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第3章 精霊の森
精霊の森②
しおりを挟む精霊の森────
霧の街レイボストンの周辺のある森に存在すると言われている場所。そこはたとえ見つけても、招かれないと入ることはできない特殊な場所。精霊が住むとされており神聖な所とされている。
クラウディは精霊を名乗るフィレンツェレナに簡単に説明を受けた。
「それはここにいる間は身につけていて下さい」
クラウディがネグリジェを着替えようとした時精霊はいった。
「それはここに存在できるようにあしらった衣服です。ここで脱いでしまうと強制的に外に弾き出されてしまいます」
────なるほど出たければ脱げと……
しかし下着が透けて見えるようなデザインの衣服はどうにかならないかと少女は思った。
仕方なくその上からいつもの旅人の服を着る。
その時に少女の腹の虫が鳴った。
「人間は頻繁にエネルギーを取らなければいけないそうですね。よろしければこちらへ」
そういえばと腹をさすりながら少女は精霊についていった。
クラウディが目を覚ましたところではなく、少し離れたところにまた別の木の洞があった。ただ少女のものより2回りは大きく、その横に大きな切り株がある。
その切り株の上には、いつの間に用意したのか緑の多い食事が並べられていた。
少女は促されて草の上に胡座をかいて座り、食事をした。
見たことのない穀物のサラダやスープ、大豆を細かくして練って焼いたものなどなど。
────うっ……肉が食べたい
元男は野菜よりは肉が好きで、消耗している今の体には尚更タンパク質が摂取したかった。そうは思ってもせっかく用意してもらったのでできるだけ胃に詰めた。
「ご馳走様……」
しばらくそのままその場で某っと小川を見て休んでいたが、精霊はどこに行くでもなく何か言うでもなくずっと少女の側にいた。
会話の苦手な元男の少女は気まずさに身じろぎした。
「あの……」
「はい」
「…………」
「…………」
────なにを話したらいいんだ?
「何でも。あなたは私の恩人でもあるのだから」
心の中を読むことができるのか、様子で察したのかわからないが精霊がそう言う。
「……じゃあ、シャドウレインだったか?あの虎」
「はい。天候をも操る困った子です」
「え、天候も?あ、いや俺が倒したって言っていたがどうやって倒したんだ?」
精霊は少女の鞘に納められたシミターを撫でた。
「この剣が光ってあなたが倒したのです」
────剣が光る?……?!
不意に頭痛が元男を襲った。どうやら元の世界関連の事を深く考えようとすると、戻ろうとする記憶を阻止しようとするらしく毎回頭痛が襲った。
少女は痛みに頭を抱えた。
「元の……世界の時の力を使った……てところか」
精霊は頷いた。
「はい。この世界の力ではありませんでした」
クラウディは剣を持ち、探るように意識を集中する。
────確かに何か……
酷く懐かしい気配がしたかと思えばしかしどこかに移動するようにスゥッと消えた。
精霊が不意に何故か少女の目元を撫でた。クラウディは涙が出ていた事に気づいて慌てて目を擦った。
「魂の疲労が見えます。少し休みましょう」
そう言って精霊が少女の額に触れると、少女の意識は遠のいていった。
クラウディはそれから『精霊の森』で鍛錬しながら何日か過ごした。
剣に宿る力を引き出せないかと試行錯誤してみるが一向にその片鱗すら掴めなかった。
精霊のフィレンツィレナにも聞いてみるも未知の力には知識を持ち得ないと言われ諦めざるを得なかった。
ただ、すぐに消えてしまうが確かな何かの存在は剣から感じはした。
少女は剣の力の事からは一旦離れ、身体の鍛錬に時間を使った。
フィレンツェレナはそんなクラウディを常に見ていて、とある事で悩ませていた。
精霊はどうやらシャドウレインの事が余程迷惑だったのか────恩返しがしたいと────出来ることはないかとしきりに聞いてきた。同時に精霊が満足しないと出してくれないのではないかと不安になる。
