付与術師の異世界ライフ

畑の神様

文字の大きさ
63 / 91
闘技大会編

チャンピオン

しおりを挟む

「き、決まりましたぁ~~!! 長い長いトーナメントを征し、チャンピオンへの挑戦権を手に入れたのはなんと!!
 魔力を100しか持たない付与魔術師エンチャンターのアキラ選手です!!
 この展開をいったい誰が想像できたでしょうか!?
 とにかく素晴らしい戦いでした!!」


 そんな司会の声と共に、彰の試合を初戦から見ていた者達は観客席から惜しみない拍手と、声援を送る。
 
 だが、そうして会場中に彰の優勝を祝う歓声が鳴り響く中、一人の男が彼専用に設けられた特別席からその様子をじっと観察していた。
 彼は優に2、3メートルはあろうかという巨大な剣を携え、まるで王座を模したかのような豪華な装飾の付いた椅子に座っている。
 彼はしばらくそうして彰の様子をじっと眺めていたが、その顔が突然、不敵に微笑んだ。


「――――面白い、面白いじゃないか。
 今までの優勝者は幾ら強いとは言っても小物ばかりだったが彼は違う。
 確かに、獣人の彼……確かレオンと言ったか?
 あの男もなかなか面白い者だったが、それでもやはり彼には及ばない。
 最後の男は大方≪鮮血石ブラッドストーン≫でも使っていたのだろうな。
 おかげで興醒めの試合を見させられたが、それに対する彼の戦い方が見れただけでも有意義なものだった……」


 そこまで呟くと男は立ち上がり、より彰が見える位置へと移動する。


「君となら楽しい戦いが出来そうだ……。
 待ってるよアキラ、そしてどうかこの私――――イーヴァルディを楽しませてくれ」


 その男――――不動のチャンピオンと言われるイーヴァルディはそう言ってもう一度彰を強く見つめると、特別席を去って行った。


◆◆◆◆


 決勝戦が終わると、彰は退場し、真っ直ぐにリンが寝ているであろう治癒室へと向かっていた。
 闘技大会に優勝し、チャンピオンへの挑戦権を見事に獲得した彰だったが、結局、万全の状態のチャンピオンと連戦で疲労している彰では不公平な試合になってしまうということになり、チャンピオン戦は明日改めて行うということになったのだ。


(俺が優勝したこと、あいつらは喜んでくれるかな……いや、そもそもリンは……)


 そんなことを考えながらも足を進め、治癒室の前に着いた彰はその戸を開け、中に入ると、リンとノエルがいるであろうベッドの方へと向かう。
 だが、彰が試合に行く前にリンが寝ていたはずのベッドにはリンはおろか、付き添いをしてくれていたはずのノエルもおらず、もぬけの殻となっていた。


「え……? そんな、なんで……それじゃあ二人はいったいどこに? まさかイーヴィディルの奴が裏で手をまわしていたとかいうんじゃ……まずいッ! リン!! ノエル!!」


 いつにもなく慌てて二人を探しに行こうとする彰、しかしそんな彰を“ガチャッ”というドアの開く音が止める。

 
「あっアキラ!! やっぱりここに居た!! ねぇねぇノエルちゃん! やっぱり彰ここに居たよ!!」
「……アキラは優しいから、最初にリンの様子を見に、ここにくるとおもってた、よ……」


 そう言って彰に笑いかけながら入ってくる二人、どうやらリンはまだ流石に全快というわけではないらしく元気そうな声とは裏腹にその足取りには少し危なっかしいものがあり、ノエルに肩を貸してもらって、やっと立っている状態のようだ。
 彰は二人の姿が見えた瞬間、無意識の内に走り出し、二人に駆け寄ると、その両腕で二人を抱きかかえていた。


「ふぇ……えぇ!? アキラ、突然どうしたのっ!?」
「うにゃッ!? ア、アキラ、とにかく落ち着いて、その、あの○×△☆♯♭●□▲★※ふぁぁぁわわわ―――」
「良かった……二人が無事で本当に良かった……俺、お前らがイーヴィディルの手の者に攫われちまったんじゃないかと……」


 彰はそう言いながら、滅多に見せない筈の涙を流す。
 少しの間三人はそのままそうしていたが、やがて彰が落ち着いてくると、そっと、彰は二人から離れた。


「いや……ゴメン、柄にもなく取り乱しちゃったな……反省してる。
 でもお前らも悪いんだぞ? 勝手に居なくなりやがって……」
「何言ってるのさアキラ、心配し過ぎだよ? まぁちょっと嬉しいけど……」


 リンは顔を赤らめながらぼそぼそと告げる。


「……ごめん、アキラ……でも、アキラがリンのために怒って、戦ってるとこ、リンにも見せてあげたかったから……」


 すまなそうに猫耳をしゅんとさせながらそう答えるノエル。


「え、ってことは二人とも俺の試合見てくれてたのか……そっか、ありがとう。
 でも俺、ちゃんと二人が満足できるような試合できてたか?」


 そう不安そうに告げる彰。
 そんな初めて見る彰の不安そうな顔に対し、二人はにこやかにほほ笑んで答えた。


「あはは! もう満足なんてもんじゃないよ! むしろ理想の右斜め上をいかれちゃったくらいだもん」
「……アキラ、あんな新技、いつの間に習得してた、の? とても驚いた……」
「おまえら……」


 彰はそんな答えが返ってくるとは予想していなかったとでも言うかのように目を見開く。
 そんな彰にノエルが今度は少し猫耳ぴくぴくさせながら、頬を赤らめ、小声で言葉を続ける。


