【加筆修正済】貴方に幸せの花束を

かかし

文字の大きさ
36 / 51
中編

白昼夢でも見ていたのだろうか

しおりを挟む
「ハロー、ハロー。メールだよ。」

ルイに一方的に想いと手紙を送り付けた翌日。
頭上から聞き覚えのない、しかしどこか聞き覚えのある声が聞こえた。
………頭上?
意味が分からず見上げれば、近くに植わっていた巨木の枝に、まるで猫のように寝転んでいる獣人が居た。
一体誰だと目を凝らせば、ルイといつも一緒に居るあの生意気な兎で。
無礼だと怒る前に、そもそも何故そんな所に居るんだという疑問と困惑が湧いてくる。

暗黙の了解で、一般生徒はご学友の子供達が使う校舎には近寄ってはいけないとなっている。

馬鹿馬鹿しい差別的な考えだが、王家の利益を考えるならば当然の処置なのだろう。
だからこそ、万が一見付かった際は如何なる理由があろうとも一般生徒に罰則が処せられるというのに。
兎は訝しむ私の前に軽やかに飛び降りると、何も気にすることもなく私にクリーム色の封筒を差し出してきた。

「………何だ、これは。」
「お返事。夜更かしして書いてたんだから、見てくれると嬉しいな。」

【お返事】という言葉に、思わず反応する。
俺が出した手紙は、一通しかない。
昨日ルイに出した手紙だけだ。
けれどその手紙に俺の名前は書いていないのに、どうして俺だと分かったのか。
もしかして、ルイも俺だと気付いているのか?
訝しみ、そして若干怖じ気づく俺に兎はニッコリと笑うと、更に封筒を差し出して来る。
何故だろうか。
受け取って当然だと言わんばかりの兎の態度に、従兄弟であるレオナルドを思い出してしまう。

「信じる信じないは君次第。どうするどうもしないも君次第。その選択に僕は勿論何も言わないし、もきっと何も言わないよ。」

まどろっこしい言い方。
ますますレオナルドを思い出して、少しばかり不愉快だった。
どう考えても胡散臭い態度。
しかし何故だろうか。
コイツは私に、ような気がした。

「………受け取ろう。」
「うん!どーぞ!」

ニコニコと、兎が封筒を渡す。
これが本当にルイからの返信なのかは分からない。
前の俺は一度だって、受け取ったことはないんだから。
けれどこれはきっと本物だろうと、俺は信じたくなった。
縋りたく、なった。

「ありがとう。」

自然と、礼を伝えて兎の頭を撫でていた。
どうしてこんな行動をしてしまったのか分からない。
しかし兎が満足気に笑うから、きっと正解なんだろうと思う。

「じゃあ、今  ちゃ   でね。」

手を離した瞬間、ザーザーと砂嵐のような音が耳の奥で鳴り始める。
兎が何を言ったのかが聞こえず聞き返そうとしたが、そのタイミングで立っていられない程の眩暈がした。
一瞬だけとはいえ、咄嗟にたたらを踏み耐えながら兎を見ると―――

「は?居ない?」

もう、目の前には誰も居なかった。
砂嵐のような音も聞こえず、代わりに学生達の賑やかな声が聞こえた。
そう言えば、兎が居た時は兎の声しか聞こえなかった。
生徒達の声はおろか、風に揺られた木のざわめきすらも。

白昼夢でも見ていたのだろうか。

しかし、私の手元には確かにクリーム色の封筒があった。
何だったのだろうか。
もしかして、また偽物なのか?

『その選択に僕は勿論何も言わないし、もきっと何も言わないよ。』

先程の兎の言葉が、頭の中を反響する。
しかし不思議と、それ以上は疑うという選択肢が浮かばなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 【たくさんの“いいね”ありがとうございます】 【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。 2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました 2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。 様々な形での応援ありがとうございます!

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

処理中です...