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後編
死に損なった僕の見る、夢なのかもしれない。
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「………あれ?」
朝起きて、感じたのはどうしようもない静けさだった。
何でだろうか。
僕は人数の都合で二人部屋を一人で使っていたから、この静けさは当たり前な筈なのに。
ベッドから下りて、共有スペースに行って。
そのしんとした静けさに、誰も居ない寂しさに。
当たり前の筈なのに、僕は漠然とした不安を感じた。
もしかして、ずっとこのままなの?
『グッモーニン。早起きさんできたね。』
ずっとって何だろう。
最初からなのに。
でも僕、入寮した時からずっと誰かと一緒だった気がするんだ。
優しくて、意外と力持ちで恰好良くて、頼り甲斐がある。
僕達の、愛しい子―――
「………取り敢えず、早く行こう。」
ざらりと、頭の中で何かを掻き回されたような感覚がする。
なんだろう。
なんでこんなに不安なんだろう。
玄関でもう一度だけ振り返る。
誰も居ないのが正解なのに、なんだかすごく間違っているような気がしてならない。
「行ってきます。」
誰に言う訳でもなく、呟いた。
早く起きないと、学校遅刻しちゃうよ。
僕はそう思いながら、寮室を出て行った。
お腹がぐるぐるする。
何か変だ。
でも、何が変なのかが分からない。
誰かが居ない気がするのに、誰が居ないのかが分からない。
自分が薄情な人間になったような気がしてしまう。
その違和感は教室に行っても続く。
クラスメイトの人達と挨拶して自分の席に座るんだけど、やっぱり足りない。
皆はいつも通りに僕と話したりしてるけど、誰もこの違和感に気付いてくれた人は居ないのだけれど。
だけどやっぱり、僕の中にはずっとずっと大きな寂しさがあった。
この違和感は僕だけなのだろうか。
他の人達は、本当に何も感じてないの?
「ルイ、どうしたの?」
「ううん、大丈夫だよ。」
「本当?ちょっと元気ないみたいだったから。」
「うん、大丈夫。心配掛けてごめんね、―――」
ソワソワしていたせいか、クラスメイトの子が心配そうにそう聞いてきた。
心配掛けちゃった、申し訳ないなって思いながら謝ろうとして………言葉に詰まる。
あれ………?
そういえば、この子の名前、なんだっけ?
そのことに気付いた瞬間、ぞわりと背中に悪寒が走った。
この子だけじゃない。
僕はこのクラスの子達の名前を、誰一人知らない。
消えてしまった、あの子以外。
いや、今、僕は誰の名前も知らない!
「………あ、で、も、やっぱりちょっと体調悪いかも………」
「大丈夫?」
「うーん………医務室で、休んでちょっと考える………」
そう言って誤魔化して、僕は教室から逃げ出した。
背後から聞こえる賑やかさが僕が教室を出た途端にピタリと止んで、そして今度は今まで静かだった廊下が騒がしくなった。
さっきのさっきまで、廊下にこんなに人が居ただろうか?
おかしい。
おかしい!
耐えきれず、僕は逃げ出すように走った。
賑やかさが、追い掛けて来るように僕の周りを囲む。
走っているのに、誰も僕に見向きもしない。
マナーにうるさい筈の教師ですら!
医務室に行くのも怖い。
でもじゃあ、どこに?
どこになら逃げ場がある?
がむしゃらに走って、そうして逃げ込んだのは食堂横の倉庫裏………の近くの茂みの奥。
以前の僕と、以前のドミニク様だけが知ってる秘密の場所。
イイ感じに日が当たるけど誰も気付いてないこの場所に気付いたのは、最初は誰だったか。
誰?
でも僕とドミニク様だけが知ってる場所で。
嗚呼、でも、ここを見付けたのは僕でもドミニク様でもなかった気が―――
「………ルイ?」
知らない記憶。
知ってる筈なのに分からない記憶。
そのどれもに恐怖して蹲って泣いていたら、慣れた様子で茂みを掻き分ける音と共にずっと聞きたかった声が聞こえて顔を上げる。
そこには、困惑の表情を浮かべたドミニク様が居た。
「ルイ何で泣いて………!誰に何をされた?お前といつも一緒に居た兎はどうした!?」
なんで、ここに?
その疑問は、僕の頬を伝う涙を指で拭われた瞬間に飛散する。
温かい。
目が合う。
声も顔も、名前も分かる。
迷惑かもしれない。
気持ち悪がられているかもしれない。
そんな感情よりも、自分勝手な嬉しさが上回ってしまい腕を伸ばしてしまう。
「ドミニク様、ドミニクさまぁ………!」
「ああ、どうしたんだルイ。私はここに居るよ。」
ボロボロと泣きながら不敬にも伸ばしてしまった僕の手を引き、ドミニク様はそう言って優しく抱き締めてくれた。
たった一人居ないだけで、ぐちゃぐちゃになった世界。
僕はずっと巻き戻った世界だと思っていたけれど、本当にそうなのだろうか。
もしかしたらこれは、死に損なった僕の見る、夢なのかもしれない。
だってドミニク様が僕を抱き締めて背中を撫でてくれるなんて、そんな現実がある筈ないのだから。
朝起きて、感じたのはどうしようもない静けさだった。
何でだろうか。
僕は人数の都合で二人部屋を一人で使っていたから、この静けさは当たり前な筈なのに。
ベッドから下りて、共有スペースに行って。
そのしんとした静けさに、誰も居ない寂しさに。
当たり前の筈なのに、僕は漠然とした不安を感じた。
もしかして、ずっとこのままなの?
