その悪役令嬢、復讐を愛す~悪魔を愛する少女は不幸と言う名の幸福に溺れる~

のがみさんちのはろさん

文字の大きさ
20 / 54
第二章

第17話 悪魔と結婚式

しおりを挟む


「ねぇ、最近あのお屋敷の人達、見ないわね」
「そうね。そういえばあそこの息子さんって隣町のご令嬢と婚約破棄したとか……」
「そうそう。でもすぐに他の子と婚約をしたって聞いたわよ」
「まぁ……誠実そうに見えたのに……ごほっ、ごほっ」
「あら風邪? そういえば、最近流行ってるみたいね。うちの夫もずっと咳き込んでるわ」
「どこかの村で流行り病で亡くなった人がいるらしいじゃない。私たちも気を付けないとねぇ」

 行き交う人がそんな噂をする中、ディゼルは屋敷中に赤い花をばら撒いていた。
 屋敷の外に漏れるほど、甘い香りを漂わせている。廊下には力なく倒れるメイドや執事たち。広い食堂の椅子にはジョシュアと彼の父が焦点の合わない目で座っていた。

「今日は随分と華やかだな」
「ええ。結婚式ですから」

 ディゼルの背後にある黒い靄から悪魔が現れた。
 屋敷の中を埋め尽くすほどの花の数に、悪魔は愉快そうに笑う。どれほどの血を流して花を咲かせたのだろうか。己の血で咲かせた花に囲まれて微笑むディゼルは、今までで一番楽しそうな表情を浮かべている。

「悪魔様、どうですか? 綺麗に出来ましたでしょうか」
「ああ。最高だな、これほど美しい花嫁はそういないだろう」
「まぁ……」

 真っ白なドレスを身に纏ったディゼルは嬉しそうに微笑んだ。
 少しずつこの国も不幸で満たされていった。常にディゼルと共に過ごしていたジョシュアはあっという間に心が壊れ、彼の父も正気を保てなくなった。
 この屋敷を中心に周囲の人達にも病や事故が増えた。悪魔は立ち込める不穏な空気に腹を満たしている。

「お前は本当に面白い人間だな、ディゼル。ここまで食事に困らなくなるとは思わなかった」
「私、悪魔様のお役に立ててますか?」
「ああ。あとはお前の魂がもっともっと熟すのを待つばかりだ」
「私、この数日はあなた以外を愛するフリをし続けて気が狂いそうでしたわ。疑われないようにあの男の口付けを許し、抱かれましたが……もうそんな我慢はしなくていいですよね」
「そうだな。これまでの褒美に、この場でお前を抱いてやろうか、ディゼル……」
「まぁ……お気持ちだけで私は天にも昇りそうなほど嬉しいです。悪魔様、どうか私をあなたの花嫁にしてください」

 ディゼルが両手を広げると、悪魔はククっと喉を鳴らしながら彼女を抱きしめた。
 悪魔の長い舌が彼女の口内を犯し、唾液を飲み干していく。舌で口の中を撫でられるたびに、ディゼルは体をビクビクを震わせた。

「ふ、ぅん……あくま、さま……」
「ああ……甘いな。どんどん美味くなる。たまらない……ディゼル、俺の花嫁。もっともっと不幸で熟してくれ……俺に最高の絶望を教えてくれ」
「はい、悪魔様……」

 悪魔に抱かれ、悪魔を心から愛する不幸な娘。
 今まで多くの者がディゼルに思いを寄せたが、誰の好意も心に響くことはなかった。
 悪魔が自分のことを餌としか見てないのも知ってる。腹を満たすためだけの食料でしかないことを解った上で、ディゼルは悪魔を愛してる。
 悪魔である彼だけが、自分を求めてくれる。必要としてる。それはこの身を捧ぐのに十分な理由だった。

「ディゼル……今一度、悪魔に誓えるか? その体も、心も、俺のものであると」
「ええ……誓います……あなたのために、この身を捧ぐこと……病めるときも健やかな時も、私はあなたのためだけに生きると……」
「それでいい。俺のディゼル……もっと不幸で満たせ。忌まわしいお前の親も妹も、絶望に落とせ。お前の復讐は、きっと俺の腹を、心を満たすだろう」
「はい、悪魔様……あなたのおかげで私は私を虐げたものに復讐が出来る……ああ、私のこの復讐心があなたのお役に立つだなんて、嬉しくて涙が止まりません……」
「そうだ、もっと腹を煮え滾らせろ。そうすれば、お前の魂はもっと美味くなる」
「ああ……悪魔様、悪魔様……」

 ディゼルは知っている。本当の悪意を。
 人間の心の中に潜む悍ましい悪魔の姿を、知っている。自分たちが正しいと信じて自分勝手な言葉を並べて正当化しようとする人間の方が気持ちが悪い。
 自分の欲望に正直な悪魔の方がよっぽどマシだ。むしろ嘘を言わない悪魔の言葉は何よりも信用できる。

「……愛してます、悪魔様……」

 心からの言葉を、ディゼルは告げる。
 愛する悪魔のために、もっと絶望と復讐のために生きようと、思える。

 純粋に、愛のために。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ

ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」 ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。 「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」 何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。 都合のいい女は本日で卒業。 今後は、余暇を楽しむとしましょう。 吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。

【完結】婚約破棄、その後の話を誰も知らない

あめとおと
恋愛
奇跡によって病を癒す存在――聖女。 王国は長年、その力にすべてを委ねてきた。 だがある日、 誰の目にも明らかな「失敗」が起きる。 奇跡は、止まった。 城は動揺し、事実を隠し、 責任を聖女ひとりに押しつけようとする。 民は疑い、祈りは静かに現実へと向かっていった。 一方、かつて「悪役」として追放された令嬢は、 奇跡が失われる“その日”に備え、 治癒に頼らない世界を着々と整えていた。 聖女は象徴となり、城は主導権を失う。 奇跡に縋った者たちは、 何も奪われず、ただ立場を失った。 選ばれなかった者が、世界を救っただけの話。 ――これは、 聖女でも、英雄でもない 「悪役令嬢」が勝ち残る物語。

公爵令嬢は結婚式当日に死んだ

白雲八鈴
恋愛
 今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。 「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」  突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。 婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。  そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。  その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……  生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。  婚約者とその番という女性に 『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』 そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。 *タグ注意 *不快であれば閉じてください。

処理中です...