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ようこそ、ここは―――

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アンナと暮らしていた頃、アンナに食わせる分を優先して自分はロクな食い方をしていなかったからか、昼飯位抜いても特に問題が無く動くことができる。
だから俺は昼休憩になって直ぐ、エドワード様と約束をした場所に向かった。
万が一話が長引いて昼飯が食べられなくても問題ない。
それよりもさっさと終わらせたかったから、昼休憩始まって直ぐの時間を指定したのだ。

「お待たせ致しました。」
「いや、こっちこそ貴重な休憩時間に申し訳ない。」

………一応、それなりに常識あるのね。
失礼ながらもそう思ってしまったのは、貴族に対する偏見の所為だろう。
貴族は平民の都合なんて何一つ考えない。
何なら商会に客として来る貴族はそういう奴らばかりだし、悪質なクレーマーも大体が貴族連中だ。

この街に来る貴族連中、品が無いんだよ貴族の癖に。

そういう奴らばかり見て来たから、正直エドワード様も人見知りと口下手なだけの【そういう奴ら】なんだろうと思ってたんだが………うーん。偏見はやっぱりあまり良くないのかな?
ちょっとだけ、罪悪感がある。

「その、これは本当はずっと言うまいと思っていたんだが、最後になるならば私も覚悟をしようと思って。」

ごにょごにょと、エドワード様が言葉を濁す。
なんだよ、覚悟って。
やっぱりクレームなのかと思わず身構えてしまったが、実際の言葉は、俺にとってもっともっと最悪なものだった。

「………私は一度、君と会ったことがある。」
―――神殿で。

一瞬、なんのことか分からなかった。
けれど俺が殿に行ったことが、一度だけあった。
あの日。
アンナと共に行ったあの神殿だ。
そこでとして、そのが心当たりあるのもまた、一つある。

「あの時の、騎士………!」
「そう、だ。あの時は………」
「一体何の用だ!?何で、何で今更!」

俺は何かを言おうとしたエドワード様を遮って、距離を取る。
あの時の騎士が、俺があの時の男だと分かっていて近寄った。
何のためかなんて決まっている。
アンナという聖女の黒歴史を、完全に無かったことにする為だろう。

「俺は今まで誰にもアンナのことを話していないだろう!?近寄りも関りもしないと………俺が来月行く所だって、王都からもアンナと住んでいた街からも離れていた場所だ!!」
「ち、ちがっ………!」

エドワード様が、俺に向かって手を伸ばす。
帯刀自体はしていないが、俺は魔力も無ければ筋肉も無いようなひ弱な一般人以下の存在だ。
殺そうと思ったら、その伸ばされた掌だけでできる。

「信じられないからって、殺すのかよ!お前らにとって、俺の存在は羽虫以下か!?」
「違う!本当に違うんだ!聞いてくれ………!」

一気に距離を詰めて来る騎士。
その腕から逃げようとして踵を返した瞬間、昨夜の雨でぬかるんでいた地面に足を取られる。
あっ、と思った時にはもう、目の前に時折寄りかかって身体を休めているお気に入りだった岩が。

「シューヤ!!」

ガツンッと、カートゥーンみたいな音が聞こえる。
あ、本当にこんな音するんだとどこか他人事に思いながら、この場には居ない筈の人の声を聞いた気がした。
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