『グッモーニン。早起きさんできたね。』
ずっとって何だろう。
最初からなのに。
でも僕、入寮した時からずっと誰かと一緒だった気がするんだ。
優しくて、意外と力持ちで恰好良くて、頼り甲斐がある。
僕達の、愛しい子―――
「………取り敢えず、早く行こう。」
ざらりと、頭の中で何かを掻き回されたような感覚がする。
なんだろう。
なんでこんなに不安なんだろう。
玄関でもう一度だけ振り返る。
誰も居ないのが正解なのに、なんだかすごく間違っているような気がしてならない。
「行ってきます。」
誰に言う訳でもなく、呟いた。
早く起きないと、学校遅刻しちゃうよ。
僕はそう思いながら、寮室を出て行った。
お腹がぐるぐるする。
何か変だ。
でも、何が変なのかが分からない。
誰かが居ない気がするのに、誰が居ないのかが分からない。
自分が薄情な人間になったような気がしてしまう。
その違和感は教室に行っても続く。
クラスメイトの人達と挨拶して自分の席に座るんだけど、やっぱり足りない。
皆はいつも通りに僕と話したりしてるけど、誰もこの違和感に気付いてくれた人は居ないのだけれど。
だけどやっぱり、僕の中にはずっとずっと大きな寂しさがあった。
この違和感は僕だけなのだろうか。
他の人達は、本当に何も感じてないの?
「ルイ、どうしたの?」
「ううん、大丈夫だよ。」
「本当?ちょっと元気ないみたいだったから。」
「うん、大丈夫。心配掛けてごめんね、―――」
ソワソワしていたせいか、クラスメイトの子が心配そうにそう聞いてきた。
心配掛けちゃった、申し訳ないなって思いながら謝ろうとして………言葉に詰まる。
あれ………?
そういえば、この子の名前、なんだっけ?
そのことに気付いた瞬間、ぞわりと背中に悪寒が走った。
この子だけじゃない。
僕はこのクラスの子達の名前を、誰一人知らない。
消えてしまった、あの子以外。
いや、今、僕は誰の名前も知らない!
「………あ、で、も、やっぱりちょっと体調悪いかも………」
「大丈夫?」
「うーん………医務室で、休んでちょっと考える………」
そう言って誤魔化して、僕は教室から逃げ出した。
背後から聞こえる賑やかさが僕が教室を出た途端にピタリと止んで、そして今度は今まで静かだった廊下が騒がしくなった。
さっきのさっきまで、廊下にこんなに人が居ただろうか?
おかしい。
おかしい!
耐えきれず、僕は逃げ出すように走った。
賑やかさが、追い掛けて来るように僕の周りを囲む。
走っているのに、誰も僕に見向きもしない。
マナーにうるさい筈の教師ですら!
医務室に行くのも怖い。
でもじゃあ、どこに?
どこになら逃げ場がある?
がむしゃらに走って、そうして逃げ込んだのは食堂横の倉庫裏………の近くの茂みの奥。
以前の僕と、以前のドミニク様だけが知ってる秘密の場所。
イイ感じに日が当たるけど誰も気付いてないこの場所に気付いたのは、最初は誰だったか。
誰?
でも僕とドミニク様だけが知ってる場所で。
嗚呼、でも、ここを見付けたのは僕でもドミニク様でもなかった気が―――
「………ルイ?」
知らない記憶。
知ってる筈なのに分からない記憶。
そのどれもに恐怖して蹲って泣いていたら、慣れた様子で茂みを掻き分ける音と共にずっと聞きたかった声が聞こえて顔を上げる。
そこには、困惑の表情を浮かべたドミニク様が居た。
「ルイ何で泣いて………!誰に何をされた?お前といつも一緒に居た兎はどうした!?」
なんで、ここに?
その疑問は、僕の頬を伝う涙を指で拭われた瞬間に飛散する。
温かい。
目が合う。
声も顔も、名前も分かる。
迷惑かもしれない。
気持ち悪がられているかもしれない。
そんな感情よりも、自分勝手な嬉しさが上回ってしまい腕を伸ばしてしまう。
「ドミニク様、ドミニクさまぁ………!」
「ああ、どうしたんだルイ。私はここに居るよ。」
ボロボロと泣きながら不敬にも伸ばしてしまった僕の手を引き、ドミニク様はそう言って優しく抱き締めてくれた。
たった一人居ないだけで、ぐちゃぐちゃになった世界。
僕はずっと巻き戻った世界だと思っていたけれど、本当にそうなのだろうか。
もしかしたらこれは、死に損なった僕の見る、夢なのかもしれない。
だってドミニク様が僕を抱き締めて背中を撫でてくれるなんて、そんな現実がある筈ないのだから。
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