「……それに、リンのために戦うアキラ、かなりかっこよかった、よ……?」
「うっ……そ、そうか! ありがとな」


 控えめにそう告げたノエルがふだんより一層可愛く見え、一瞬動揺する彰。
 そこに突然リンの冷静な声がかけられた。


「ねぇ、アキラ……」
「ん? 急に改まってどうした?」

 
 彰はきょとんとした顔でリンに問いかける。
 そんな彰に、リンは真剣な面持ちで語り出した。
 
「アキラさ、決勝戦の前、ここで『俺がもっとリンを強くしてやれてれば、俺がもっと早くあいつを……イーヴィディルを倒してれば、こんなことにはならなかったはずなんだ……』って言ってたよね?」
「お前……あの時にもう意識があったのか?」
「ううん、でも聞こえてたんだ、なんとなく。
 意識の無い暗闇の中で、アキラのそんな謝罪みたいな声が……ね」
「そうだったのか……うん、そうだな、これはやっぱり最初にリンに言わなきゃいけなかったな……。
 リン、本当に――――――」
「――――そのことだけどさ、そのことに関して、アキラが引け目を感じる必要なんてないんだよ?」


 すまなそうに頭を下げて謝ろうとした彰をリンが遮る。


「でも……お前をあいつに勝てるくらい強くすることが俺にはできたはずなんだ。
 いや、そもそも、俺がこの闘技大会に参加したいなんて言いださなけりゃ、リンがあんな目に合うことも――――」
「――――アキラッ!! それ以上はいくらボクでも怒るよ?
 闘技大会に出た以上、そのくらいの可能性は覚悟の上なんだよ。
 確かにきっかけはアキラの誘いだったかもしれない。
 でも、最終的に参加することを決めたのはボク自身なんだ。
 だからその結果起こったあれはボクの責任であって、アキラのせいじゃないんだよ」
「リン……」


 アキラの発言に珍しく声を荒らげたリン。
 その発言には彰も感じるものがあった。
 しかし、そこで、リンは苦笑する。


「そもそもさ、恥ずかしい話だけど、この間までの、アキラとの修行を始めるまではさ、魔法があれば問題ない……なんて考えてたんだよね……。
 でも今日なんてアキラから近接戦闘の技術を習ってなかったらあそこまでは勝ち残れなかったよ。
 だからね? 感謝はこれでもかってくらいしてるけど、恨んだり、怒ったりなんて出来るわけないんだっ!
 だからこれからもよろしくね、アキラ師匠!!」


 そう彰に告げたリンの顔には、苦笑ではなく、満面の笑みが浮かんでいた。


「ああ、わかったよリン、ありがとな」
「……アキラには明日もある。そろそろ、帰って休んだ方がいい、と思う……」
「そうだな、今日は連戦で疲れたしな。
 そろそろ宿に帰って休もうか?」
「うん、そうだね、行こう……ってあれ?」


 元気よく歩き出そうとした三人だったが、リンはノエルから離れ、一人で歩こうとした途端にフラフラと倒れてしまった。
 やはり、まだ体調は万全ではなかったらしい。


「あれれ、どうしてだろうな? あ、あはは、なんか力が入らないや」


 誤魔化すように笑うリン、それを見て、彰はリンの前に背を向けてしゃがみこんだ。


「ほら、乗れよリン」
「ふぇ……?」
「おぶって行ってやるって言ってるんだよ、ほら、早く」
「えぇぇ!! で、でも……」
「いいから早く乗れって、疲れてんだろ? リンは今日俺のために頑張ってくれたんだからさ、これくらいはしないとな!」
「……じゃあありがたく、お願いしちゃおうかな……?」


 リンは照れ臭そうにそう言うと、ゆっくりと彰の背に乗っかった。
 その瞬間、彰の背中にかかるムニュッという感触。
 やはりリンの豊満な双丘は健在であった。


(うっ……これは……ちょっと想像以上だぞ……?)


「どうしたのアキラ? もしかして重かった……?」
「え? いや、全然大丈夫だよッ!! さ、早くいこうぜッ!!」


 そう言ってリンを背負ったまま意気揚々と歩き出す彰。


「……アキラのバカ……」


 その後ろで、ノエルがむすっとした顔でそう呟いていたのを、彰は聞くことができなかった。
……因みにこの後、宿屋でノエルの機嫌がすこぶる悪かったことは、最早言うまでもない。
 

しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜

みおな
ファンタジー
 私の名前は、瀬尾あかり。 37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。  そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。  今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。  それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。  そして、目覚めた時ー

悪役令嬢が処刑されたあとの世界で

重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。 魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。 案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~

ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国の辺境で、ただ静かに生き延びたいと願う少年、ヴァン。 彼に正義感はない。あるのは、前世の記憶と、母が遺した『物理法則を応用した高圧魔力』という危険な理論だけだ。 敵の大軍が迫る中、ヴァンは剣も振るわず、補給線と心理を切り裂く。 結果、敵軍は撤退。代償も、喝采も、彼には無意味だった。 だが、その「効率的すぎる勝利」は帝国の目に留まり、彼は最高峰の『帝国軍事学院』へと引きずり出される。 「英雄になりたいわけじゃない。生き残りたいだけだ」 謎の仮面メイド『シンカク』、命を取引に差し出した狼耳の少女『アイリ』。 少年は選択する。正義ではなく、最も費用対効果の高い道を。 これは、合理が英雄譚を侵食していく、学園ミリタリーファンタジー。 【※作者は日本語を勉強中の外国人です。翻訳ソフトと辞書を駆使して執筆しています。至らない点もあるかと思いますが、物語を楽しんでいただければ幸いです。】

処理中です...