すれ違い夫婦の不幸な結婚

かかし

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本編

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これは不幸な結婚だ。
誰も彼もが不幸にしかならない結婚。

誰にも望まれていないと分かっていながらも娘を差し出さないといけない両親も。
家の為とは言え、容姿も器量も悪いフィメールΩを嫁として迎えなければいけない彼の両親も。
そして、そんな私と結婚しなければいけない、数多のΩやフィメールβやフィメールαすらも虜にする程に才能も将来性にも溢れる美しい彼も。
今から執り行われる挙式に参列する参列者も皆。
初恋の人と、例えままごと以下とはいえ結婚することが出来た私を除き、誰も彼もが不幸にしかならない結婚だ。

「新郎義之よしゆき、貴方はここに居る汐里を、病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、妻として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」
「誓います。」

そんなこと、嘘でも誓いたくないだろうに。
可哀想に。
本当に、申し訳ないと思う。
更に言うなら嘘でも誓ってくれて嬉しいと思ってしまうのが本当に申し訳ない。

「新婦汐里しおり、貴方はここに居る義之を、病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、夫として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」
「………誓います。」

それは、本当だ。
でもきっと、三年も経てば彼は私の夫ではなくなるだろう。
だってこの後の初夜は訪れないし、それどころかきっと、発情期に抱いてすらもらえないのだろうから。
番ってももらえないだろう。

Ωにとって屈辱でしかない事実。
けれども仕方ない話だ。
だって、彼には愛するフィメールαが居るのだから。
でも私の結婚はどうしても必要だからと諦めざるを得なかったと聞いている。

誰からって?

そのお相手らしいフィメールαからだ。
泣きながら彼を返して欲しいと言われた時に、私はこの人も可哀想だなと思った。
本当に、私以外が不幸な結婚だ。
私には同じフィメールΩの妹が居る。
私とは違い、とても可愛らしく両親も愛している妹だ。
そんな妹でなく何故私なのかと思ったが、フィメールαの存在でなるほど納得。
妹が不幸になるのは想像に容易かったからだろう。

『大丈夫ですよ。だって、んですから。』

だから私はそう言ってその人を慰めた。
初夜が訪れないと言ったのはそういう意味だ。
私はこの式が終わった直後、α厳禁のΩ専用マンションに住まいを移るように両親から言われている。
彼と彼の両親に、これ以上は不快な思いをさせないようにと。

『だから、大丈夫ですよ。』

安心して欲しくて、私は笑った。
彼女の顔が引きつったように見えたのは、きっと私の顔が見るに堪えなかったからだろうと思った。
いつも両親は私にそう言っていたから、きっと彼女もそう思ったのだろうと思った。

きっと今、このウエディングドレスを着て彼の隣に並びたかったのはあの美しいフィメールαだった筈だ。
その光景を思い浮かべて、まるでジグソーパズルがぴったりとハマったような美しさに私は思わず涙を浮かべた。
彼だって、そうあって欲しかったのは彼女だった筈だ。

嗚呼、本当に私以外、誰も得しない結婚式だ。
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