付与術師の異世界ライフ

畑の神様

文字の大きさ
58 / 91
闘技大会編

決断、そして第二試合

しおりを挟む

「リン……たっく、無茶しやがって……」


 彰はベットに横たわるリンを見ながら、そうつぶやく。
 あの後、彰によって素早く治療室へと運ばれたリンは、常駐していた治癒術師に治療を受けたものの、リンの精神ダメージはかなり酷く、まだ目を覚まさないでいた。


「……でもアキラ、リンはアキラのために……」


―――こんな状態になるまで頑張ったんだよ、とそう続けようとしたノエルの口を彰が遮る。


「大丈夫だノエル、そんなことはあいつの戦いを見てれば痛い程に伝わってきたさ。
 でも……だからこそ、俺は自分が許せない。
 俺がもっとリンを強くしてやれてれば、俺がもっと早くあいつを……イーヴィディルを倒してれば、こんなことにはならなかったはずなんだ……」


 彰は自分を戒めるようにギリギリと歯噛みをし、握り拳を限界を超えて握りこむ。


「……アキラ……」

(そんなの……アキラのせいじゃないのに……)


 しかし、ノエルには自身に憤る彰の姿を前にして、その言葉を告げることができなかった。
 なぜなら、この場において、その言葉を彰に言ってあげることができるのは、今床に伏しているリン、ただ一人だからだ。
 ノエルがそれを言ったとしても、そこには本人の気持ちが伴わないのだ、たとえ本人がどう答えるか、すでにわかっていたとしても……。
 彰は眠るリンの傍らで、語りかけるように続ける。


「こんなことでお前の気持ちが晴れるとは思わないけどさ、せめてもの償いとして、お前の仇は俺がとってやるよ。
 だから―――リンはそこでゆっくり休んでてくれ」


 意識の無いリンに、それでも、伝わると信じて、自身の想いを語った彰は、ノエルの方に振り替えった。
 
 「ノエル、リンも一人じゃ寂しいだろうからさ、ここで付き添ってやってくれると助かる」
「……わかった、任せて、だからアキラは試合、頑張ってきて……」
「ああ、それこそ任せろ、俺にはもう―――負けられない理由ができた」


 彰はノエルにそう言うと、立ち上がってフィールドへと向かって行った。

―――――その心に、静かに、しかし激しく燃える“決意”という名の炎を宿して……


◆◆◆◆


「さてさて、一日を通して続けられてきたこの闘技大会の決勝トーナメントも準決勝一試合と決勝、そして現王者へのチャレンジ戦を残すのみとなりました!!
 そして、この戦いの結果如何で、決勝戦への出場者が決定します!!」


 先程の試合を見ていて、気持ちが少々盛り下がってしまった観衆達の気持ちを再び盛り上げるかのように声を張り上げる司会。
 その成果もあってか、観衆達は再び盛り上がりを取り戻し始めていた。


「さあ、この戦いを制して、決勝へと駒を進めるのは果たしてどちらの選手なのでしょうか!!
  それでは早速、登場してもらいましょう!!
  まずは、獣人としての類い稀なる身体能力を二回戦にて発揮して見せたベテラン戦士―――レオンだ!!」


 その掛け声をきっかけに、レオンは片側の出口から悠然と歩いてくる。
 彼のその歩く姿からは誰もが歴戦の戦士の風格というものを感じさせられた。
 司会はレオンの入場を確認すると、続いて彰の入場の掛け声をかけようとし―――しかし、漂うその気配に息をのんだ。

 
「…………」


 司会には特に戦闘経験などは無い、しかし、そんな人物にすら明確にわかるほどの圧倒的な気配がそこにはあった。
 その気配の前に司会は一言も発することができない。
 そんな司会の回復を待たず、彰はもう一方の入り口からゆっくりと入場する。
 彼の放つ見る者を黙らせるほどの気配、その根源にあるものは彼の強い“決意”。
 その強い“決意”を前に、司会だけでなく、観衆もその言葉を失った。
 そこに居たのは一つ前の試合までの真剣ながらも、どこか余裕を見せていた彼ではない。
 自分のために必死に戦い、敗れて行ったリンに、せめてもの償いとして、自身の“優勝”を捧げると、決意した男の姿がそこにはあった。
 その気配を前に、会場内の人々が皆一様に黙する中、彰の眼前に立つレオンだけが沈黙を破り、口を開く。

 
「君がノエルの師匠、アキラか……。
 なるほど、確かに素晴らしい実力の持ち主らしい、君が師匠なのならば、ノエルのあの強さも納得がいくというものだ。
 この戦い―――――存分に楽しませてもらおう」


 レオンは不敵な笑みを浮かべて言う。
 その表情は、これから起きる戦いを本気で楽しみにしていた。
 “彼女をあれほどまでに育てた師匠……その実力はいかほどのものなのか……”と。
 しかし、そんなレオンを前にし、彰は申し訳なさそうに頭の後ろをかきながら言った。


「あ~、いつもだったら俺も楽しんで試合をしたいところなんだが……悪いな。
 今日は楽しむよりもちょっと優先しなきゃならないことが出来ちまったんだ。
 だから申し訳ないけど―――手加減はできないぜ」
「ふっ―――望むところ……」


 彰のあくまで上から目線な発言を聞き、レオンは一層笑みを強くする。
 向かい合う二人、その二人の創り出す張り詰めた雰囲気の中で、誰も言葉を発することは叶わなかった。
 だが、その法則に当人達は当てはまらない。


「―――司会、試合開始はまだか?」
「え……あ、はい!! ただいま!!」


 レオンのその言葉で、司会はようやく本来の自分の使命を思い出す。

 
「えーと、それでは闘技大会決勝トーナメント、準決勝第二試合、レオン選手対アキラ選手―――」


 そして、遂に、熟練の獣人対異世界人の戦いの幕が……


「―――――試合開始です!!」


―――――今、ここに切って落とされた。

しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜

みおな
ファンタジー
 私の名前は、瀬尾あかり。 37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。  そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。  今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。  それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。  そして、目覚めた時ー

悪役令嬢が処刑されたあとの世界で

重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。 魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。 案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜

伽羅
ファンタジー
【幼少期】 双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。 ここはもしかして異世界か?  だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。 ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。 【学院期】 学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。 周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。  

処理中です...