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後編
でも、否定しないで欲しい
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得体も知れない恐怖に震え、わんわんと子供のように泣き続ける僕を、ドミニク様は辛抱強く背中を摩って慰めてくれた。
優しく頭を撫でてくれた。
まるで婚約していた頃のような優しい手付き。
そこでハッと気付く。
多分だけど、以前のドミニク様は婚約していた頃から僕のことを良く思ってなかった。
今のドミニク様に関しては、殆ど関りがない。
そんな状態で婚約者でも友人でもないのに下位の家の者が、尊いお名前を呼んで抱き着いて泣き喚くなんて、なんたること!
そう気付いた瞬間、ひゅんと涙が引っ込んだ。
「ルイ、大丈夫だよ。」
離れよう。
そして誠心誠意の謝罪を………!
そう思って身を捩ると、何故か逆に強く抱き締められてしかも頭のてっぺんにキスをされた。
えっ?
………なんで?
「ああ、目が腫れてしまってるね。」
「んっ」
顎をすくわれ上を向かされたと思ったら、目元に優しくキスをされる。
以前の僕が泣いた時に、以前のドミニク様がよくしてくれた動作だ。
嬉しい。
ふわふわする。
やっぱり僕の都合の良い夢なのかな?
「痛い?」
「ううん、痛くない………」
いけないって分かってても、口調が以前のモノに戻ってしまう。
不敬なのに、でも、眦に何度も何度もキスをされたら嬉しくてふわふわしてしまうのは仕方ない話だ。
思わず甘えるように擦り寄れば、嬉しそうに目を細めているドミニク様と目が遭う。
視界の端には、ふらふらと揺れる漆黒の尻尾。
どうして、そんなに嬉しそうなの?
でも思えば、ドミニク様が出陣命令で家を空ける前までは、いつもこんな顔をしていた気がする。
どうして?
でもあの人は、いつも我慢していたと言っていて―――
「ルイ………」
名前を呼ばれ、そっと頬を撫でられる。
キスする前にいつもしてくれてた行動。
どうして、このドミニク様がそれをするの?
疑問に思うよりも早く、腰を抱き寄せられて顔が近付いてくる。
それに釣られるように、僕も顔を寄せてしまう。
今は、全ての疑問を―――
カサッ
「え?」
「あっ。」
そう思っていたら、ドミニク様のポケットから何かが落ちてきた。
カサリと乾いた音を立てて落ちたそれに、ドミニク様の意識が逸れて力が抜けた。
その隙に腕の中から抜け出して、ドミニク様よりも早く【何か】を拾う。
何故そんな不敬極まりないことをしたのかは分からない。
でも僕は、その見覚えのある淡い青色の封筒を拾わなければいけないと思ったのだ。
「これ………どうしてドミニク様が………」
「そっ、れは………」
僕の問いに、ドミニク様は辛そうな表情で俯いた。
いつもハッキリと意見を言う彼らしくない。
さっきまで嬉しそうに振られていた尻尾も、すっかり元気無くなってしまっている。
聞くべきではないのか。
でも、聞かないといけないと、僕の中で僕が叫んでいる。
「僕宛ての、お手紙ですよね?それをどうして貴方が持っているのですか………?」
声が震える。
否定して欲しい。
でも、否定しないで欲しい。
「こ、これは………」
ドミニク様が、僕に負けず劣らずの震えた声で語り始める。
僕の予想だにしない、内容まで。
優しく頭を撫でてくれた。
まるで婚約していた頃のような優しい手付き。
そこでハッと気付く。
多分だけど、以前のドミニク様は婚約していた頃から僕のことを良く思ってなかった。
今のドミニク様に関しては、殆ど関りがない。
そんな状態で婚約者でも友人でもないのに下位の家の者が、尊いお名前を呼んで抱き着いて泣き喚くなんて、なんたること!
そう気付いた瞬間、ひゅんと涙が引っ込んだ。
「ルイ、大丈夫だよ。」
離れよう。
そして誠心誠意の謝罪を………!
そう思って身を捩ると、何故か逆に強く抱き締められてしかも頭のてっぺんにキスをされた。
えっ?
………なんで?
「ああ、目が腫れてしまってるね。」
「んっ」
顎をすくわれ上を向かされたと思ったら、目元に優しくキスをされる。
以前の僕が泣いた時に、以前のドミニク様がよくしてくれた動作だ。
嬉しい。
ふわふわする。
やっぱり僕の都合の良い夢なのかな?
「痛い?」
「ううん、痛くない………」
いけないって分かってても、口調が以前のモノに戻ってしまう。
不敬なのに、でも、眦に何度も何度もキスをされたら嬉しくてふわふわしてしまうのは仕方ない話だ。
思わず甘えるように擦り寄れば、嬉しそうに目を細めているドミニク様と目が遭う。
視界の端には、ふらふらと揺れる漆黒の尻尾。
どうして、そんなに嬉しそうなの?
でも思えば、ドミニク様が出陣命令で家を空ける前までは、いつもこんな顔をしていた気がする。
どうして?
でもあの人は、いつも我慢していたと言っていて―――
「ルイ………」
名前を呼ばれ、そっと頬を撫でられる。
キスする前にいつもしてくれてた行動。
どうして、このドミニク様がそれをするの?
疑問に思うよりも早く、腰を抱き寄せられて顔が近付いてくる。
それに釣られるように、僕も顔を寄せてしまう。
今は、全ての疑問を―――
カサッ
「え?」
「あっ。」
そう思っていたら、ドミニク様のポケットから何かが落ちてきた。
カサリと乾いた音を立てて落ちたそれに、ドミニク様の意識が逸れて力が抜けた。
その隙に腕の中から抜け出して、ドミニク様よりも早く【何か】を拾う。
何故そんな不敬極まりないことをしたのかは分からない。
でも僕は、その見覚えのある淡い青色の封筒を拾わなければいけないと思ったのだ。
「これ………どうしてドミニク様が………」
「そっ、れは………」
僕の問いに、ドミニク様は辛そうな表情で俯いた。
いつもハッキリと意見を言う彼らしくない。
さっきまで嬉しそうに振られていた尻尾も、すっかり元気無くなってしまっている。
聞くべきではないのか。
でも、聞かないといけないと、僕の中で僕が叫んでいる。
「僕宛ての、お手紙ですよね?それをどうして貴方が持っているのですか………?」
声が震える。
否定して欲しい。
でも、否定しないで欲しい。
「こ、これは………」
ドミニク様が、僕に負けず劣らずの震えた声で語り始める。
僕の予想だにしない、内容まで。
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