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後編
ノイズ
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誰もが寝静まったような深夜。
レオナルドは静かにベッドから抜け出し、バルコニーへと向かった。
気温は暖かくもなく、それでいて寒くもない。
ありえない程に何も感じない気温の中で、レオナルドはゆっくりと息を吐いた。
「ヘクター。」
そして短く、名前を呼ぶ。
すると誰も居ない筈の空間に、砂嵐のような耳障りな音と共に兎の獣人が現れた。
まるで、最初からそこに存在していたかのように。
背景の一部だったかのように。
「ハロー、ハロー。今日は夜更かしさんなんだね。」
「ああ。昔を思い出してね。おいで。」
ヘクターの問いかけに、レオナルドは微笑みながらそう返して手招きをする。
王子の御前。
本来であれば誰もが躊躇するような状況に、ヘクターは気にすることもなく。
それどころか当たり前のように、その隣に歩み寄った。
二人が一体どういう関係なのか。
誰かが見ていれば首を傾げ警戒したろうに、レオナルドの寝室には不自然に誰も居ない。
護衛の騎士ですら、誰も。
「良い子だ、ヘクター。………二人の調子は、どうだ?」
「今の所は順調だよ。」
そっとその頬をレオナルドが撫でれば、ヘクターはにこにこと笑いながら答える。
しかし何故だろうか。
そこに何の感情も乗っていないように聞こえてしまう。
単調な、声色のように。
「………今度こそ、うまくいくよな。」
しかしそれを気にすることなく、レオナルドはそう呟いた。
それはヘクターに問いかけているようにも、或いは自分自身に言い聞かせているようにも聞こえる。
実際、そのどちらでもあるのだろう。
「ねぇ、僕可愛い?」
だからこそ、ヘクターは敢えて何も答えなかった。
否、答えることが出来なかった。
その代わり、先程は全く違う話題を出しながらくるりとその場で回る。
しかしそんな不敬としか言いようのない態度すら、レオナルドは気にすることはない。
寧ろ微笑ましそう位な表情を浮かべて頷いた。
「ああ、可愛いよ。その服は、ルイが昔着ていた寝間着かな?」
「うん!寝間着のイメージ。この姿ならこれが一番合うかなって思って。」
「ああ、懐かしいな………」
恍惚の表情を浮かべ、レオナルドはヘクターを見た。
否、正確にはヘクター越しにルイの姿を見ていた。
少し大きめの、ふわふわもこもことした素材のパーカー付きの寝間着。
それは幾度目かまでのルイが愛用していた、レオナルドとドミニクの二人で購入してプレゼントした三人揃いの寝間着だった。
「こんなにも似合うなら、お前にも買ってやれば良かった。」
「ううん、大丈夫。だってどうせ着れないし。でも、ありがとう。」
そう思ってくれるのが嬉しいのだと、ヘクターは笑う。
その言葉には矛盾が満ちていたのだが、気にしている者は誰も居ない。
何故ならばここには本当に、誰も居ないからだ。
「ねぇ、 。」
「ん?またかヘクター。最近ノイズが酷いな。」
言語ではなく砂嵐のような耳障りな音を発したヘクターに、レオナルドは心配そうな顔を向けた。
不快感は無い、純粋な心配の表情。
その顔はまだ自分に向いてくれるのか。
ヘクターはそう思いながらも、微笑みを崩すことはない。
そういう風に、出来ているのだから。
「こういう風にプログラム組んだの初めてだから、調子が悪いのかも。」
「頼むから、無理はするな。お前まで失いたくはない。」
―――それはどういう意味?
