6 / 51
前編
ゆめだとおもった?
しおりを挟む
話は喧騒の中に戻る。
血を流して横たわる【彼】は確かに死んだんだ。
「これ以上は庇いきれません!」
真っ先に金切り声を上げたのは、そこまでの騒動をただ黙って見ていたメイド長。
彼女は特に【彼】に対して何もしなかった。
そう、何もしなかったんだ。
【彼】に嬉々として危害を加える【彼女】や【彼女】の新派達を見ていても、なぁんにも。
それが罪だとも知らずに、何もしなかったんだ。
「何よ!今まで何もしなかったじゃない!」
それなのにメイド長は、直接手を下した【彼女】をキーキー言いながら責め立てた。
滑稽だね。
だからこそ、【彼女】もそれはおかしいと騒ぎ立てた。
お前も同罪だと。
でもメイド長と同じように何もしなかった者達は、ここぞとばかりに【彼女】達を責め立てた。
するもしないも、皆仲良く同罪なのにね。
誰も【彼】の遺体に駆け寄ろうともせず、自分保身ばかりを言い合った。
「何の騒ぎだ!」
そんな中、タイミング悪く【主人】が帰って来てしまったんだ。
ご自慢の美しい尻尾を不機嫌そうにゆっくりと振って、腹の底から響かせるような吼え声を屋敷中に響かせた。
がおー。
そうして【主人】を迎えもせずに今まで言い合っていた者達は、まるで時が止まったかのようにピタリと言い合いを止めて怒れる【主人】を見た。
でもだぁれも【主人】の問いには答えない。
顔を見合わせるだけで、一様に口を噤んだんだ。
そのことに【主人】は苛立ち再び吼えようとした瞬間、ふと、鼻腔を擽る香りに気付いた。
食欲をそそる、甘美な香り。
でもそれはけして【主人】に届く筈のない香りだった。
届いてはいけない香りだったんだ。
そのことに気付いた瞬間、【主人】は導かれるように香りが濃く漂う場所を見た。
嗚呼、何故、気付かなかったのだ。
【主人】は停止しそうになる思考の中でそう思った。
そう。
【主人】は帰宅した瞬間に気付けた筈だったんだ。
使用人達が集まる階段の下、つまり玄関入ってわりと直ぐの所で血塗れで横たわる【彼】の屍に。
「どういう、ことだ?」
ぐったりとしたまま動かない【彼】が既に息絶えていることを、【主人】は認めたくなかったんだね。
【■しい■】が死んでいるなんて、そんなことを認めたくはなかったんだよ。
だから聞いた。
使用人達に、【彼女】に、そして息絶えた【彼】に。
けれども誰も答えない。
答えることが出来る筈がないよね。
誰も彼もが、自分の罪と向き合うことが出来なかったんだから。
「おい、起きろ。」
【主人】はそっと【彼】の横に跪きながら、【■しい■】の背中に触れた。
そうは言えど、もう既に息絶えてしまっている【彼】の身体は屍に相応しい固さと冷たさだ。
死人に口なし。
もう【彼】は【主人】にうんともすんとも言うことが出来なくなってしまっている。
【主人】が帰還する、ずぅーっと前から。
「おい、なぁ、おい………」
先程までの勢いとは違い、まるで母犬を求める子犬のように頼りなく情けない声だ。
立派な三角のぴんと立った耳も、今ではぺったりと伏せてしまっている。
じわじわと、【主人】の視界が滲んだ。
こんなことに、どうして?
