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第4章 夜会と再会と
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しおりを挟む姉を亡くしたとき、クロードがいったいいくつだったのかはわからない。だが、姉の年齢を考えれば十四歳以下なのは確かだろう。
少年のクロードは、姉の死をどう受け入れたのか。それとも受け入れられなかったのか。
死はひとを変える。
元騎士であり、幼い頃に母を亡くした経験もあるヴィンセントはそれを知っていた。
姉が死に、クロードも変わってしまったのだろうか。
もしそうなら、いまのクロードはある意味では本物の──自然体のクロードなのかもしれない。だからといって、記憶を失う前のクロードが偽物のクロードだとは思わないが。
そんなことを考えながらヴィンセントがぼんやりとしていると、隣のアルバートの目がふいにヴィンセントへと向けられる。
「……君は、記憶を失う前のクロードのことをどう思っていた?」
数ヶ月前、似たようなことをいまのクロードにも尋ねられたことがあった。それを思い出しながら、ヴィンセントは静かに答える。
「……愛していました。誰よりも、なによりも」
それを聞いたアルバートは肩をすくめ、小さなため息をつく。
「そうか……本当にもっと早く君に会いに来るべきだったんだな。クロードは君とのことで、ずっと悩んでいたようだったから……」
「……悩んでいた、というのは、俺がクロード様のことを恨んでいるとか、そういったことについてでしょうか……?」
「なんだ、知っていたのか。君が──」
「こんなところに居たんですね」
突然割って入ってきた耳慣れた声に、ヴィンセントとアルバートは同時に同じ方向に目をやる。
そこにはクロードがおり、にっこりと綺麗に微笑んでいた。
「クロード、仕事は……」
「先ほど終えて帰ってきたところです。あなたが部屋にいないので、探していました」
そう言ってヴィンセントの隣にやって来たクロードは、当然のようにヴィンセントの頬にキスをした。
アルバートの目の前でそんなことをするクロードにヴィンセントは驚いたが、クロードは涼しい表情のままだった。
そして、また愛想良く笑いながら、クロードはアルバートへと声をかける。
「こんなところで立ち話もなんでしょう。中でお茶でもどうですか?」
「いや、少し立ち寄っただけだから、俺はもう帰るよ。妻も待ってるからな」
「そうですか。残念です」
残念だと言いつつも、満面の笑みが浮かべられたクロードの顔はちっとも残念そうではなかった。
そうして、屋敷の前で馬車に乗るアルバートを見送ったあと──すぐにまた、クロードの目はヴィンセントへと向けられる。
「──……アルバートさんと、なにを話していたんですか?」
問いただすような、厳しい口調だった。
どう答えたものか……と、ヴィンセントはクロードから目を逸らし、そのまま目線を泳がせる。
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