【完結】俺を散々冷遇してた婚約者の王太子が断罪寸前で溺愛してきた話、聞く?

ゴルゴンゾーラ安井

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8.王太子は庶民派?

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 手を引かれて広場に進み、飲食街まで来た俺達は、昼食を摂るのに丁度良さそうな店を探した。
 これがなかなか難しい。ただ食べるだけなら簡単なのだが、何がいけないって、コイツの身分である。
 アーネストが店に入るということは、コイツと俺の二人に加えて、護衛の方々も入らなくちゃいけなくなる。クソ忙しい繁忙期のピークタイムに、そんな店はなかなかない。

「うーん、わかっていたけどなかなか厳しいねえ」

「王都みたいに貴族向けの店は少ないですからね。もちろん、あってもおいそれと国外で身分を明かすわけにはいきませんが……」

 アーネストは頷くと、再び俺の手を引く。
 導かれた先は、飲食街ではなく通り過ぎてきた広場だ。馬車止めのスペースでは主人の帰りを待つ御者や世話係が暇をつぶし、等間隔に設置されたベンチでは多くの人たちが体を休めて寛いでいる。
 その周りには、沢山の屋台や出店が並び、変わったパンや肉、お菓子など様々なものが焼かれ、いい匂いを放っていた。空腹にはかなりくる。

「たまには屋台メシってのもいいもんだよね。レニ、何が食べたい?」

「えっ、はっ?」

 唐突に問われ、俺は間抜けな声を上げた。俺だけじゃなく、護衛の人たちも驚いて目を丸くしてる。
 当然と言えば当然だろう。なんせアーネストは昔からガチガチの貴族主義で、マナーや立ち振る舞いには小姑かよってぐらいうるさい男だった。昔だったら、庶民派の食事処にだって絶対に入らなかったに違いない。
 マリクと付き合ってからその辺はだいぶ軟化したんだと思ってたが、そこから屋台メシまで行きつくのはいくらなんでも極端すぎだろ。

「えっと、だ、大丈夫なんですか?」

「大丈夫って何が?」

「いやだって、屋台ですよ?」

「うん、俺屋台メシだいすき」

 アーネストはニコニコしながら答える。王太子がそう言うんだから、逆らえるはずもないし、突っ込む奴もいない。
 アーネストが甘いねじりパンと串に刺さって焼かれた肉みたいなのを買いに行くのを、俺は黙って見ているしかできなかった。




 空いてるベンチがなかったからどうしようかと思っていたが、アーネストが屋台に並んでいる間に立ち去る人たちもいて、チラホラと空きができていた。
 その中でも警護しやすい場所を護衛の人たちが選び、そこに腰かけて俺はアーネストが屋台で買い物をする姿を眺めていた。
 意外にも慣れた様子で、屋台の人が食べ物を紙に包んだり会計したりしている間、割とフランクに雑談したりしている。

(前じゃ絶対あり得なかったよなあ。もう別人じゃん)

 やっぱり、マリクの影響なんだろうか。俺が隣にいた11年間、俺はアーネストを何一つ変えられなかったのに、マリクはたったの1年であいつを変えてしまった。
 そう思うと、どうしてか胸の中にモヤモヤしたものが湧き上がってくる。すっげーやな感じ。

(いやいやいや!おかしいだろ!むしろそれでいいじゃん!)

 ぶんぶんと首を振って、俺は自分の中の嫌なものを振り払う。
 何がモヤッ、だよ。バカバカしい。アイツは俺の中でもう終わった男だろうが!むしろいなくなってほしい男ナンバーワンなんだぞ。
 もっとポジティブに考えよう。長年の価値観を覆すほど、アイツはマリクを愛してるんだから、そう簡単に想いが消えてなくなるわけがない。
 今は何かの間違いで俺をレニたんなどと呼んで奇行に走っているが、すぐにマリクに心を戻してくれるだろう。そうすれば、何もかも俺の望みどおりになる。


「お待たせ、レニ」

 アーネストがいい匂いをさせながら戻ってきた。俺の隣に腰を下ろして、食べ物を差し出してくれる。
 いつの間に60センチルールがなかったことになっているのかわからないが、買って来てもらって文句を言うほど恩知らずではない。
 俺は黙って恩恵に与ることにした。
 
「屋台で売られたものなんか、初めてです」

 俺はまず串に刺さった肉に手を伸ばした。こっちの方が服とかに付くと汚れそうだったから、早めに片付けたかったというのもあるし、香ばしい香りがとても美味しそうだった。
 これは一体どうやって食べるべきなんだ?考えてみれば皿もナイフもフォークもない。なのに肉は十分なサイズがあって、一口には収まりそうもなかった。

「食べてみると、結構おいしいよ」

 アーネストは、そんな俺の戸惑いをぶち壊すかのように、躊躇なく串焼肉に齧りついた。
 歯で噛みちぎり、モシャリモシャリと豪快に咀嚼している。マジか。あれでいいのか。てか、やっていいのか。
 目で促され、俺は思い切って肉に齧りついた。ジュワッと甘辛いタレが溢れ出し、口の中には溢れんばかりの肉汁が広がる。めちゃくちゃうまい。
 肉質としては普段ウチで食べてるものより断然劣るんだろうが、その分赤身の旨みがあるし、柔らかく食べさせる工夫が施されている。
 これは多分、固い肉を一度下茹でし、スパイスの効いたタレに漬けこんで臭みを消し、それから網で焼いているに違いない。なかなか手の込んだ逸品だ。侮りがたし、屋台メシ。

「これは美味しいですね。一見粗野に見えて、丁寧な仕事がされています。タレの味付けも変に辛すぎず、癖がなくて食べやすいです」

「うんうん」

「こっちのパンも、素朴なようでいて奥深いですね。噛めば噛むほど味が出るというのか、バターを使わず塩と砂糖のバランスと小麦の香りで勝負しているところに作り手の心意気を感じます」

「アハ、レニたんめっちゃ食リポするじゃん」

 タマテバコやー、と言ってアーネストが笑う。タマテバコってなんだよ、まじで。どこの言葉だよ。
 コイツの話がわけわからんのは相変わらずだけど、今までより嫌な感じはしなかった。むっつりと不機嫌そうに黙り込んで、腕を組みながら俺を疎ましげに睨んでた頃より、ずっといい。

(イヤイヤイヤ!よくないよくない!俺はコイツと別れて自由なハッピーライフを手に入れるんだ!)

 俺は慌てて首を激しく横に振り、気の迷いを打ち払う。

「なにやってるの?レニ。パンくず、ついてるよ」

 くすくすと笑いながら、アーネストが俺の口元に手をのばす。
 そして、俺の口元についていたパンくずを、無造作に口に運び、そのまま食べた。

「うん、甘くておいしい」

 ぺろりとアーネストが唇を舐める。
 
(えっ、今コイツ、なにやった?たべた?俺の口についてたやつ、ぺろって……)

 ぶわわわわわ、と顔に血が集まり、頬がカーッと熱くなるのを感じた。
 信じられない!コイツ、コイツ…やっぱりヤダ!




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