その悪役令嬢、復讐を愛す~悪魔を愛する少女は不幸と言う名の幸福に溺れる~

のがみさんちのはろさん

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第三章

【聖女と幼き少女】

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「……これは」

 トワ達が訪れたのは、砂漠の中にある街だった。
 いや、街だった場所だ。

 火事があったのか建物は黒焦げ、人の形をしたものが至る所に倒れている。
 人の声はどこにもない。聞こえてくるのは風の音だけ。
 ここにもディゼルが来たのは間違いない。今まで通ってきた村や町と同じく花の香りと、悪魔の気配が残っている。
 リュウガは口元を抑えながら、周りを見渡した。

「酷いな……もしかして、彼女が燃やしたのか……?」
「……それは分からない。とにかく、誰か生き残っていないか捜そう」
「あ、ああ」

 クラウスとリュウガは手分けして街の中を探索した。
 トワも二人とは別の方向に歩き、周囲を見回す。木造の家は半壊しているが、石で造られた家は表面が焦げてしまっただけで形を残している。
 どの家も扉は木製で出来ていたようで、室内には容易に入ることが出来た。

 一つ一つ見ていくが、どこにも生きている人はいない。
 まだ全てを見た訳ではないが、どの家にも花らしきものが落ちていた。以前にも目にしたことのある、悪魔の花。
 ここにディゼルがいた証。トワがその花を拾おうとしゃがみ込むと、後ろから物音がした。

「……っ!?」
「お姉さん、誰?」

 驚いて後ろに振り向くと、そこには小さな女の子が沢山の木の枝を抱えて立っていた。
 その少女は無表情で、顔や手足が煤で汚れている。

「あ、あの……あなた、この街の子?」
「うん。お姉さんは、何をしに来たの? ここには何もないよ」
「え、えっと……この街は、なんでこんなことに?」
「…………神様を騙したから」
「え?」

 思いもよらぬ返答に、トワは目を丸くして驚いた。
 この街が火事になったことと神様にどんな関係があるというのか。考えたところで答えは出ない。

「……神様って、どういうこと?」
「……ここには神様がいたんだよ。でも、大人たちは神様を騙していたの。神婚の儀式に花嫁じゃなくてただの人間を差し出していの。花嫁は特別な人が選ばれるはずなのに、全然関係ない人を騙していたの。だから、罰が下ったんだよ」
「……罰?」

 正直、少女が何を言っているのかトワには分からなかった。
 神様が何なのか。罰とはどういうことか。神婚の儀式とは何か。他にも具体的な話を聞きたいが、この少女以外の人影はない。
 ここで何が起きたのか、こんな幼い少女に話させるのも気が引ける。出来れば大人と話したいが、それも叶わないのだろう。

「トワさん?」
「クラウス様……」

 言葉に詰まっていると、クラウスが駆け寄ってきた。
 まさか子供がいるとは思わなかったのか、彼も驚いた顔を浮かべている。

「その子は?」
「この街の子、みたいなんですけど……」
「そうか……」

 クラウスは少し考えた後、少女と目線を合わせるように跪いた。

「……君は、ディゼルという女性を知っているね?」
「知ってる。みこさま、ここにいたから」
「みこさま?」

 聞き馴染みのない言葉にトワは首を傾げる。
 少女はそんなこと気にせず、そのまま話を続けた。

「みこさま、砂漠でお花を咲かせるすごい人だったの。それで、みんなが奇跡の人だって……神様に愛されてる人だって」
「それで神子か。その人は?」
「神様を殺して、どこかに消えたよ。きっと、神様を騙してた罰を与えに来たの。だからみんな、死んじゃった」
「……じゃあ、君はなんで?」
「みこさまがね、いつかここに来る人に伝えてって。ここで何が起きて、私が何を思ったのか」
「……お姉様があなたに?」

 少女は小さく頷き、空を仰いだ。

「……私は、これで良かったと思う」
「ど、どうして……? 街が燃えてしまったのに……」
「だってみんな悪いことしてたんだよ。神様を騙してたんだよ。これは仕方ないことなんだよ。私、燃えてる街を見ても悲しくなかった。私、みんな好きじゃなかったんだと思う」

 淡々とそう語る少女に、トワとクラウスは顔を見合せた。
 この子は何を見てきたのだろう。これまで、何があったのだろう。

「……あのね。私、みこさまが本当に好きだったの。とても優しくて母様みたいで……今でも、大好き。私をいじめる人、みんな消してくれた」
「……そう、なの。でも、一人ぼっちで寂しくない?」
「みこさまがいないことが、一番寂しい」
「あなたは、お姉様のことが本当に好きなのね……」
「お姉さん、みこさまの妹なの?」
「……う、うん」
「いいなぁ。あんなに綺麗で優しいお姉さん、私もほしかったな……」

 少女はここに来て初めて表情を変えた。
 ディゼルと過ごした時を思い出しているのか、とても可愛らしい笑みを浮かべている。
 その表情に、トワは息が詰まりそうになった。
 実妹なのに少しも分からない、姉としてのディゼル。それを少女は知っている。
 もしかしたら、ちゃんと仲の良い家族として過ごしていたら、そんな姉の姿を見ていたかもしれないのに。

「……ところで、君はディゼル嬢に何かされたのか?」
「何か?」

 トワが少女から目を背けると、クラウスが先程から気になっていたことを口にした。

「そうだ。君は何故、一人だけ生き残った?」
「……みこさまが、何か飲ませたの。それで、かも」
「……そうか」

 クラウスはすぐに察した。悪魔の瘴気が濃い中で生き残っている理由はただ一つ。
 だが少女から感じる力は微弱だ。そこまで警戒するものではないはず。これならばと、クラウスはトワの肩に手を置いた。

「トワさん、彼女のために祈ってくれませんか。そうすれば彼女の中の悪魔の血も浄化されるはずです」
「え? この子に、悪魔が……?」
「まぁ、そのおかげで彼女は助かったわけですが……このままだとこの子の体に何が起きるか分かりませんから」

 トワは頷き、少女に向かって祈りを捧げた。
 その間、これからこの子をどうするかをクラウスは考える。
 ここに置いては行けない。どこかに預ける必要がある。
 孤児を預けるなら一番安心なのは教会だ。しかし教会のある教会はここから遠い。
 早くディゼルを追いたいが、こればかりは仕方ない。クラウスは小さく溜息を吐き、少女にこれからの話をすることにした。



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