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第31話「睡眠」
しおりを挟む「あ、そろそろご飯準備しないと」
アンジュはベッドから降りて身支度を済ませ、朝食を作る。
初めてフリードがおにぎりを食べた日から、朝食を共にするようになった。最初はおにぎり一つだったが、最近ではお味噌汁やおかずなんかも食べてくれるようになり、アンジュは少し嬉しかった。
「フローガさん、普段は何をされているんですか?」
「普段?」
「授業中とか」
「……まぁ、調査、だな」
「調査……この学園の、ですか」
「ああ。おかしな気配がないか調べたり、不審者がいないか警戒したりだな」
「でも授業でない方が悪目立ちしませんか?」
「いいんだよ。どうせ俺がこの学園にいるのは向こうも気付いてる。気付いている上で何もしてこないんだ。調子乗ってんだよ。俺らでは何も出来ないと思っていやがる」
アンジュがおにぎりの乗った皿をテーブルに置くと、フローガは一つ取ってかぶり付いた。
いつも落ち着きのある彼が、少し子供のように拗ねたような表情を浮かべていることにアンジュは笑いそうになったのを抑えた。
「その、フローガさんが追っているという相手……なんていうか、詳しいですね」
「……まぁな」
フローガの表情から、それ以上は聞けなかった。
一瞬、赤い眼が血だまりのように見えて、思わず悲鳴を上げてしまいそうになった。彼の心に踏み込んではいけない。協力関係になったとはいえ、友達になったわけじゃない。距離感を誤ってはいけない。
アンジュは心の中で反省し、ニコっと笑顔を張り付けた。
「卵焼き、食べますか?」
「お前の作るやつ、甘いんだよ」
「今日はお出汁で作ったんで甘くないですよ」
「……なら食ってもいい」
フローガは卵焼きを手で取って食べた。
顔に出したつもりはなかったが、アンジュの様子で察した。確かに聞かれたくないことではあるが、それを相手に気取られるほど感情が漏れ出してしまうとは自分でも思わなかった。
だが、それほどフローガの中で怒りの感情が消えていない証でもある。しかしそれが顔に出てしまうようでは、まだ未熟だと、フローガは反省した。
「……今日の夜は、練習しますか?」
「ん、ああ……そうか、昨日は出来なかったからな。でも、お前もそれなりに出来るようになったし、毎日やることもないだろ?」
「あ、迷惑でした?」
「いや……そういう意味じゃ……いくら何でも毎日授業を終えた後に魔法の練習してたら疲れるだろって話だ。寝る時間だって削られるし、お前は無駄に早起きだし……」
「なんか目が覚めちゃうんですよ……そういうフローガさんはいつ寝てるんですか? 」
「俺?」
話の矛先が自分に向き、少し悩みながらフローガはおにぎりを一口食べる。
「…………一、二時間程度は休んでる」
「え、それだけで大丈夫なんですか!?」
「いや、本来はもっと必要だが魔法でその辺りはカバーしてる。狼族の睡眠時間は元々長いんだが、今は寝てる時間が惜しいからな」
「それは……あれですか、狼、だから?」
「まぁ、そうだな。もう昔の……狼の血は大分薄くはなっているんだが、たまに狼の血が色濃く出る奴がいる。俺なんかもそうだ」
「でも、フローガさんの見た目は普通の人っぽいですよ」
「ぽいってなんだ……それは人の姿に変化してるからな」
「狼にもなれるんですか?」
アンジュの目が子供の用に輝いている。何が言いたいのか、言葉にしなくても目を見ればすぐに分かる。
だがこんなところで狼の姿になんかなれるわけもない。そもそも見せたくもない。フローガは残ったおにぎりを口に詰め込み、立ち上がった。
「俺の話はもういい。お前もさっさと準備して学校行け」
「は、はぁい」
露骨にガッカリした表情を浮かべるアンジュに、フローガは大きく息を吐く。
獣の姿なんか見て何が楽しいのか。フローガはアンジュに対して、案外好奇心が強い奴なんだなと思いながらベッドに腰を下ろした。
「それじゃあ、行ってきます」
「……ああ」
準備を済ませて学校へと行くアンジュを見送り、フローガも窓から部屋を出た。
周囲の気配は、特に何も変わらない。寮の屋上から様子を探ってみるが、これといった動きはない。
フローガは、遠さがっていくアンジュの気配を辿る。一緒にいるのは、いつも一緒に登校しているイディック。ごく普通の学生として、一緒にいられる相手。
フローガは胸に感じたことのないざわつきを感じたが、首を振って気持ちを切り替える。
これは、いらない。
余計な感情は全て、捨ててしまえばいい。
フローガは静かに目を閉じた。
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