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第三章
第34話 悔いが残らないように。
しおりを挟む「……雨ですね」
「そうだな」
次の国へと行く道中。ディゼルは森の中にある洞窟で雨宿りをしていた。
なるべくディゼルのことを知ってる者がいない場所。不幸な娘の噂があまり広まっていない場所へ行かなきゃいけない。
だから今回はいつもよりも多く歩いている。トワたちに追いつかれないようにと。
「さすがに疲れましたね。今日は久しぶりの野宿です」
「ここは薄暗くて良い感じに空気が淀んでる。俺は嫌いじゃないな」
「そうなのですか?」
「ああ。この森は死者が多いらしい。あちこちに魂がうろついている」
「まぁ……」
ディゼルが目的の場所へ行くために横切ろうと思った森は、人が踏み込んだら戻ってはこれないと呼ばれる場所。そのため自殺目的でここを訪れるものも多いらしい。
だがそんなこと、ディゼルには関係ない。悪魔がいる限り、ここで迷うこともない。死者の魂が寄ってくることもない。
「……魂、ですか」
「どうした?」
「いえ。人の魂……霊魂というのは本当に存在するんですね」
「ああ、勿論だ」
「私、あなたに出逢うまで……いえ、前世の記憶を知るまではそういったものを信じていませんでした。死んだらそこで終わるものだと……」
「人間は目に見えないものを信じようとはしないからな。悪魔のような目もない、死者の声も聴けない。信じる者の方が珍しい」
洞窟の奥でくつろぐ悪魔の隣に、ディゼルも座る。
こつんと悪魔の肩に頭を寄せ、一つ息を吐く。雨のせいで気温が下がり、吐く息が微かに白い。薄暗く音が響くせいか、ここは実家の地下室を思い出させる。
「……私は、死んだらどうなるのでしょうね」
「さぁな。俺は人間のように天国や地獄までは信じてない。お前が異世界から転生したように、また巡ってどこかで生まれるのではないか?」
「輪廻転生、ですか。実際に前世を知っていても、何だか信じられないことですね」
「俺もだ。お前のような奴は初めて出逢う」
「……ふふ。でも、私は悪魔様に食べられてしまうので、もう二度と転生することはないのでしょうね」
「ああ、そうだな。お前のような魂、そう簡単に出会えるものではないから少し残念だ」
悪魔がディゼルの肩を抱き寄せ、いつものように喉を鳴らしながら笑う。
自分との別れを惜しんでくれることに、ディゼルは嬉しくなった。これが最後の人生となっても悔いはない。心から愛するものに出逢え、復讐も果たせた。
トワをもっと追い詰めることが出来れば最高ではあるが、このまま悪魔に食われてしまったも良い。そう思いながら、ディゼルは顔を上げて悪魔の頬に手を伸ばした。
「もし、もう一度魂が巡るのであれば……またあなたに会いたいです」
「それはいい。何度でもお前の魂を食らえるなんて最高だ」
悪魔はディゼルに口付けた。
地下室に似た場所のせいか、まるで初めて悪魔に体を許したときのような気持ちになる。
いつ悪魔に食べられてもいいように、ディゼルは毎日今日が最後という気持ちで過ごしている。
もし明日が来なくても、悔いがないように。
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