【加筆修正済】貴方に幸せの花束を

かかし

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中編

荷解きもそこそこに寝たい

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寮で受付を済ましている間、御者は御者なのに荷物を全部玄関に運び出してくれた。
因みに大きい荷物は管理している職員さん達が運んでくれるらしい。
なので着替えが入った鞄とか、勉強道具とかを入れた鞄とかだけでいいんだけど、そもそもそれだけとはいえ御者の仕事じゃない。
申し訳ない………。

「やりたくてやってるから良いんですよ。じゃあ坊ちゃん、頑張ってくださいね。無理だけは絶対しないように!」

御者がそう言って帰って行くのをしっかりと見送って、僕は改めて新しい生活の場所になる学園の寮を見上げた。
以前の僕が暮らしていた寮よりは確かに質素に見えないこともないが、それでも十分過ぎる程に豪華な造りだからすごく緊張する。
取り合えず、荷物を早く部屋に置こう。
同室の子はまだ寮に着いていないということだったけど、いつ来るかは分からないから邪魔になっちゃうかもしれない。
その子も多分、荷物は多いだろうし。
それで僕が終わってなかったら、多大なる迷惑をかけてしまう。

それはとっても宜しくない。

気合いを入れて、鞄を二つ抱える。
ちょっと重いけど、持ち方を工夫さえすれば僕一人でも不可能じゃない重さだ。
そもそも使用人を入れられない一般寮で暮らすなら、一人で何でも出来ないようにならないとダメだろう。

幸い僕に宛がわれたのは二階だから、ちょっと頑張れば到着する………筈。

階段も急じゃないしそう段数多くないしと、自分で自分を励ましながらせっせせっせと階段を上って部屋を目指す。
ふぅ、遠い。
あ、いや、違う。
近くはないけど頑張る。
踊り場に掲示している地図には宛がわれた部屋が「端っこだよ!」と表記してあってちょっと絶望したけど、逆に僕が運ぶべき荷物はこれだけだから運んでしまえばもうお終いだ!
うん!頑張ろう!

そう心の中で自分自身を励ましながら、なんとか部屋の前まで到着することが出来た。
はぁ………疲れた………荷解きもそこそこに寝たい気持ちもある。
いや、寝ないけど。
荷解きちゃんとするけども!!

「ふふっ。」
「え?」

そう思いながら部屋の前に荷物を置いて小休憩ついでにさっき預かった鍵を取り出していると、鈴を転がすような声で誰かが笑った。
誰か居るなんて思ってなくてビックリして振り返ると、そこに居たのは可愛らしい垂れ耳うさぎの獣人さん。
大きな目に小さな顔、金髪が光に反射してキラキラとしているように見えて、あまりのキレイさに言葉を失ってしまう。

「ごめんね、あまりにも危なっかしくて一生懸命だったから、つい見ちゃった。」
「あ、ごめんなさい………邪魔だった?」
「ううん。」

クスクスと、ウサギさんは微笑みながら否定する。
邪魔じゃないなら、なんで見られてたんだろうか?
そう思っていると僕が床に置いていた鞄を一つ、獣人さんはひょいっと手に取った。
結構重いしウサギさんはこんなにも細く見えるのに、やっぱり獣人さんは力持ちだなぁと感心してしまう。

「開けて?」
「あ、うん!」

獣人さんに言われるがまま部屋を開ける。
そういえば、ご挨拶してない。
この人誰だろう。

「あの………」
「見惚れてた?僕に。」
「へぁっ?あ、うん!カッコイイなって思ってた!」

自己紹介して名前を聞こうと思ったのに、それよりも早くそう質問されたので思わず素直に答えてしまう。
でも答えを聞いた獣人さんのきょとんとした顔に、しまった間違えたかとすぐに後悔した。
どうしよう。
変な奴だって思われたよね………。
せっかく御者がたくさん特訓してくれたのに………。
やっぱり会話は難しいよ………。

「ふふっ、可愛いって言われるような容姿にしたんだけど………君から見ればカッコイイ、なんだ?」
「えっ、うん!だって軽々荷物持って、本当に凄い!僕もそうなれるかなぁ?」

でもそうではなかったらしい。
獣人さんは僕の荷物を持ったまま楽しそうにそう言って笑ってくれた。
まるでお人形さんみたいな、可愛らしい笑顔。
………はっ!見惚れてる場合じゃない!
僕の荷物!持たせたままだった!

「あ、そうだ!荷物ずっと持たせてごめんなさい!えっと、僕はルイ・アルシェントです!」

扉が閉まらないように支えながら自己紹介をする。
初対面な上に僕の荷物なのに、ずっと持たせてしまった。

「それで君は………」

お礼も謝罪も、相手の名前を知らないと難しい。
そう思いながら獣人さんに視線を合わせようとした瞬間、違和感。
ぐらりと視界が歪み、砂嵐のような、波のような音が耳の奥で聞こえてそれ以外の音がうまく聞こえない。

「僕はヘクトール。」

それなのに、獣人さんの声は寧ろさっきよりもハッキリと聞こえる気がする。
いや、でも砂嵐のような音のが大きいような気もする。
ぐわんぐわんと、頭の中に響くような―――

「ヘクターって、呼んで。    」


























一際大きなこえが聞こえる。
そういえばこの声、ドミニク様の声に似ているような気がした。
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