しかも何ができるのか聞いても『出来る事なら何でも』と言うため何度も堂々巡りとなるのだ。
「なら旅に一緒に来れないか?」
「私フィレンツェレナは戦うのは得意ではありません。それにここに私がいなくてはこの周辺の安定が取れなくなるのです」
思い切って頼んでみたが、同行は不可だった。不思議な力を使う精霊とやらが仲間に加われば心強いことこの上ないがダメなら諦めざるを得ない。
難しい話は分からないが聞くと生態系が崩れてしまうとの事だった。
────じゃあなにができるんだ
「しかし、そうですね。私は不可なので、他の精霊を呼んでみますか?もしかしたら力になってくれるかもしれません」
精霊はどこからか青白い小さな玉を取り出した。
「それ、シャドウレインの……」
「はい。シャドウレインのコアです。これを媒介にすればそれなりなものを呼べるはずです」
精霊はシャドウレインのコアを少女の手のひらに乗せた。続けて少女の背に手のひらを置き、マナを流し言葉を続けるように言う。
『精霊よ我が期待に応えよ。願わくばその身を顕現せよ、我が名はクラウディ』
文句を唱えるとコアが輝き出し、風が少女を中心に渦を巻いた。激しい風と光が去るとクラウディの手のひらに滑りとした緑のゼリーのようなものがあった。
「…………え?なんだ、これ」
精霊は蠢く手のひら大の液状のものを見て、あら、と驚いた顔をした。
「スライムですね。プリムスライムです」
────スライム?それって精霊か?ゲームでは雑魚敵じゃなかったか?
「お、おいこれ!どうするんだ?!」
会話している間にも指の間からスライムが地面に伸びていく。
フィレンツェレナはどこからか上下が銀縁の筒状のガラス瓶を取り出すとすくいあげて中に詰めた。
「スライムって精霊なのか?」
「プリムスライムは非常に珍しい個体です。きっとあなたを助けてくれるはず」
そう言って『精霊』とは言い切らず、瓶を少女に渡す。
────いらないなこれ……
「コアを使った精霊召喚は使用したコアの強さによってその人にあったものを呼び寄せます」
「シャドウレインでスライムって……どうかしてる」
戦ったシャドウレインはAランクくらいはあったのではないだろうか。少女はそう思うとコアをすごく勿体無い使い方をしたのではないだろうかと唸った。
────そのままもらった方が金にもなったのでは?
クラウディはため息をつき立ち上がった。スライムは一応インベントリに入れておく。
「どこへ?」
「長居しすぎた、そろそろ行かなくては」
『精霊の森』に来て1週間近く経っていた。
「もう心はよろしいので?」
「心?」
少女の体調はすこぶる良くなっていたため言っている事が理解できない彼女はその旨を伝えた。
「では外へ案内しましょう」
あっさりと応じる精霊に意外だと驚く少女。てっきり何か要求するのではと危惧していたのだ。
クラウディは荷物をまとめるとフィレンツェレナの跡を追って行くとちょうど森と草原の境界のところで彼女は待っていた。
フロレンスの所ではそのまま外に出たことはなく一瞬戸惑って足を止めた。横にいる精霊を見ると手のひらを上に向けて頷いた。
クラウディは手をかざしてゆっくりと結界をくぐった。
出る瞬間に身体に何かが通る感触がした。何とも言えない、膜を通り抜けたような。
少女が振り返るとそこにはもう草原の広がる『精霊の森』は無く、鬱蒼した木々が茂った森だった。ただ精霊も一緒に外に出たのかまだそばに居た。
「クラウディ……もう一度感謝を」
精霊は少女の手を握り、もう一方の手を被せた。手はひんやりとしていてた。
「ああ。もう会えないのか?」
「神の導きがあればまた」
精霊は微笑むと今度は少女の胸に手を当てた。
「それはほんの気持ちです」
そう言って手を離すと、気づけば精霊は目の前から姿を消していた。
クラウディは胸が物理的に暖かくなっているのに気付き、それを取り出した。
『生命石』が光り輝いていた。
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