微笑みながら、ヘクターは言葉を飲み込む。
そこを問うのは、自分ではないと分かっているから。
そっと目を閉じて、小さく俯き首を横に振る。
「うん。大丈夫だよ。」
そうして言葉の代わりに、ヘクターはレオナルドを抱き締めた。
いつかの日、ルイがヘクターにそうしてくれたように、不安そうなレオナルドの背中を撫でる。
家族にはそうするのだと、他でもないルイが教えてくれたのだから。
「さぁ、寝ましょう。寝ないと夢は見れません。グッナイ。」
「そうだな。おやすみ、ヘクター。」
ヘクターの額にキスをして、レオナルドはバルコニーを離れてベッドへと戻った。
そうしてベッドに戻った時、また一層大きな音がした。
だがそれをレオナルドは気にしない。
気にすることが、出来ないのだから。
「ねぇ、お父さん。貴方の望む幸せに、私と貴方の姿はありますか?」
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修正の為アバターC-1956【Hector】を一時遮断します
レオナルドは静かにベッドから抜け出し、バルコニーへと向かった。
気温は暖かくもなく、それでいて寒くもない。
ありえない程に何も感じない気温の中で、レオナルドはゆっくりと息を吐いた。
「ヘクター。」
そして短く、名前を呼ぶ。
すると誰も居ない筈の空間に、砂嵐のような耳障りな音と共に兎の獣人が現れた。
まるで、最初からそこに存在していたかのように。
背景の一部だったかのように。
「ハロー、ハロー。今日は夜更かしさんなんだね。」
「ああ。昔を思い出してね。おいで。」
ヘクターの問いかけに、レオナルドは微笑みながらそう返して手招きをする。
王子の御前。
本来であれば誰もが躊躇するような状況に、ヘクターは気にすることもなく。
それどころか当たり前のように、その隣に歩み寄った。
二人が一体どういう関係なのか。
誰かが見ていれば首を傾げ警戒したろうに、レオナルドの寝室には不自然に誰も居ない。
護衛の騎士ですら、誰も。
「良い子だ、ヘクター。………二人の調子は、どうだ?」
「今の所は順調だよ。」
そっとその頬をレオナルドが撫でれば、ヘクターはにこにこと笑いながら答える。
しかし何故だろうか。
そこに何の感情も乗っていないように聞こえてしまう。
単調な、声色のように。
「………今度こそ、うまくいくよな。」
しかしそれを気にすることなく、レオナルドはそう呟いた。
それはヘクターに問いかけているようにも、或いは自分自身に言い聞かせているようにも聞こえる。
実際、そのどちらでもあるのだろう。
「ねぇ、僕可愛い?」
だからこそ、ヘクターは敢えて何も答えなかった。
否、答えることが出来なかった。
その代わり、先程は全く違う話題を出しながらくるりとその場で回る。
しかしそんな不敬としか言いようのない態度すら、レオナルドは気にすることはない。
寧ろ微笑ましそう位な表情を浮かべて頷いた。
「ああ、可愛いよ。その服は、ルイが昔着ていた寝間着かな?」
「うん!寝間着のイメージ。この姿ならこれが一番合うかなって思って。」
「ああ、懐かしいな………」
恍惚の表情を浮かべ、レオナルドはヘクターを見た。
否、正確にはヘクター越しにルイの姿を見ていた。
少し大きめの、ふわふわもこもことした素材のパーカー付きの寝間着。
それは幾度目かまでのルイが愛用していた、レオナルドとドミニクの二人で購入してプレゼントした三人揃いの寝間着だった。
「こんなにも似合うなら、お前にも買ってやれば良かった。」
「ううん、大丈夫。だってどうせ着れないし。でも、ありがとう。」
そう思ってくれるのが嬉しいのだと、ヘクターは笑う。
その言葉には矛盾が満ちていたのだが、気にしている者は誰も居ない。
何故ならばここには本当に、誰も居ないからだ。
「ねぇ、 。」
「ん?またかヘクター。最近ノイズが酷いな。」
言語ではなく砂嵐のような耳障りな音を発したヘクターに、レオナルドは心配そうな顔を向けた。
不快感は無い、純粋な心配の表情。
その顔はまだ自分に向いてくれるのか。
ヘクターはそう思いながらも、微笑みを崩すことはない。
そういう風に、出来ているのだから。
「こういう風にプログラム組んだの初めてだから、調子が悪いのかも。」
「頼むから、無理はするな。お前まで失いたくはない。」
―――それはどういう意味?
微笑みながら、ヘクターは言葉を飲み込む。
そこを問うのは、自分ではないと分かっているから。
そっと目を閉じて、小さく俯き首を横に振る。
「うん。大丈夫だよ。」
そうして言葉の代わりに、ヘクターはレオナルドを抱き締めた。
いつかの日、ルイがヘクターにそうしてくれたように、不安そうなレオナルドの背中を撫でる。
家族にはそうするのだと、他でもないルイが教えてくれたのだから。
「さぁ、寝ましょう。寝ないと夢は見れません。グッナイ。」
「そうだな。おやすみ、ヘクター。」
ヘクターの額にキスをして、レオナルドはバルコニーを離れてベッドへと戻った。
そうしてベッドに戻った時、また一層大きな音がした。
だがそれをレオナルドは気にしない。
気にすることが、出来ないのだから。
「ねぇ、お父さん。貴方の望む幸せに、私と貴方の姿はありますか?」
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