練習なんかじゃ終われない!

リツカ

文字の大きさ
25 / 40

25

しおりを挟む

 リョクはそのまま店の控え室に向かい、空いているソファにどかりと腰を下ろす。

 ──……たっく、なんなんだよ。

 気にかけられると、調子が狂う。
 だってリョクは性格が悪くて、素の自分で接してきた相手には『クズ』だの『最低』だのと蔑まれてきた男だからだ。
 家族とは疎遠。恋人なんていない。友達だってたまに遊ぶ連中をそう呼んでいるだけで、世間一般でいうところの友情なんて欠片もない薄っぺらい存在にすぎなかった。
 リョク自身、それでいいと思っている。自己中に、自分勝手に生きるためには周りの過干渉なんて邪魔でしかないからだ。

 ──どいつもこいつも説教くさいんだよ。俺はなにも変わってないし、みっちゃんのことだってただの客としか思ってない。そりゃあ好みのタイプだけど、この仕事やってて惚れた腫れたなんてありえないでしょ。

 リョクがもやもやしていると、少し遅れてコウが控え室へとやってきた。
 リョクは下からギロリとコウを睨み付ける。

「……てめぇ、なにみっちゃんのことバラしてんだよ」
「だって、俺が店通さずに太客と会ってたこと店長にバレてたんだもん。なら、もうお前のこと黙ってる理由ないじゃん。むしろ俺だけ怒られるの理不尽だし。一緒に仲良く罰金払おうな~」
「死ね」

 呪詛を込めて吐き捨てた。
 しかし、コウはへらへらと笑いながらリョクの肩を叩いてくる。

「まあそうカリカリすんなって! 店長はお前に自分と重なってる部分があるから心配なんでしょ。店長の彼氏って店長がウリやってた頃の客で、そのひとに本気で惚れちゃったからウリやめたって店長言ってただろ?」
「はあ~? それのどこが俺と重なってるんだよ?」
「客に本気で惚れちゃってるとこ」
「だーかーら、違うって言ってんだろ。この話何回すんだよ……」

 コウと話していると、腹が立つを通り越して疲れてくる。
 リョクは大きくため息をついて、胡乱な目でコウを見つめた。

「……つか、お前まさか店長のあの話信じてんの?」
「あの話って、店長と彼氏の話? 信じるもなにも事実だろ。今も店長と彼氏ラブラブだし」

 ギャンブル中毒のくせにやたらと純粋な目をして言うコウを鼻で笑って、リョクはベラベラと喋りだす。

「はっ、お前ってほんっっとバカだなぁ。あんなん周りに聞かせるために都合よく美談にしてるだけに決まってんじゃん。どうせ、若い頃ほど稼げなくなったからそのとき一番貢いでくれてた太客に水揚げしてもらっただけだろ。この店の開業資金もヨウジさんに立て替えてもらったって言ってたし。元大手のナンバーワンホスト、現ホストクラブのオーナーとか今も昔も最高の金蔓だよな」

 店長と付き合っているヨウジという男は近くのホストクラブのオーナーで、ここの開業資金を立て替えたからか、時々我が物顔で店にやってくる。なので、この店のキャストは大体ヨウジと顔見知りだ。
 ヨウジは十年近く前にウリ専で働いていた頃の店長の太客で、ホストで稼いだ金をかなりの額貢いでいたと本人から聞いた。紆余曲折あって最終的にふたりは付き合うことになり、店長はウリ専から足を洗ったのだ、と。

 その話を聞いて、ロマンチックだの素敵だのと羨ましがるキャストもいた。
 しかし、リョクは違う。
 リョクの目に映る店長とヨウジの関係は、昔と変わらず金で繋がったものでしかなかった。だってそうだろう。今の店があるのはヨウジのおかげで、今後ももしものときはヨウジが財布になってくれる。
 ただ少し身綺麗になっただけで、店長がヨウジの金に支えられて生きていることに変わりはない。
 エースと呼ばれる一番の太客に『恋人』という名の首輪を与えて、喜ばせて、上手く飼い慣らす──店長はただそれをやってのけているだけだ。
 
 リョクの話を聞いたコウは、呆れを通り越して少し引いたような顔でリョクを見ていた。

「……お前って、ほんっっと捻くれてるよなぁ。今まで誰かを好きになったこととかないの?」
「ない」
「あっ……」

 いかにも『察し』という顔をされ、リョクは眉を寄せコウを睨む。

「なんだよ」
「いや、そっかぁ……二十歳超えてからの初恋とかそりゃあよくわかんないよな、うん」
「はっ?」
「困ったこととかあったら、ちゃんと店長に相談しろよ。あっ、俺はそういうの面倒くさいから勘弁な!」

