練習なんかじゃ終われない!

リツカ

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 ──ルート君って秋也に結構ズバズバ言うんだな……意外……

 光秋はぱちりと目を瞬かせた。
 気の強い秋也が物静かで年下のルートを普段から尻に敷いていると思っていたので、意外に口達者なルートに光秋は感心した。
 すっかり鼻っ柱をへし折られたらしい秋也は、テーブルに肘をついて頭を抱える。

「はあぁ~……双子の兄貴が俺のせいでホス狂いになったとかつれぇ……」
「ほ、ホス狂いって……リョク君はホストじゃないし、狂うとかそこまでじゃないから!」
「金払って会ってる男のこと本気で好きとか言ってる時点で、十分狂ってんだよ。あーもう、ただ幸せになってほしかったのになんでこんなことになってんだ……」
「ちゃんと幸せだから大丈夫だよ」
「……ばーか」

 悪態をついて、秋也はちびちびとビールを飲みはじめる。
 まだ納得いかない表情をしているが、少し落ち着いたのか先ほどのように強い言葉をぶつけてくる様子はなかった。

「──あの、ひとつ気になったことがあるんですけど、そのリョクってひとが『急に代わりで来た』っていうのは、事前に店からの連絡とかがなかったってことですか?」

 ふいにルートから投げかけられた問いに、光秋は「うん、そうだね」と頷く。
 すると、ルートは顎に手を当て、うーん……と唸った。

「変、というか、ありえないような……」
「え?」
「急病だったとしても、他のキャストを勝手に寄越すって普通はしないと思うんですよね。むしろ逆にトラブルになりそうだし」
「そう……?」
「例えば、カレー屋でカツカレー頼んだのにカツが品切れだからって無断でハンバーグカレー持ってこられたら『はっ?』ってなりません? せめて事前に確認しろよ、こっちはカツカレーじゃないならいらないんだけど、って」
「は、はあ……」

 ──いったいどこからカレー屋の話が出てきたんだろ……?

 光秋が困惑していると、秋也が苦笑しながら口を開いた。

「カレー屋で例えた意味はわかんねぇけど、それは本当にそうなんだよな。光秋がそのリョクってやつのことを嫌いなったから別の男指名した可能性だってあったのに、それを考慮しないのも意味わかんねぇし。というか普通にクレーム案件だろ」

 ──た、確かに……?

 ルートと秋也の話を聞いて、光秋は首を傾げる。
 リョクから説明を受けたときの光秋は『そんなこともあるのか~』と納得していたが、あの日リョクが代わりに来たことはやはり普通じゃなかったのかもしれない。
 とはいえ、それがいったいなにを意味するのか光秋には見当もつかないが。

「うーん……結構適当な店なのかな?」
「その可能性もあるし、あとは──」

 ルートは一度言葉を切るように口を閉ざした。その後、ちらりと秋也を見て、また光秋へと視線を戻す。

「……代わりにリョクさんが家に来たとき、どんな様子でした?」
「どんなって……」

 あの日のリョクの表情や言葉を思い返すと、照れくさくてほんのり頬が熱くなる。
 光秋はぼそぼそと小さな声で答えた。

「少し、というか、結構怒ってたかな……俺が自分以外を指名したのがすごく嫌だったみたいで……」
「具体的にはどんなこと言われたんですか?」
「えっと……最初は自分に飽きたのかって怒ってたけど、そうじゃないってわかったらいつも通り優しくなって……他の男によそ見しちゃダメだって、俺のこと特別って言ってくれた……」

 もじもじしながら光秋はそう説明した。
 すると、秋也は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべて「うわっ……」と声をもらす。

「がちでホストのやり口じゃん……きっつ……」
「アキちゃんはちょっと黙っとこうか。……つまり、リョクさんは嫉妬してた?」
「うーん、それはどうなのかな……自分のお客さんが同僚に横取りされたように感じて嫌だっただけかもしれないし……」
「なるほど」

 ルートは再び考え込むような表情をして黙り込んだ。
 そんなルートに向かって、たこ焼きを食べていた秋也が眉をひそめながら問いかける。

「なんか引っかかるとこでもあんのか?」
「引っかかるというか、もしかしたらそのリョクってひとが勝手にコウってひとと交代して光秋さんのとこに来たんじゃないかな、って。ほら、普通のバイトでも店長には報告せずバイト同士でシフトを代わったりすることってたまにあるでしょ? 店が無断で別のキャスト寄越してきたって考えるよりは、そっちの方が自然じゃない?」

 ──なるほど……?

 ルートの話を聞いた光秋は、ふむふむと頷く。……といっても、なんとなくわかった気になっているだけで、ルートの話の意図はまったく理解できていなかった。
 一方秋也は、眉を寄せて首を傾げる。

「そうかぁ? でも、そうだとしても『だからなに』って話だろ」
「いや、そうはならないよ。そういう店は他の店と違ってキャスト本人が商品みたいなもんなんだから、勝手に仕事代わるとか絶対しちゃダメでしょ。そこらへんちゃんとしてる店だったら、最悪クビもありえると思う」

 ルートの説明に、光秋の頭の中が『?』でいっぱいになる。
 それは秋也も同じようで、渋い顔をしながら片手で頭を抱えていた。

「……ちょっと待て、頭がこんがらかってきた。キャスト同士で上に黙ってシフトを代わってる可能性があって、でもそれは普通に考えたらしちゃダメなことで……つまり……?」
「つまり、リョクさんは多少のリスクを背負って光秋さんに会いにきた可能性があるってこと」

 どうでもいい客にそんなことする?

 ルートの問いに、リビングがしんと静まりかえった。
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