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中編
むちはつみってやつだね
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―――思えばそれは、一目惚れだった。
特に美しいとか、可愛いとかいう容姿な訳じゃない。
けれども醜い訳でもないその容姿は、しかし美しさを前面に出してくる他の貴族達の中では埋没して見えた。
つまり、印象の薄いどこにでも居るような顔。
ともすれば平民の中に混ざっていても気が付かないだろう。
それでも常に視界に入れないと落ち着かないくらいには、気になっていた。
『はい、アルシェントけのじなん、ルイ・アルシェントでございます。』
まだ幼さが残る滑舌と発音。
彼が特にそうなのかと言われれば、実の所そうでもない。
ご学友候補の中には彼のようにまだ幼さを残した子供や、愛らしさを武器にする為に敢えて残している子供も居た。
けれども彼の言い方は殊更愛らしいと思ったし、また、その声がどの子供達の中でも一等に心地好く感じたのだ。
もっと話したい。
もっと声を聞きたい。
もっと傍に居たい。
その視線の先に、常に居たい。
そう思うのは必然なことのように思えた。
顔を上げた彼が、ふんわりと微笑む。
緊張しているのか、どこか固い笑顔だった。
その事実が、悔しくてたまらない。
嗚呼、どうか、どうか自然な笑顔を見せて欲しい。
言葉を返しながらも、頭の中はそればかりだった。
このままずっと、彼と二人だけの時間を過ごせたら。
しかし残念ながら、時間は有限だ。
彼の後ろにもご学友候補の子供達は並んでいる。
決められた時間きっかりに、それでも緩やかに会話を終わらせて、彼はその場から去って行った。
仕方ない。
でも彼がご学友候補である限り、いつだって話し掛ける機会はある。
いつだって、会えるんだ。
『気になる子は居たかい?』
全ての子供達との会話が終わったすぐ後、父がそう聞いてきた。
そこに含まれた意味に気付くことなく、【僕】は素直に口にした。
気になる子の名前を………彼の、名前を。
それが後に彼に多大なる不幸を与えることになるんだと気付かずに。
だって、知らなかったんだ。
父と伯父が同じ質問をしていたなんて。
しかもよりによって自分と従兄弟が同じ人物の名前を言ったなんて、知らなかったんだ。
笑顔にしたい、笑顔になって欲しい。
幸せにしたい、幸せになって欲しい。
そう思っていた自分こそが、彼を不幸にする存在だなんて思ってなかったんだ。
いや、本当は知っていたのかもしれない。
気付いていて、気付いていないフリをしていたのかもしれない。
今となってはもう分からない。
不幸への道へ徐々に徐々に導いているクセに、必死になって彼の隣に立った。
三人で居れば大丈夫なんて、本気でそう思っていた。
ずっとずっと三人で居れるって、本気でそう思っていた。
自分の立場も権力も理解せず。
ただ、愚かにも彼に恋をしていた。
『ルイ。』
『あ、ドミニク様!』
君の名前を呼べば、君が嬉しそうに振り返ってくれる。
俺の名前を呼んで、駆け寄ってくれる。
その幸せはずっとずっと続くんだと、信じていた。
例えばこの先、君が誰か違う人と結婚したとしても―――
特に美しいとか、可愛いとかいう容姿な訳じゃない。
けれども醜い訳でもないその容姿は、しかし美しさを前面に出してくる他の貴族達の中では埋没して見えた。
つまり、印象の薄いどこにでも居るような顔。
ともすれば平民の中に混ざっていても気が付かないだろう。
それでも常に視界に入れないと落ち着かないくらいには、気になっていた。
『はい、アルシェントけのじなん、ルイ・アルシェントでございます。』
まだ幼さが残る滑舌と発音。
彼が特にそうなのかと言われれば、実の所そうでもない。
ご学友候補の中には彼のようにまだ幼さを残した子供や、愛らしさを武器にする為に敢えて残している子供も居た。
けれども彼の言い方は殊更愛らしいと思ったし、また、その声がどの子供達の中でも一等に心地好く感じたのだ。
もっと話したい。
もっと声を聞きたい。
もっと傍に居たい。
その視線の先に、常に居たい。
そう思うのは必然なことのように思えた。
顔を上げた彼が、ふんわりと微笑む。
緊張しているのか、どこか固い笑顔だった。
その事実が、悔しくてたまらない。
嗚呼、どうか、どうか自然な笑顔を見せて欲しい。
言葉を返しながらも、頭の中はそればかりだった。
このままずっと、彼と二人だけの時間を過ごせたら。
しかし残念ながら、時間は有限だ。
彼の後ろにもご学友候補の子供達は並んでいる。
決められた時間きっかりに、それでも緩やかに会話を終わらせて、彼はその場から去って行った。
仕方ない。
でも彼がご学友候補である限り、いつだって話し掛ける機会はある。
いつだって、会えるんだ。
『気になる子は居たかい?』
全ての子供達との会話が終わったすぐ後、父がそう聞いてきた。
そこに含まれた意味に気付くことなく、【僕】は素直に口にした。
気になる子の名前を………彼の、名前を。
それが後に彼に多大なる不幸を与えることになるんだと気付かずに。
だって、知らなかったんだ。
父と伯父が同じ質問をしていたなんて。
しかもよりによって自分と従兄弟が同じ人物の名前を言ったなんて、知らなかったんだ。
笑顔にしたい、笑顔になって欲しい。
幸せにしたい、幸せになって欲しい。
そう思っていた自分こそが、彼を不幸にする存在だなんて思ってなかったんだ。
いや、本当は知っていたのかもしれない。
気付いていて、気付いていないフリをしていたのかもしれない。
今となってはもう分からない。
不幸への道へ徐々に徐々に導いているクセに、必死になって彼の隣に立った。
三人で居れば大丈夫なんて、本気でそう思っていた。
ずっとずっと三人で居れるって、本気でそう思っていた。
自分の立場も権力も理解せず。
ただ、愚かにも彼に恋をしていた。
『ルイ。』
『あ、ドミニク様!』
君の名前を呼べば、君が嬉しそうに振り返ってくれる。
俺の名前を呼んで、駆け寄ってくれる。
その幸せはずっとずっと続くんだと、信じていた。
例えばこの先、君が誰か違う人と結婚したとしても―――
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