子供のようなその考えだけが、ぐるぐると頭の中を回る。
新婚だというのに問答無用で告げられた急な出陣要請に、それでも【■しい■】に一秒でも早く会いたいと、おかえりと言って欲しいと、それだけを支えに今の今まで耐えてきたのにね。
手紙のやり取りもしていたが、それだけでは足りないと。
嗚呼、でも、思ってたよね。本当は。
その手紙、本当に【■しい■】からなのだろうかって。
血を流して横たわる【彼】は確かに死んだんだ。
「これ以上は庇いきれません!」
真っ先に金切り声を上げたのは、そこまでの騒動をただ黙って見ていたメイド長。
彼女は特に【彼】に対して何もしなかった。
そう、何もしなかったんだ。
【彼】に嬉々として危害を加える【彼女】や【彼女】の新派達を見ていても、なぁんにも。
それが罪だとも知らずに、何もしなかったんだ。
「何よ!今まで何もしなかったじゃない!」
それなのにメイド長は、直接手を下した【彼女】をキーキー言いながら責め立てた。
滑稽だね。
だからこそ、【彼女】もそれはおかしいと騒ぎ立てた。
お前も同罪だと。
でもメイド長と同じように何もしなかった者達は、ここぞとばかりに【彼女】達を責め立てた。
するもしないも、皆仲良く同罪なのにね。
誰も【彼】の遺体に駆け寄ろうともせず、自分保身ばかりを言い合った。
「何の騒ぎだ!」
そんな中、タイミング悪く【主人】が帰って来てしまったんだ。
ご自慢の美しい尻尾を不機嫌そうにゆっくりと振って、腹の底から響かせるような吼え声を屋敷中に響かせた。
がおー。
そうして【主人】を迎えもせずに今まで言い合っていた者達は、まるで時が止まったかのようにピタリと言い合いを止めて怒れる【主人】を見た。
でもだぁれも【主人】の問いには答えない。
顔を見合わせるだけで、一様に口を噤んだんだ。
そのことに【主人】は苛立ち再び吼えようとした瞬間、ふと、鼻腔を擽る香りに気付いた。
食欲をそそる、甘美な香り。
でもそれはけして【主人】に届く筈のない香りだった。
届いてはいけない香りだったんだ。
そのことに気付いた瞬間、【主人】は導かれるように香りが濃く漂う場所を見た。
嗚呼、何故、気付かなかったのだ。
【主人】は停止しそうになる思考の中でそう思った。
そう。
【主人】は帰宅した瞬間に気付けた筈だったんだ。
使用人達が集まる階段の下、つまり玄関入ってわりと直ぐの所で血塗れで横たわる【彼】の屍に。
「どういう、ことだ?」
ぐったりとしたまま動かない【彼】が既に息絶えていることを、【主人】は認めたくなかったんだね。
【■しい■】が死んでいるなんて、そんなことを認めたくはなかったんだよ。
だから聞いた。
使用人達に、【彼女】に、そして息絶えた【彼】に。
けれども誰も答えない。
答えることが出来る筈がないよね。
誰も彼もが、自分の罪と向き合うことが出来なかったんだから。
「おい、起きろ。」
【主人】はそっと【彼】の横に跪きながら、【■しい■】の背中に触れた。
そうは言えど、もう既に息絶えてしまっている【彼】の身体は屍に相応しい固さと冷たさだ。
死人に口なし。
もう【彼】は【主人】にうんともすんとも言うことが出来なくなってしまっている。
【主人】が帰還する、ずぅーっと前から。
「おい、なぁ、おい………」
先程までの勢いとは違い、まるで母犬を求める子犬のように頼りなく情けない声だ。
立派な三角のぴんと立った耳も、今ではぺったりと伏せてしまっている。
じわじわと、【主人】の視界が滲んだ。
こんなことに、どうして?
子供のようなその考えだけが、ぐるぐると頭の中を回る。
新婚だというのに問答無用で告げられた急な出陣要請に、それでも【■しい■】に一秒でも早く会いたいと、おかえりと言って欲しいと、それだけを支えに今の今まで耐えてきたのにね。
手紙のやり取りもしていたが、それだけでは足りないと。
嗚呼、でも、思ってたよね。本当は。
その手紙、本当に【■しい■】からなのだろうかって。
159
あなたにおすすめの小説
僕の幸せは
春夏
BL
【完結しました】
【エールいただきました。ありがとうございます】
【たくさんの“いいね”ありがとうございます】
【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】
恋人に捨てられた悠の心情。
話は別れから始まります。全編が悠の視点です。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました
2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。
様々な形での応援ありがとうございます!
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる