十年先まで待ってて

リツカ

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過去話・後日談・番外編など

温泉旅行

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 後日談。
 サッカーの思い出の続き。
 全五話。


 +++++++


 カンッと音を立てて跳ねたピンポン球が、卓球台と雅臣のラケットの間を勢いよくすり抜けていく。雅臣が背後を振り返ったときには、壁に当たったピンポン球はタンッタンッと床の上を跳ねていた。
 跳ねたピンポン球の先にいた総真は軽々とそれをキャッチして、雅臣に得意げな笑みを向ける。

「俺の勝ちだな」
「……今日は調子が悪かった」
「11-0で負けたくせになに言ってんだか。負け惜しみがすぎるだろ」

 けらけらと笑い声をあげた総真は「んじゃ、勝負もついたし、部屋に戻るぞ」と言う。
 負けた雅臣はわずかにむくれながらも、大人しくラケットを元の場所に戻した。



 いつだったか、『卓球で勝負しよう』という話とともに『温泉旅行に行こう』という計画が雅臣と総真の間で持ち上がった。確か、サッカー日本代表の試合を見ているときだっただろうか。
 雅臣が忘れかけていたその計画を総真はしっかり覚えていたようで、総真が『旅館予約できたから温泉旅行行くぞ!』と伝えてきたのが二週間前のこと。

 まだ肌寒さの残る二月の終わり。
 雅臣と総真は今、少し遠出をして一泊二日の温泉旅行へとやってきていた。



「おっかしいなぁ、昔はもっと上手くできた気がするんだけど。卓球部の顧問の先生にも『悠木は筋が良い!』って言われてたし」
「球技で俺に勝とうなんざ百年早いんだよ」

 勝ち誇る総真が憎たらしくて、雅臣はムッとする。

「あんなに上手いなら先に言っとけよな」
「言っただろ。それに、お前だって自信満々だったじゃん」
「そりゃそうだけど……あっ、じゃあ今度は剣道で勝負しようよ! 道場ならたぶんすぐ借りられるから!」
「とうとう自分が確実に勝てる競技出してきたな……」

 苦笑しつつ、総真は雅臣の手を引いて部屋へと続く廊下を歩き出した。
 人前で手を繋いで歩くのは、まだ少し気恥ずかしい。けれど、雅臣も総真の手を握り返し、ゆっくりとその隣を歩いた。
 どうせ今日会ったひとたちと顔を合わせることなんて、二度とないのだ。なら、少しくらいイチャついたって罰は当たらないだろう。

 部屋の前に着いてからも、雅臣と総真は手を繋いだままだった。
 ふたりは襖を開け、室内に入る。実家で身近だった畳の香りが懐かしい。素朴でなおかつ趣のある、広い和室だ。
 雅臣は笑顔で総真を見た。

「温泉も良かったし、部屋の雰囲気も良いし、ほんと良いところだな。あと、ご飯も豪勢ですごく美味しかった」
「だろ? 卓球のできる旅館で良さげなとこ見つけるの結構大変だったわ」
「ふふ、ありがとう」

 雅臣が礼を言うと、総真の瞳が愛おしげに細められる。
 作り物のような端麗な顔がゆっくりと近付いてきて、総真の唇が雅臣のものと重なった。唇を食まれ、舌を差し込まれ──その最中に総真の手が雅臣の体を這っていく。
 雅臣はあわてて総真の胸を押し返した。

「ちょ……た、卓球で汗かいたから、もう一回温泉入りたい!」
「気になんねぇよ」
「総真っ」

 必死の抵抗も虚しく雅臣は総真に抱きかかえられ、布団の敷かれた部屋へと運ばれた。
 二組の布団の片方へと押し倒された雅臣は、眉を寄せて総真を睨む。

「温泉くらい入らせてくれてもいいだろ!」
「無理。お前の浴衣姿エロすぎんだよ。もう我慢できない」
「な、なに馬鹿なこと言って……」

 自身に組みついてギラついた目をする総真を見ていられず、雅臣は顔を赤くしてそっぽを向く。
 旅館で雅臣が浴衣に着替えたときから総真は『かわいい!』と雅臣の浴衣姿に興奮しっぱなしだった。だが、まだそのときはこんな欲に塗れた瞳をしてはいなかったはずだ。スマートフォンで雅臣をいろんな角度から連写しているのが少し怖かったくらいだろうか。

「雅臣……浴衣すげぇよく似合ってる。かわいい、えろい……」
「…………」

 同意はしかねるが、総真にうっとりとした声で褒められると満更でもない気持ちになってしまう自分がいた。
 顔を背けていた雅臣はちらりと総真を見上げ、ぼそぼそと呟く。

「お前の方が似合ってるよ……いつもかっこいいけど、和装もかっこいい」
「惚れ直した?」
「まあ……」

 想像していた通り、総真の浴衣姿はすごくかっこよかった。旅館に泊まる全員に貸し出されているごく普通の浴衣のはずなのに、スタイルの良い総真が着るとやけにおしゃれに見える。

 たまに呆れることもあるが、やっぱり総真はかっこいいし、誰よりも愛おしい。
 それこそ、総真のいない生活なんてもう考えられないくらいに、雅臣は総真に惚れ込んでいる。
 なので、本当はもう惚れ直す必要さえないのだ。呆れても、喧嘩しても、それでも雅臣は総真のことが大好きだから。
 ……それを本人に伝えるのは、未だに気恥ずかしいが。

 照れる雅臣を見て、総真はうれしそうに小さな笑い声をあげた。そして、やけに甘い声で雅臣に囁く。

「なぁ、あの約束覚えてる?」
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