その悪役令嬢、復讐を愛す~悪魔を愛する少女は不幸と言う名の幸福に溺れる~

のがみさんちのはろさん

文字の大きさ
21 / 54
第二章

第18話 悪魔の花嫁と聖女

しおりを挟む



 今日は特別な日。
 前世でこの世界の物語を知るディゼルだからこそ、分かること。

 トワが主人公の物語。悪魔に乗っ取られた姉を追って、この国にやってくる。ここで初めて二人は最初の戦闘になるのだ。
 悪魔はトワの聖女の力に負け、ボロボロになりながら逃げていく。そういうシナリオだった。

 だが、ディゼルの物語は違う。悪魔に乗っ取られてはいないし、負ける気もない。悪魔の力も日に日に増している。力に目覚めたばかりの聖女などに掛ける要素はないのだ。


 ギィ、という重い音を立てながら扉が開く。
 足元の花を踏みつけ、彼らは前に進む。怯えた表情の彼女に、クスッと微笑みを浮かべながらディゼルはエントランスへとやってきた。

「ようこそ、聖女様」
「……お姉様」

 赤い花に囲まれながら、ディゼルはトワたちを迎え入れた。
 彼女の右隣には聖職者のクラウス。そして左隣には見覚えのある男性が立っていた。

「……あら。お久しぶりですわね、リュウガさん」
「ディゼル……」

 彼は最初の村で出逢った青年、リュウガだった。
 リュウガはトワの祈りによって正気を取り戻した後、彼女がディゼルを追っていることを知って旅に同行させてほしいと頼んだのだ。

「お前が悪魔だったなんて……よくも騙したな」
「騙す? 言いがかりですわね、勝手に私に惚れて勝手に喧嘩を始めたのはそちらでしょう?」
「何だと……!」

 リュウガは拳を握り締めて一歩前に出るが、それをクラウスが腕を出して制止した。

「悪魔。その子の体から出ていけ」
「あらあら。聖職者様、悪魔付きとそうでないかの区別もつかないのかしら?」
「何……? お前、いや君は……」
「は、早くお姉様から出てってください! も、元のお姉様に戻して!」

 クラウスが何かを言おうとしたが、それを遮るようにトワが叫んだ。
 その言葉に、ディゼルの顔から笑みが消えた。

「……元のお姉様? 貴女、何を言ってるのかしら?」
「え?」
「貴女の言う、元の私って何?」

 一歩一歩、トワに近付くディゼル。
 トワを守ろうと前に出ようとするが、クラウスもリュウガも金縛りにあったかのように体が動かなくなった。
 リュウガの目には見えていないが、クラウスには分かる。黒い靄が自分の体に巻き付いていることに。どこかに悪魔がいる。それも自分の予想よりもずっと強い力を持つ悪魔が。

「トワさん! 離れて!」
「で、でも……私の力で悪魔を祓えるのでしょう? あ、悪魔をお姉様から祓わなきゃ……」

 クラウスの制止を聞かず、トワもゆっくりと前に進んだ。
 真っすぐ自分のことを見つめるトワに、ディゼルは苛立ちを募らせた。本当に何も分かっていない。ディゼルの気持ちなんて一つも理解しないまま、悪魔を祓えと言われたからここにいるだけ。
 本気で姉を助けたいなんて、思っていないくせに。ディゼルは目の前に立つトワの頬を撫でながら、嘲笑した。

「ねぇ、トワ。貴女、何のためにここにいるの?」
「そ、それはお姉様を助けるために……」
「どうして? 今まで何もしなかったくせに?」
「っ、だ、だからこそ……私はお姉様に謝りたいと……」
「謝る? 何故?」
「わ、私……私は、お父様やお母様に逆らうことが出来ず、お姉様を助けることが出来ませんでした……結果、お姉様を本当に悪魔にしてしまった……きっとこの力は私の罪を償うためのものだから、だから……!」

 涙を流しながら話すトワに、ディゼルは表情を少しも崩さなかった。
 何を言ってるんだろう。そんな気持ちでいっぱいだった。

「ねぇ、トワ。私を助けてどうするの?」
「え?」
「さっきも言ったわよね。元のお姉様って、何?」
「そ、それは……」
「分かるわけないわよね。今まで私たちはマトモに口を利いたこともない、顔を合わせることもほとんどなかった」
「わ、わたし……」

 ディゼルはトワの頬を両手で掴んだ。
 鼻先がくっつきそうなほど顔を近付け、彼女に問い続ける。
 段々とトワの顔から血の気が引いていくのが目に見えて分かる。呼吸も浅くなっている。
 その様子に、体の動かないクラウスたちが必死に声を荒げた。

「トワさん、動いて! そこから離れるんだ!」
「トワを離せ、悪魔! トワは自分の行いを反省して姉を助けに来たんだぞ!」

 外野の耳障りな声に、ディゼルは大きく溜息を吐いた。
 トワの言い分だけ聞いて、ディゼルを悪だと決めつける声。
 本当に悪は、ディゼルだけなのだろうか。ディゼルが悪に身を委ねた理由も知らずに、どうして勝手なことが言えるのだろう。

「…………トワ。本当に私が悪魔に乗っ取られてると思うの?」
「え……」
「私が自らの意思で動いてるとは思わないの?」
「……そ、れは……」
「私は悪魔に心を乗っ取られていない。貴女が憎くて憎くて、仕方ないのよ。だから私は貴女の邪魔をしたい。貴女を苦しませたい。貴女を絶望に落としたい」

 まるで呪詛のように、その言葉はトワの心を蝕んでいく。
 悪魔を生み出したのは、そもそも自分だったことを知った彼女は、もう祈る気力すらなかった。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ

ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」 ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。 「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」 何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。 都合のいい女は本日で卒業。 今後は、余暇を楽しむとしましょう。 吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。

【完結】婚約破棄、その後の話を誰も知らない

あめとおと
恋愛
奇跡によって病を癒す存在――聖女。 王国は長年、その力にすべてを委ねてきた。 だがある日、 誰の目にも明らかな「失敗」が起きる。 奇跡は、止まった。 城は動揺し、事実を隠し、 責任を聖女ひとりに押しつけようとする。 民は疑い、祈りは静かに現実へと向かっていった。 一方、かつて「悪役」として追放された令嬢は、 奇跡が失われる“その日”に備え、 治癒に頼らない世界を着々と整えていた。 聖女は象徴となり、城は主導権を失う。 奇跡に縋った者たちは、 何も奪われず、ただ立場を失った。 選ばれなかった者が、世界を救っただけの話。 ――これは、 聖女でも、英雄でもない 「悪役令嬢」が勝ち残る物語。

公爵令嬢は結婚式当日に死んだ

白雲八鈴
恋愛
 今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。 「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」  突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。 婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。  そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。  その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……  生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。  婚約者とその番という女性に 『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』 そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。 *タグ注意 *不快であれば閉じてください。

処理中です...