 ──まじでうぜぇ……

 一瞬本気で殴ってやろうかと思ったが、まだ奥の部屋に店長がいることを思い出してやめた。これ以上罰金が嵩むのは、リョクにとって当然喜ばしいことではない。

 リョクはフンと鼻を鳴らして、コウの存在を無視することにした。
 テーブルの上に置かれていた飴を無造作に口内へと放り投げ、舌の上で転がす。安っぽいコーヒー味のそれは、みっちゃんが家で淹れてくれるコーヒーとは比べ物にならないくらいまずかった。

 ──会いてぇなぁ…………いや、これは別にみっちゃんのことが好きだからとかそんなんじゃないからな? 金がもらえて、おまけに体の相性がいいから気に入ってるだけだし。

 ふいに浮かんできた言葉を打ち消そうとするように、心の中で言い訳を連ねる。
 まるで自分に言い聞かせるかのようなその必死さに、リョクは自分で自分に呆れてしまいそうだった。

 しかし、リョクがみっちゃんを気に入っていようが、のめり込んでいようが、結局ふたりの関係が金で繋がった不純なものだということに変わりはない。
 リョクにとっては『仕事』で、みっちゃんにとっては『練習』──ただ、それだけの関係だ。

 ──……あー、なんかしんどいかも……

 リョクは自嘲するように唇を歪め、口内の飴を奥歯でガリッと噛み砕く。
 なぜこんなにも憂鬱な気分になるのか、リョク自身にもよくわからない。
 ただ、自分とみっちゃんは店を通さなければ顔も見ることができないその程度の関係なのだと思うと、無性に虚しかった。


 ◇◇◇
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

またのご利用をお待ちしています。

あらき奏多
BL
職場の同僚にすすめられた、とあるマッサージ店。 緊張しつつもゴッドハンドで全身とろとろに癒され、初めての感覚に下半身が誤作動してしまい……?! ・マッサージ師×客 ・年下敬語攻め ・男前土木作業員受け ・ノリ軽め ※年齢順イメージ 九重≒達也>坂田(店長)≫四ノ宮 【登場人物】 ▼坂田 祐介(さかた ゆうすけ) 攻 ・マッサージ店の店長 ・爽やかイケメン ・優しくて低めのセクシーボイス ・良識はある人 ▼杉村 達也(すぎむら たつや) 受 ・土木作業員 ・敏感体質 ・快楽に流されやすい。すぐ喘ぐ ・性格も見た目も男前 【登場人物(第二弾の人たち)】 ▼四ノ宮 葵(しのみや あおい) 攻 ・マッサージ店の施術者のひとり。 ・店では年齢は下から二番目。経歴は店長の次に長い。敏腕。 ・顔と名前だけ中性的。愛想は人並み。 ・自覚済隠れS。仕事とプライベートは区別してる。はずだった。 ▼九重 柚葉(ここのえ ゆずは) 受 ・愛称『ココ』『ココさん』『ココちゃん』 ・名前だけ可愛い。性格は可愛くない。見た目も別に可愛くない。 ・理性が強め。隠れコミュ障。 ・無自覚ドM。乱れるときは乱れる 作品はすべて個人サイト(http://lyze.jp/nyanko03/)からの転載です。 徐々に移動していきたいと思いますが、作品数は個人サイトが一番多いです。 よろしくお願いいたします。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

かわいい王子の残像

芽吹鹿
BL
 王子の家庭教師を務めるアリア・マキュベリー男爵の思い出語り。天使のようにかわいい幼い王子が成長するにつれて立派な男になっていく。その育成に10年間を尽くして貢献した家庭教師が、最終的に主に押し倒されちゃう話。

大学一軍イケメンにいちご狩りに誘われた陰キャの俺、なぜかいちごじゃなくて俺が喰われたんだが(?)

子犬一 はぁて
BL
大学一軍イケメン×大学九軍陰キャ 喰われるなんて聞いてないんだが(?) 俺はただ、 いちご狩りに誘われただけだが。 なのに── 誘ってきた大学一軍イケメンの海皇(21)に なぜか俺が捕まって食われる展開に? ちょっと待てい。 意味がわからないんだが! いちご狩りから始まる ケンカップルいちゃらぶBL ※大人描写のある話はタイトルに『※』あり

その首輪は、弟の牙でしか外せない。

ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。 第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。 初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。 「今すぐ部屋から出ろ!」 独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。 翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。 「俺以外に触らせるな」 そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。 弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。 本当にこのままでもいいのか。 ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。 その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。 どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。 リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24) ※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。 三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

処理中です...