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過去話・後日談・番外編など
十年先 5
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誠は自嘲的な笑みを浮かべながら、大して面白くもないテレビ番組を眺める。
病んでしまった自分を憐れだと思うのに、画面越しに映る孤独死だの貧困だのの暗いニュースを見て『それでもこいつらよりはマシだ』と思う卑しい自分がいた。
愛しているわけではいないが、それでも周りに妬まれるほど優秀なアルファの男と結婚して、金にも衣食住に不自由のない生活を送る自分はきっと幸せなのだ──そう自分自身に言い聞かせながら、誠はいまを生きている。
こうやって誰かを見下していないと気が済まないところがクズなのだと夜彦は言う。それに対して誠が『誰だってそうだろう』と反論すると、夜彦はますます笑みを深めるのだ。
父と一緒にどん底に落ちた方がまだよかったのではないか、と時々考えることもある。
そうすれば、姉もあそこまでのことはしなかったのかもしれない。誠もいまほど他人に怯えず生活できていたのかもしれない。また、誰かを本気で愛することができたのかもしれない。
いっそ死んだ方が楽になれるのかと思ったことも何度もあった。夜彦を殺したら何か変わるんじゃないかと、その首を両手で絞めたこともあった。
けれど、最終的にはどちらも踏みとどまって、誠は今日も自堕落で無意味な日々を過ごしている。
いつもと違うのは、先ほど見た夢に雅臣が現れたことくらいだ。
──雅臣は、いまどうしているんだろう。
結局、雅臣に会えたことはあれから一度もなかった。言葉を交わしたのも、あの電話が最後だ。
姉の暴露のせいで、神田誠の婚約者であったオメガ男性がいったい誰なのか、彼はその後どうなったのかを気にしている野次馬は多かった。
だが、雅臣の名前や個人情報が表に出たことは誠が知る限り一度もなかった。それだけ周りの口が固かったのか、それともあの卯月が裏でなにか手を回したのか。
なんにせよ、誠がベータだったことは当然雅臣もニュースを見て知っているのだろう。
裏切られたと思っただろうか。それとも納得したのだろうか。
夢の中に現れた雅臣は、穏やかに微笑んで誠を許してくれた。一緒に逃げようと言った誠の言葉に優しく頷いてくれた。
現実の雅臣は、はたしてどうだろう。
誠はレースカーテンから透けて見える外の景色をぼんやりと眺めた。
広い庭には生前夜彦の母が作って、いまは夜彦の父の佐伯夏彦が手入れをしている花壇がある。さまざまな花が咲いているが、なかでも白い薔薇がいっとう美しく咲いていた。
その庭と邸宅を囲むように石壁の高い塀があり、外には数人の警備員が立っている。まるで、この家に守られているようにも、閉じ込められているようにも感じられた。
外が怖い。人が怖い。
けれど──雅臣が隣にいてくれたら、夜彦がいなくてもまた外に出られる気がする。
子どもの頃から雅臣を愛していたというあの悪魔のような男は、いまも雅臣の隣にいるのだろうか。
あの悪魔のような男に愛された雅臣は、いったいどんな生活を送っているのだろうか。
もしかすると──番契約を盾にされ、逆らうことも逃げることもできず、雅臣も誠と同じようにパートナーに怯えながら暮らしているのかもしれない。
ふいに誠の唇が笑みの形に歪んだ。
雅臣に幸せであってほしいと思うのと同時に、自分の隣にいてくれないのなら不幸であってほしいだなんて、そんな傲慢な考えも頭に浮かぶ。
まだ誠のことを愛していてほしい。誠がまだ雅臣を愛しているのと同じように。
病んでしまった自分を憐れだと思うのに、画面越しに映る孤独死だの貧困だのの暗いニュースを見て『それでもこいつらよりはマシだ』と思う卑しい自分がいた。
愛しているわけではいないが、それでも周りに妬まれるほど優秀なアルファの男と結婚して、金にも衣食住に不自由のない生活を送る自分はきっと幸せなのだ──そう自分自身に言い聞かせながら、誠はいまを生きている。
こうやって誰かを見下していないと気が済まないところがクズなのだと夜彦は言う。それに対して誠が『誰だってそうだろう』と反論すると、夜彦はますます笑みを深めるのだ。
父と一緒にどん底に落ちた方がまだよかったのではないか、と時々考えることもある。
そうすれば、姉もあそこまでのことはしなかったのかもしれない。誠もいまほど他人に怯えず生活できていたのかもしれない。また、誰かを本気で愛することができたのかもしれない。
いっそ死んだ方が楽になれるのかと思ったことも何度もあった。夜彦を殺したら何か変わるんじゃないかと、その首を両手で絞めたこともあった。
けれど、最終的にはどちらも踏みとどまって、誠は今日も自堕落で無意味な日々を過ごしている。
いつもと違うのは、先ほど見た夢に雅臣が現れたことくらいだ。
──雅臣は、いまどうしているんだろう。
結局、雅臣に会えたことはあれから一度もなかった。言葉を交わしたのも、あの電話が最後だ。
姉の暴露のせいで、神田誠の婚約者であったオメガ男性がいったい誰なのか、彼はその後どうなったのかを気にしている野次馬は多かった。
だが、雅臣の名前や個人情報が表に出たことは誠が知る限り一度もなかった。それだけ周りの口が固かったのか、それともあの卯月が裏でなにか手を回したのか。
なんにせよ、誠がベータだったことは当然雅臣もニュースを見て知っているのだろう。
裏切られたと思っただろうか。それとも納得したのだろうか。
夢の中に現れた雅臣は、穏やかに微笑んで誠を許してくれた。一緒に逃げようと言った誠の言葉に優しく頷いてくれた。
現実の雅臣は、はたしてどうだろう。
誠はレースカーテンから透けて見える外の景色をぼんやりと眺めた。
広い庭には生前夜彦の母が作って、いまは夜彦の父の佐伯夏彦が手入れをしている花壇がある。さまざまな花が咲いているが、なかでも白い薔薇がいっとう美しく咲いていた。
その庭と邸宅を囲むように石壁の高い塀があり、外には数人の警備員が立っている。まるで、この家に守られているようにも、閉じ込められているようにも感じられた。
外が怖い。人が怖い。
けれど──雅臣が隣にいてくれたら、夜彦がいなくてもまた外に出られる気がする。
子どもの頃から雅臣を愛していたというあの悪魔のような男は、いまも雅臣の隣にいるのだろうか。
あの悪魔のような男に愛された雅臣は、いったいどんな生活を送っているのだろうか。
もしかすると──番契約を盾にされ、逆らうことも逃げることもできず、雅臣も誠と同じようにパートナーに怯えながら暮らしているのかもしれない。
ふいに誠の唇が笑みの形に歪んだ。
雅臣に幸せであってほしいと思うのと同時に、自分の隣にいてくれないのなら不幸であってほしいだなんて、そんな傲慢な考えも頭に浮かぶ。
まだ誠のことを愛していてほしい。誠がまだ雅臣を愛しているのと同じように。
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