に躊躇がないらしい。どこか納得いかない表情をしながら、クロードは言葉を続ける。
「月に一回以上セックスをしなければいけない契約なら、月に百回セックスしてもいいってことですよね?」
「……まあ、確かにそういうことにはなりますが、しかし……」
「嫌ですか? 僕のこともクロード・オルティスだと言ってくださったのはヴィンセントさんですよ?」
矢継ぎ早に尋ねてくるクロードを、ヴィンセントは困った表情で見つめた。
数十分前、『以前のクロードさんの行動をなぞることが、記憶を取り戻す手がかりになるかもしれない』と言ったのはクロードのほうではないか。
無論、ただ背中の傷痕を舐めてみたいがための理由付けであった可能性が高いことは、ヴィンセントもわかっている。しかし、それを伝えられたとき、確かにそうかもな、とヴィンセントは心の隅で納得していたのだ。
とはいえ、ヴィンセントは記憶を取り戻してほしくてクロードに抱かれたわけではなかった。
ひとえに跡取りのことを考えて、閨を共にしたはずだ。それはクロードだって同じだろう。
「ヴィンセントさん……」
切なげな声で、クロードがヴィンセントを呼ぶ。
表情は捨てられた子犬のように加護欲を誘うものだが、ヴィンセントの腿あたりに押し付けられた性器はまったくもって可愛くない。
ずりずりと擦り付けられるその雄の熱さに、ヴィンセントはどうしたものかと目を泳がせる。
──別にヴィンセントも、クロードと閨事を続けるのが嫌なわけではなかった。
ヴィンセントはクロードのことも、クロードとの閨事も、心から愛している。
嫌なわけではない。むしろ、喜ばしいことでもあるのかもしれない。
ただ、なんとなく……クロードを騙しているような気分にもなるのだ。
以前のクロードであれば、もうすでにこの部屋から去っているはずなのである。
「クロード様は──」
「前のクロードのことは関係ありません。いまヴィンセントさんの目の前にいるクロードは、僕です」
ヴィンセントの言葉を遮ったクロードの声には、静かな圧があった。
青い瞳が、じっとヴィンセントを見つめている。
そうしていると、まるで以前のクロードが帰ってきたかのようだ。
「クロード……」
「僕は、ヴィンセントさんのために記憶を取り戻したいとは思っていますが、以前のクロードのコピーになりたいとは思いません。偽物にだって、心はあります」
「偽物だなんて……そんなことを言うのはやめてください」
「では、なぜ以前のクロードと同じく閨事を月に一度にしなければならないのですか? 『クロード様』のことは愛しているけれど、僕のことは愛していないからですか?」
クロードは少し皮肉っぽい笑みを浮かべながらそう言った。
昼間の会話を思い起こさせるその問いに、ヴィンセントは頭を悩ませる。
会話が噛み合わないのは、クロードの思考が難解なからなのか、それともヴィンセントの性格が唐変木で無神経だからなのか。
こんなことになるのなら、最初から素直にクロードを受け入れていればよかったのかもしれない……と、ヴィンセントは少し後悔した。
そうして悩んだ末、ヴィンセントはいままであえて口にしていなかったことを、クロードに打ち明ける決意をする。
「……少し長くなるかもしれませんが、俺の話を聞いていただけますか?」
ヴィンセントがクロードを真っ直ぐに見つめ返してそう問いかけると、クロードは硬い表情を浮かべながらも小さく頷いてくれた。
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